第20話

 入っていたもの。

それは、白っぽい光沢がある少し厚手の紙……のようだった。

取り出してみると、紙はふたつ折りにしてある。

何気なく開くと、中に挟まっていたらしい何かが数枚、床に落ちた。

(あ、落としちゃった。ま、拾うのは後からでいいか)

そう思いながら手にしたものに目を落とした私は思わず

「ええ?!」と声を出してしまった。

それは、二人で写っている写真だった。

白無垢を着て椅子に座った女性と、横に立つ羽織の男性。

男性は、とうさんだった。

だったら女性は、かあさんのはず。

だけど、お化粧でよくわからない。

(とうさんたちの結婚写真?なんでこんなところに?)

 

 手にした写真を、広げたままのバッグの上に置いて、落ちたものを拾い集めた。

一枚ずつ確認すると、すべて写真だった。

最初の一枚は、さっきの二人の写真の後ろに三人が並んで立っている構図だった。

まんなかに高齢の女性、その左側の男性は伯父さんだった。

若いし、髪の毛も黒くてふさふさとしているから印象は違うけれど、鼻の横とあごにホクロがあるから、間違いはない。

右側は女性で……。

「え?かあさん?」

思わず声が出た。

写真を見てすぐそう思ったのは、その女性の目がかあさんと一緒だったから。

かあさんの目は、片方は二重だったけれどもう片方は一重で。

笑顔だとわからないけど、真顔だとすぐわかるくらい違ってた。

ずっと悩みの種だったらしいけれど、私が大学生のときに“アイプチ”教えてあげてから『二重にそろえることができた』って喜んでいたから、よく覚えてる。

(かあさんがこっちなら、とうさんの隣のこの女性は誰?もしかしてこの人がマナさん?)

わけがわからなくなってきた。

この女性がマナさんだとしたら、とうさんが結婚したのはマナさんで。

でも、私のかあさんはこっちの後ろに写っているヒトミで。

とうさんに聞いてみたら、教えてくれるかもしれない。

そう思ったけれど、この写真は見つけにくいようにされていて、むしろ隠されているわけで。

 

(かあさんの秘密?なにがあったんだろう)

知りたい気持ちと、聞いちゃいけない気持ちとで心の中がもやもやしてしまった。

『また、へんな?写真を見つけたの』

『かあさんには、というか、とうさんにも何か秘密?というか、私に言ってくれてないことがあるみたいで、なんだかもやもや』

とりあえず、それだけユタさんにメールを送った。

“もやもやしている”ことを聞いてもらっただけで、少しだけ気持ちが軽くなった。

(ユタさんなら、どうするだろう?なにかアドバイスくれるかな?)

そう考えながら、別の写真を手に取った。

 

 次に手に取った写真は、昨日かあさんの部屋で見つけた、封筒で送られたものと同じ写真だった。

裏を返すと“メグミ・百か日、お宮参りを兼ねて”と手紙と同じ筆跡で書かれていた。

(メグミ……は私のことよね?百か日とかお宮参りは、赤ちゃんが生まれた後の節目の行事だと聞いたことはあるけど)

私はスマホを出し、お宮参りと百か日とをそれぞれ検索してみた。

「お宮参りは……だいたい生後一ヶ月に行くのね。百か日はお食い初め……三ヶ月ちょっと経ったくらいの行事ね。兼ねてっていうことは、一緒の日にしたのかな?」

さらに検索してみると、新生児の体調等を考慮して同じ日にに行なうこともあると書いてあった。

(赤ちゃんの私を抱っこしているということは、私の両親よね?とうさんはわかるとして、この女性は?手紙の主の“マナ”さんなのだろうけれど)

“マナ”さんと思われる女性の目は……両方とも二重だった。

 

 (かあさんじゃ、ない)

似ているけれど。

すごく似ているけれど、かあさんじゃないのは目で明らかだった。

以前古い写真をスクショしてたのを思い出して、アルバムを開いて確認する。

“ヒトミ”と“マナ”とを探して確認すると、ぼんやりしてわかりにくいけれどやっぱり“マナ”さんの目は両方ともくっきりした二重だった。

(もしかして、“マナ”さんが私を産んだ人なの?じゃあ、かあさんは?)

じっと写真を見る。

もちろん、写真はなにも答えてくれないけれど。

そのときスマホがブブッと震えた。

ユタさんからのメールだった。

『へんな写真って?』

『そりゃまあ、誰しもなにか秘密は持ってると思うけれど』

私はユタさんに返信のメールを送ることにした。

『赤ちゃんの私を抱っこしている男女の写真を見つけたの』

『男性のほうは、私のとうさんなんだけど、女性のほうが“かあさん”ではない人なの』

『詳しいことは、そっちに帰ってから話すけど』

『以前見つけた古い集合写真?で見かけた、“かあさんに似ているマナさん”だったの』

 

 しばらくして、ユタさんから返信が届いた。

『そういえば、そんな女性の写真見たな。その女の人がメグを抱っこしてたの?お母さんの見間違いじゃないの?』

『ううん、それはないはず。新しく見つけた写真を見てもらえばわかるわ』

『そうか。じゃあ、それは連休明けだな。ずっとそっちにいるんだろう?』

『片づけごとが多かったらそうしようとも思ってたけど。ほとんど終わっちゃったから、どうしようか悩んでるとこ』

『そうか。まあ、気が済むようにノンビリ過ごしておいで。年末まで連休らしい連休もないからね』

『うん。そうさせてもらいます。いつもありがとう』


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月20日 07:10
2024年12月21日 07:10
2024年12月22日 07:10

キオクをたどる 奈那美 @mike7691

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画