第13話 一件落着、キャプテン勧誘

 しゅんちゃんの不幸は、高校1年の時に父親が再婚したことから始まった。


 再婚相手にはしゅんちゃんより一つ年下の息子がいた。その子ばかりを可愛がり、しゅんちゃんを冷遇する。


 食事や洗濯などの生活は全て自分でこなし、継母からの蔑みの言葉に耐える。将来が決まる大学も、成績は申し分ないが、それが気に障ったのか、本当の志望校には願書さえ出させてもらえなかった。血のつながっているはずの父親は見て見ぬふりをして助けてくれない。


 加えて、学校でのいじめ。田中たちに超再生の能力がバレてしまい、扱いは実験の被験者のようだった。


 あの日は、普段より更に過激な実験が行われていた。その過程で目を負傷し、痛みとストレスの蓄積で、全てを終わらせたい衝動にかられた。そして、自ら目玉をえぐり出したのだった。


 結果、学校からも家からも離れることができた。世界を遮断したら気持ちが楽になったと言う。


 しかし、その平和もすぐに終わった。僕らが公園ではじめて会った日。しゅんちゃんが僕に突っ込む前の話。


 田中がしゅんちゃんの様子を伺いに来たのだ。田中に、今まで目があった場所に指を突っ込まれたので、もう我慢するかと、思いっきり突き飛ばした。しゅんちゃんは押す際に立ち上がったので、その反動で、田中は勢いよく転倒した。


 不幸は不幸を呼び寄せる。転倒した田中の頭の下には鋭利な石があった。


 田中の声が聞こえなくなって不安になっていると、耳元で別の人間の声が聞こえた。そいつは、しゅんちゃんの周りは血だらけで田中の意識はないと言う。そして、助けてほしいかと聞く。


 パニックになり助けを求めると、しゅんちゃんの目に何かを押し込んだ。驚いて顔を背け、人がいるだろう場所に目を向けると、目が見えるようになっていた。


 更に、下を見ると田中が転がっていた。その目は真っ暗な空洞だった。


 それを見て、体が熱くなった。不安や恐怖は一切感じず、なんだか自信が沸々と湧いてくる。今ならなんでも出来る気がした。しかし、瀬川さんの声が聞こえてきたので我に返ってその場から逃げ出した。それで、僕に突っ込んだと言う。


 帰宅すると、先ほどの人物がいて、田中の件は全て片付いたと言う。それで、したいことはないかと聞くので、


「自分より強い人間が、見ている世界を見てみたい。」


と伝えたのがことの次第であった。そこからは、記憶が曖昧だと言う。


 話し終える前に警察が到着し、しゅんちゃんは、パトカーに押し込まれてしまった。パトカーが走り出す前、キャプテンは、しゅんちゃんに向かって言った。


「出てきたら僕のところにおいで。ヤマオカフーズの本社の向かい側に事務所があるんだ!一緒にヒーロー活動でもしようよ!いつまでも、待ってるから!」


 清子も、目に涙を浮かべつづける。


「うち、"鈴木インテリア"なんだ。だから、こいつのところが嫌だったら、うちに連絡してくれていいから!鈴木・レベッカ・真理子宛に連絡ちょうだい!」


  鈴木インテリアも中々の老舗家具屋だ。リアルなノブレスオブリージュを目の当たりにして、僕はなんだか居心地が悪かった。そんな僕に言えることもないので、ただただ見送った。


 しゅんちゃんの乗ったパトカーが去ったあと、1人の警察官が僕らに近寄ってきた。専務が少し離れたところで事情聴取されていたので、僕らもかと身構える。


 「山岡さん?山岡菊之進さんで合ってますか?」


 警官は、キャプテンに話しかけた。

 

「そうですけど…?」


 キャプテンは不安そうに返した。


「あぁ!あなたが!だるまさん。いや、丹波(にわ)さんが、あなたを連れてこいと言うので、ちょっと仰々しいですがこのパトカーに乗ってください。」


 なんだか馴れ馴れしい。警官はキャプテンを手で案内する。僕らの方にも「あなた方もどうぞ。」と言うので、3人で車に乗り込んだ。


「は?こわ。」


 清子がぼっそと吐き捨てる。


 目的の場所は警視庁だった。僕らは”THE お偉いさんの部屋”に案内され、キャプテンを先頭に中に入る。そこには、スーツを着た短髪の男が、僕らに背を向けて立っていた。


 扉が閉まると共に、男は振り向いた。男は思ったより若く、キャプテンより少し年上そうで、顔は似ているわけでないが、どことなくキャプテンの風味が漂っている。身長はキャプテンより少しだけ高く痩せ型。社交的な雰囲気だが、どこか胡散臭い。


「お菊!元気だったか!?今回はよくやったよ。そんなお前に…。お前が喜ぶ話があって呼んだんだ。」


 体育会系。パワフル。元気。なかなかの勢いでガハガハと笑ってその人は言う。


 僕と清子が、キャプテンの方を見ると、キャプテンはいじけた子供のように口をへの字に曲げて、全く関係のない方を向いていた。


「もお〜。無視すんなってえ。本当にいい話なんだって。」


 わざと呆れたそぶりをして、今度は僕らに向かって微笑んだ。


「君たちもお疲れ様!お菊の保護者候補たち!」


 清子は白けた顔をして「いったいなんなんですか。ってか、どなた?」と聞く。


「ああ。私は、超常現象や特殊能力による事件の捜査を担当する『“超”特殊捜査課』の丹波達磨(にわたつま)。菊之進の兄です。ピース!ハートぉ!ハートぉ!」


 え?お兄さん??と衝撃を受けていると、キャプテンは聞こえるか聞こえないかギリギリの声で、「ちがう!」と呟いた。それに対して、丹波さんはなんともなさげに笑う。


「はは。僕は彼の父親の養子なんだ。」


 僕と清子は2人の微妙な空気に困惑してアイコンタクトを取るが、目がぐるぐると激しく動く、清子のアイコンタクトは難解だった。


 よく見ると、丹波さんの横には、丹波さんと同じぐらいの大きさの物体があった。そして、大きな布に覆われている。


「そんなことは置いておいて。これを見て!」


 丹波さんは、舞台俳優のように大袈裟に振る舞い、大きな動作で布を剥ぎ取った。布の下から現れたのは、恰幅のいいマネキン。


 そしてマネキンは、青と赤のぴちぴちの全身タイツとブーツを纏い、背中には内側が赤で外側が黒のマントが広がる。顔には、スキーのゴーグルのようなものが付いていた。


 …それは、まさに。まさにヒーロースーツだった。



 

 


 

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