第12話 しゅんちゃんと+a現る?
ついにしゅんちゃんとその協力者と対峙するのだと、僕らは鼻の穴を目一杯、膨らませていた。
ただ、今回社長は一緒に来てくれず、僕ら3人で高柳専務に会うことになった。高柳専務は、典型的な"昭和の男"臭をぷんぷんと放っていて、若めで世間知らずな僕たちは、大層舐められた。しゅんちゃんより前に、清子がこの化石人間を(物理的に)粉々に打ち砕いてしまうんじゃないかと、冷や冷やしたほどだ。
「あのじいさん、まじでうぜぇ。私を見てなんて言ったか聞いてた!?『その顔に、そのスタイルはナンセンスだね笑。今流行りの承認欲求…だっけ?が強すぎるのかなぁ。』ですって!!!!きんもい!!」
おじさんには、清子のスタイルが合わなかったらしく、更に、清子がそんな格好をするのは、王道じゃ勝負できないから"個性"という名の変わり種で身を守っているのだろうと説教をするのだ。
(とは言っても、服装はよくあるパンツスーツだし、ぐりぐりの髪は、オールバックで、一つに縛っている。メイクもいつもより抑えめだったのに!)
専務の言葉に対して、キャプテンが言う。
「人それぞれ自分がしたいようにしてるだけですよ。他人がとやかく言うことじゃないと思いますよ。僕は、清子のスタイルも専務のスタイルもどちらも素敵で好きですよ。」
キャプテンは、争いごとを好まないふわふわした人だが、ヒーロー志望なだけあって、正義感は人一倍強い。ただ、世渡りが上手いタイプではないので、専務を少しムッとさせた。しかし、キャプテンが社長の大切な甥っ子であることを知っているので、すぐに、にたにたと笑い言う。
「いやいや。ヤマオカフーズの後継者の方は、このおいぼれとは全く違いますな。さすが世間の流行に敏感でいらっしゃる。」
ごまをすったのか、嫌味を言われたのか微妙だが、とりあえず中止とかにならなくてよかった。
日中しゅんちゃんたちは、現れなかった。僕らは、帰り道が危ないんじゃないかと予想している。専務は、17時ごろにタクシーで自宅へ戻る予定だ。
時間が来て、専務が、タクシーに乗り込もうとした瞬間。
「こら!そこの黒い車止まりなさい!!」
と言う大きな声が聞こえた。何事かと周りを見渡すと、そこには、しゅんちゃんがいた。そう声の主は、しゅんちゃんだったのだ!!
しゅんちゃんは、ひたすらに黒い車を追いかけているが、車は一向に止まる気配はない。
「僕行ってくるね?」とキャプテンが言うと、すごい勢いで、走っていった。ただ、人目を気にしてか、とても遠回りをしていた。
僕らが、キャプテンに追いついた頃には、しゅんちゃんは、「一時停止。一時停止。横断歩道に歩行者がいる時は、その手前で停止して歩行者の通行を妨げてはならない。妨げてはならない。」と口走り、キャプテンに首根っこを掴まれているのも気にせず、未だ車を追いかけようとしている。
「え、この子がしゅんちゃん??…どうした??」
清子が暴れる猫を見るような目で言う。それで、我に帰ったのか、しゅんちゃんは、恐る恐るゆっくりと、横目で僕らに視線を寄越してきた。
「あっ、あっ、◯◯◯君!◯◯…。あれ?誰を呼ぼうとして…。あれ…。」
パニックになり、誰かの名前を呼ぼうとするが、呼べていない。協力者に尻尾切りをされたのだろうか。
「おやおや、綾子(あやこ)の再婚相手の息子じゃないか??」
高柳専務が、しゅんちゃんの顔を覗き込み、朝の街に広がる吐瀉物でも見るかのような顔をして、意地悪く笑う。
それを聞いて、しゅんちゃんは真っ赤になって怒鳴り散らした。
「このクソ野郎が!!今日はお前を殺しにきたんだよ!!!覚悟しろよ!!!今すぐそっちに行ってやるよ!!!」
キャプテンが、しゅんちゃんの前に立ち塞がり、専務をにらむ。
「刺激しないでください。仮にもあなたのお孫さんでしょ。大人気なく意地悪なことしないでください。」
高柳は、「はあぁ?」と、馬鹿にしたようにため息を吐いた。
キャプテンは、高柳を無視して、しゅんちゃんに話しかける。
「大丈夫?怪我はしてない?具合も悪くない?今まで、色々大変だったね。頑張ったね。もし、よかったら、今まで何があったのか聞かせてよ。」
それを聞いて、今まで溜めてきた物が、流れ出るかのように、しゅんちゃんは大きな声で泣き始めた。
そして、社長は僕たちの行動を警察にも共有していたようで、遠くからウーウーと甲高いサイレンの音が聞こえてきた。パトカーの音は、しゅんちゃんの泣き声に呼応するかのごとく響き渡っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます