第12話 成井さん(謎)と俺の船出
鐘が鳴り響いている。
その日は少し曇りで、門出にはちょっと冷たい風が吹いていたけれど、広大な海原に漕ぎ出すにはちょうどいい日だ、と思った。
俺の隣には半透明な成井さんがいた。絵描き的には透明度を70%に設定したくらい、といえばわかってもらえるだろうか。ちょっとだけ、向こうが透けて見える。そして真っ白なドレスを纏っていた。
残念ながら透過しているので微妙に表情は判らない。でも唇の位置はわかる。ヴェールをあげてもヴェールがかかったような成井さんの唇に、そっと唇を添えた。その瞬間、祝砲のように大きな拍手が巻き起こった。
何故か堀渕が泣いている。
俺は成井さんと結婚した。
俺は成井さんに告白したあとしばらく交際してみたけど、結局一般的な意味で成井さんが『好き』なのかはよくわからなかった。でも俺が生涯こんなにドキドキしたのは成井さんだけだったし、今もドキドキは継続している。きっと今後も続くだろう。
成井さんと同じような人が今後現れるとは思えない。それだけは間違いない。そうすると、ずっと成井さんといたいと思った。
冒険には危険がつきものだ。襲われるかどうかビクビクするホラーの主人公と違って、冒険ものの主人公は危険があると知った上でそこに飛び出していく。つまり、成井さんの危険の全ては織り込み済みだ。俺の心には迷いなんてなく、俺の覚悟は固まっていた。
それに俺と成井さんの相性は良好。
2人の関係を邪魔する中途半端さは取り払われ、完全なる未知になった。大海原が広がった。成井さんは俺のスターゲートだ。一緒に冒険の旅に出よう。
2人ならきっとどこへでも行けるはず。
俺は成井さんの手を取る。
「成井さん……じゃなくて、さやかさん」
「はい、洋介さん」
「俺はさやかさんをきっと……多分? 幸せにします」
「そこは言い切ってください」
「すみません」
さやかさんは俺を見て、よくわからない表情でニコリとほほえんだ、気がする。
Fin
わたしたちに足りない眉毛 Tempp @ぷかぷか @Tempp
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