第14話 ヒーローへの一歩

 ヒーロースーツを前にして、キャプテンは目が釘付けになっていた。


 先ほどまでの不貞腐れた態度が嘘のように、目がキラキラと輝き始めた。そして、スーツに吸い込まれるように近づくと、隅々まで撫で回した。


「かっこいい…。」


と声を漏らす。それを聞いて丹波さんは、「だから言ったろう」と笑う。


「なんか、スーパーマンみたいじゃない?それでいいの…?あの人、憧れてたやつあったよね…?」


 清子が僕に耳打ちする。確かに、スーパーマンだ。もっと言えば、別のヒーロー(と言っていいのか)の方によく似ている。


「まあ、今時兵士は流行らないだろ?戦争の英雄は、戦争の中でしか輝けない。だから、菊の好みより、ポップさを取ったのさ。」


 丹波さんは、聴力が良いのか、僕らの疑問に勝手に答えてきた。それを聞いてキャプテンはちょっとだけ怒った。


「彼は、ただの戦争の英雄ってわけじゃない!彼は彼の信念に従って行動する。だから、国が道を外れるならば敵にもなる。正義のために足掻き続けるそんな姿が支持され愛されるんだ。だから、戦争後も僕らのヒーローとして君臨し続けるんだよ。」


「うん。ごめんねぇ。でも、このスーツはいいだろ?正義の青と情熱の赤。ヒーローにはピッタリだ。」


 丹波さんは、なだめるように言うが、キャプテンは、スーツを大層気に入ったようで、丹波さんの声なんかもう聞こえないかのようにスーツの確認に戻っていた。


「まあ、スーツはここまでで。これからが本題だ。」


 丹波さんは、ぱんっ!と手を打ち、改まった空気を作る。僕と清子は緊張して唾を飲み込む。キャプテンもスーツと密着しつつも顔を丹波さんの方に向けた。


「君たち、超特殊捜査課と協力してみない?今回の働きは、なかなか良かったよ。」


  丹羽さんの話をまとめると、何か事件が起きた時に、超特殊捜査課から情報が提供され、今回のように捜査が出来ると言うことらしい。


「あの…。なんで僕らなんですか?」


 僕は恐る恐る尋ねる。


「そうだよ。超特殊捜査課がいるのになんで?」


僕に続いて、 清子も何か裏があるんじゃないかと疑う。


 「まあまあ。落ち着いて。元々少ない超特殊捜査課の人数が、訳あって、めちゃくちゃに減っちゃったんだよ。で、仲間を増やしたいけど超能力者って本来見つからないし、信頼関係を結ぶのはより難しいだろ。」


 確かに、今回の件があるまで21年間、一度も能力者に会ったことないし、僕自身誰かに言ったこともない。


「でも、お菊は可愛い弟でいいやつだってわかってるし、君たちも悪い人間じゃないだろ?それに、機密情報とかあるから超特殊課に所属してもらうのは厳しい。あくまで、アドバイザー的な立ち位置になるな。」


それでも…。


「でも危なくないですか…?キャプテンはまだしも、僕ら言うて大した能力じゃないし。あと、内定取り消しだけは本当に困ります…。」


 危険なことはしたくない。僕はあくまで、残った大学生活でかけがえのない思い出を作りたいだけなんだ。


「大丈夫!何かあったらなんとかしてあげる!権力を大いに振るって守るし。それに君たちは無理をする必要はない。お菊のお世話がかりだから、逆に死ぬようなことはするなよ?」


 確約をもらったので、一安心。安全圏内で、貴重な経験ができるのは楽しみではある。


 そして、ずっと黙り込んでいたキャプテンも「わかった。やるよ。」と言った。清子も乗り気らしく大きく頷いている。


「そうかそうか。じゃあ、これを持っていって。」


 キャプテンの返事を聞いて、丹波さんは満面の笑みを浮かべ、レトロなスピーカーとキャプテン用のヒーロースーツを渡してきた。


 「事件とか事故があったら、この無線スピーカー入れるから、すぐ出動してね。じゃあ、また!」

 

(超特殊事件捜査課の電波系の能力者が送るため、ハッキングの心配はないらしい。)


 僕らは、急に追い出されるように部屋の外に出されてしまった。部屋の外には、僕らを案内してくれた人ではない、別の人が立っていて、「こちらに。」と別の部屋に案内され、注意事項などの説明や、契約書へのサインなどが行われた。


 2時間後やっと解放されて、帰路に着く。荷物を抱えて歩いているうちにキャプテンがぽつりと語り出す。


「今回のことで、やりたいことがはっきりしたんだ。…僕は、傷つく子どもを減らしたい。踏みつけられる前に救えるように。だから、ヒーローとして最大限活動もしていきたい。だから、僕に力を貸してほしい。」


 それを聞いて、清子も頷き、口をひらく。


「私も。私たちにできることは少ないかもだけど、一人でも幸せに笑える子を増やしていきたい。」


 ノブレスオブリージュの2人は熱いモードに入っている。


「とりあえず、事務所にお悩み相談の電話を設置するよ。」


 それに、いつかは将来をサポートできるような児童養護施設も作りたいと、キャプテンは言った。


 キャプテンの今後の抱負を聞いているうちに、焦げたような煙の匂いがしてきた。顔を上げると、そこは焼肉店だった。


 お店をボーッと眺めていると、ぎゅう〜、ぐう〜、ぎゃるるるうとお腹の音がなる。僕らは顔を見合わせて、頬を赤くし恥ずかしそうに笑った。そして、キャプテンが言う。


「ご飯食べようか。お疲れ様会だ!」






(1章おわり)

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ここまで、ありがとうございます。

2章からは、ヒーロースーツを着て活動します。

引き続きよろしくお願いします!


 

 


 

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【ある金持ちの道楽ヒーロー】 〜ヒーローやるには平和すぎるので、とりあえず"何でも屋"始めました〜  3ず @3nz

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