第19話
洗い物をすませて部屋に戻った私は、かあさんの部屋で見つけた手紙をもう一度読んだ。
“マナ”さんからかあさん……“ヒトミねえさん”への手紙。
電話でもすませられそうな内容だし、意味は通っているけど、ところどころ脈絡が?な文章だし。
そして写真。
赤ちゃんの私が写った写真を、かあさん宛てに送ってきている?
それも“おおきくなった”とのコメントつきで。
ひとりで考えていてもまとまらないので、ユタさんにメールを送ってみることにした。
『お疲れ様です』
『今日は、かあさんの部屋の片づけをしたよ』
『なんか、よくわからない手紙が出てきたから、今度一緒に見てもらえる?』
『前に写真で見た“マナ”さんからの手紙だったの』
しばらく待つと返事が届いた。
『お疲れ』
『手紙か。オレが読んでもいいの?』
『うん。大丈夫。というか、読んでもらいたいの。私が読んでも、よくわかんなくて』
『わかった。メグがこっちに帰ってから読ませてもらう。連休中は、そっちにいるんだろう?』
『一応、そのつもりだけど。かあさんの物、ほとんど片づいちゃってるから、どうしようかなって』
『地元の友達には、会わなくていいの?』
『仲が良かった子は、みんな市外とか県外に行ってるんだよね。地元に残ってる子はいると思うけど、連絡先聞いてないの』
『そうか。じゃあ、おとうさん孝行をしてくるといい。どこかに一緒に行くとか』
『え~。なんかいまさら照れくさいよ』
『まあ、そういわずに』
『うん。考えてみる。とうさんの予定もあるだろうし』
私はユタさんに“おやすみなさい”とメールしたあと、スマホをテーブルに置いた。
(とうさんと出かける……思いつきもしなかったな。)
明日の朝にでも、聞いてみよう。
そう考えて部屋から出て、昼間過ごしたかあさんの部屋に入った。
入り口のスイッチで照明をつける。
白っぽい光が部屋を照らす。
昼間に入ったときとは、違う雰囲気だ。
(そういえば、このタンスはまだ見てなかったな)
かあさんが着物を着る際に、開けていたタンスがあった。
タンスの存在は覚えていたけれど、まだそこまで手が回っていなかったというのが正しいかもしれない。
実際、今日も箱の中身に気を取られて思った以上に時間が経ってしまったし。
(明日は、このタンスの片づけかな。でも着物だったよね?中身。和服なんて着ないんだけど、どうしよう?それこそ、とうさんに相談するかな)
タンスの前面の両開きの戸を開くと、下半分には洋タンスの半分くらいの深さの引き出しが並んでいた。
上半分も仕切りで分けられていて、箱や小ぶりのキャリーバッグのようなものが並んでいた。
「案外、色々入ってるのね。明日は朝から、このタンスに取り掛からなくちゃね。何か出てきたら、とうさんに相談しよう」
ひとりごとを言って戸を閉じ、照明を消して自分の部屋に戻った。
翌日、朝から昨日のタンスの片づけに取りかかった。
念のため、とうさんに着物の処理の方法を聞いてはみたけれど、とうさんにも心あたりはなさそうだった。
かあさんは一時期、和裁を習いに行ってたようだから、そこの先生に問い合わせてみようと言ってくれた。
(いくら着ないからといっても、簡単に捨てられるようなものではないものね)
まずは、引き出しを下から順にあけていった。
几帳面だったかあさんらしく、着物を包んだたとう紙の端に“訪問着・桜”とか“喪服・夏”などと書いてある。
(これだったら、確認も早いかな?)
一段ずづ確認を進めていく。
昨日見かけた端切れやボタンと同じで、誰のものかが一目でわかるように整理してあった。
(かあさんのこの几帳面さ、見習わなきゃだけど。よくもここまで丁寧に書いてるよなあ)つい口にしてしまう。
私もそこまで片づけは下手でないと思いたいけれど、ここまできちんとは片づけられていない。
着物は、ほぼかあさんのもので、とうさんのものはお正月に着ていた記憶がある一枚だけ。
私のものは七五三(!?)と書いてあるものと、成人式に着たもの、一度も着たことがない訪問着の三枚だった。
(訪問着?私の?なんのために?)
頭の中ははてなマークだったけれど、“
次の一段には帯が、最後の一段には襦袢や小物類が入れてあった。
枚数的に多いのかどうかもわからないけれど、とうさんに頼んでその“和裁の先生”に判断をつけてもらうしかないと思った。
上の棚になっている部分には、髪飾りや帯留めなどが箱に入った状態で入れてあった。
最後に小さめのキャリーバッグを取り、開くために床に下ろした。
そのバッグは、小さめのスーツケースのような形で、周囲をぐるっとファスナーで囲まれていた。
ファスナーをあけて開いてみると、引き出しと中と同じ、たとう紙に包まれたものが入っていた。
かあさんが中身を書いていた場所を見ても、何も書かれていない。
裏返してみても、どこにも何も書かれていなかった。
(かあさんらしくないな。もしかして誰かからの預かり物?)
バッグから取り出して床に置き、包みの結び目をほどいてたとう紙を広げた。
中には、写真に写っていたのと同じ柄の着物が入っていた。
(写真の着物?タンスの引き出しに入れてないってことは、かあさんのものじゃないってこと?でも、だとしたら誰の?もしかして手紙にあった名前……マナさんのもの?)
さらにわからないことが増えていく。
着物を元通りにたとう紙に包みなおして、バッグに戻そうとしたとき、まだ奥に何かが入っていることに気がついた。
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