第6話 同盟会議、そして。

口火を切ったのはドワーフ族のローレンだった。


「諸君、よくぞ参られた。これより第二回となる低地同盟ユニオン会議を開催する。では創設者、ホビット族のエドワルドから一言いただこう」


エドワルドは精悍せいかんな顔つきで起立し、挨拶を述べ始めた。


「はるばるフルトヴァンゲンまでようこそお越しくださいまして、心より感謝申し上げます。前回の創設会議では、ドワーフ族をはじめ、多くの種族の方々からご支持をいただきまして、こうして第二回の同盟会議を開くことができましたこと、心から嬉しく思います」


ここでエドワルドは一礼し、参加者も会釈で応えた。


「さて、先日わたくしは、あの廃城からこちらのエリザベート嬢を連れ出し、わが里にお招きしました。エルフ族の魔力探知により、その晩にギガント族は偵察を兼ねた襲撃を行ってきましたが、無事撃退することができました」


襲撃、という二文字によって、参加者たちの表情は険しくなった。


「現在、彼らに目立った動きはありませんが、いつまた戦端が開くかわからない状況です。わが一族がこれまで培ってきたものを皆さまと連携させていただくことで、この戦争に勝利することができるとわたくしは確信しております。どうか忌憚きたんなきご意見を頂けますよう、お願い申し上げます」


参加者の拍手が部屋に響いた。


「では、左から順にご挨拶いただこう」


どうやらローレンが司会として話を回していくようだ。参加している種族は、コボルト、ノーム、ドライアド、ウェアウルフ、ケンタウロスだった。それぞれの種族が挨拶を済ませ、エリザベートの番になった。エドにうながされ、彼女はゆっくりと起立した。


「・・・ヴァンパイア族が末娘、エリザベートじゃ。なにがなんだかわからぬが、拙もホビットの領域を犯すものは許せぬ。直接的な戦力として期待されては困るが、戦闘以外では協力しても良いと考えておる。よろしく頼む」


まばらな拍手を聞きながら、エリザは着席した。


「では、議題に移ろう。そもそも我々は軍事演習すらまともにしたことがなく、指揮系統さえ定っていない。このまま戦をふっかけたところで敗北は必至ひっしだろう。そこで、演習の日時と、組織系統、作戦の中身、決戦の決行日まで中身を詰めていきたいと思う。まずは概要を説明してくれ、エドワルド」


「では、ご説明いたします。本日より7日後に初回の演習を行い、そのさらに7日後、2回目の演習を行います。決行日は本日より30日後の深夜です。夜襲を行う予定です。準備が遅れた場合、ご連絡いただければ数日は延期も可能ですが、遅くとも35日後には決行するという逆算のもと、万事進めていただければと思います」


エドが言うと、大使たちから質問が飛んだ。ケンタウロスの大使がまず口を開いた。


「ずいぶん早いが、急ぐ理由でもあるのか?」

「はい。おそらくエルフは、大規模な新型魔法を開発しています。これを遠距離から放ち、ギガントの白兵戦に持ち込まれた場合、我らに勝ち目はありません」

「ううむ、我らもエルフの魔法には何度も苦汁を舐めさせられた。奴らのそれは強力すぎる。急がねばならないな・・・」


次に質問したのはコボルトだった。

「ところで、指揮はどうするんですか?」

「わたしとローレン殿が本陣にて指揮を取ります。その下に、各軍の司令官を置き、指揮下に入っていただきます。指示や連絡は、われわれが開発したこの音声通信可能な水晶玉と、書き込むことで同期される羊皮紙によって行います」

「僕らは弱小ですからそのつもりできましたけど、ウルフさんとかケンタウロスさんとことか、異存ないですか?」

「構わぬ」とケンタウロスが首肯し、

「族長の許可が出ているからね。構わないよ」とウェアウルフも頷いた。その他の種族も納得しているようだ。


「では、具体的な中身についてですが・・・」


その後は各々の得意な魔法や戦術をいかに組み合わせるかという議論が進んでいった。





夜になり、会議は閉会した。交流も兼ねた食事会が開催されたが、エリザは中座し、別の部屋で休憩することにした。帰らなかったのは、エドと話したいことがあったからだ。食事会が終わったらしいタイミングで、エリザはエドを呼びに行った。


「あれ、エリザさん?帰られたのかと思っていましたよ」

「少し話したいことがあってのぅ。付き合ってくれぬか」

「もちろんかまいませんよ」


二人はエリザが休んでいた部屋に入った。向かい合って椅子に座る。


「それで、お話というのは?」

「会議で言ったように、武力としてではないやり方で協力するつもりじゃ。レイラやミナを守ることも、里の者たちを守るのもやぶさかではない」

「ありがとうございます。とても助かります」

「じゃが、今回の作戦は、敵に攻め込む作戦であろう。今回のような防衛戦とは危険度が段違いじゃ。お主、死ぬ気ではないよな?」


視線をするどくして問うエリザに、エドはすこし目を丸くしながら答えた。


「わたしの身を案じてくださっているんですか?」

「質問に答えよ」

「・・・もちろん、死ぬ気など毛頭ありませんよ。むしろ生き残るために、リスクを犯すんです。エルフ族の大規模魔法が完成したら、私達に待っている未来は死だけですからね」

「そうか・・・なら良いが」


エリザは静かに目を閉じて、言葉を続けた。


「おぬしには感謝しておる。ミナたちと過ごして、拙は生まれて初めて穏やかな日々を得た。おぬしが拙を廃城から連れ出してくれなければ、この気持ちは決して味わえなかったじゃろう」


そこでエリザは目を閉じ、眉をひそめた。


「じゃが、日が経つに連れて、拙はこの幸せを失う恐怖をより強く感じるようになった」

「・・・そうなんですね」

「まだ、死にたい気持ちは変わらぬ。じゃがレイラが大きくなるくらいまでは、生きてみたくもなっている。こんな希望を拙に持たせておいて死ぬなぞ、許さんからな!よいかエドワルド。絶対に生きて帰れよ」

「ええ。お約束します」

「ほんとうか?」

「もちろんです」

「なら、よい」


エリザは満足そうにうなずいた。


「もう夜も遅いですし、家まで送りますよ」

「そうか。疲れているのに悪いのう」

「いえいえ」


その後、二人は仲良く並んで帰路につくのだった。

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拡張世界の英雄譚 無記名 @nishishikimukina

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