新風のゴーストアサシン

@kano_noa

1 初仕事

「ゴーストアサシン。古くから存在する悪霊を退治する組織。もちろんそれは理解しているよね?今日は君のランクを査定してほしいと本部から頼まれた。期待しているよ」

「はい!頑張ります!!」


 広くて薄暗い屋敷に響くのは、ヒールが地面に当たる音と、ミステリアスで綺麗な声。


 その声の持ち主は、養成学校に居た時、1学年上であったアメリ先輩。

 白銀のロングヘアーにまるでアメジストのような紫色の瞳。

 濃い色のリップが似合う程、大人の魅力を感じる。

 スタイルも抜群で、ニーナの様な小豆色の髪に、赤い瞳、20歳なのに高校生に間違えられる程の幼い顔立ちと貧相な体とは天と地の差だ。


「ところで、私たちは、ここで何をするんだい?」

「もしかして、今回の仕事内容を把握してないとか言いませんよね」

「んふふ…私は、敵の探知と駆除が目的なのでね。見つけ次第、退治していくだけさ」


 先頭に立って怪しいところを探っている先輩は、急に立ち止まって振り返り、妖艶な笑みを浮かべる。


 先輩が言うと名言のように聞こえてくるのはなぜだろう?


「簡単に説明すると、この別荘には起業家の富豪一族が住んでいたらしいです。しかし、夫婦が亡くなってからは使われなくなり、悪霊の棲家に。それからは興味本位で訪れた若者が悪霊の被害に遭っています。これ以上被害を拡大しない為にも、全てを駆除しないといけませんね」

「説明ありがとう。やる気に関しての評価は高くできるよ」


 先輩は拍手をした後、そう呟く。

 

「突然の加点ですか。まぁ、嬉しいですけど」


「ちょうど中心に来たね。ここから手分けをしよう。私はこっち側、ニーナは反対側を探索してほしい」

「いきなり単独行動なんですか!?」

「他にもいるじゃないか」


 (いや、どう見ても私とアメリ先輩の二人しかいないんだけど)


「もしかして…悪霊はお友達っていう考えですか?」

「ふふっ…内緒。そんなことより早く終わらせたいだろう?」

「はい!!」


 先輩は口元に指を当てて微笑んだ。



 (ここから一人…怖いけど頑張らなきゃ!)


 ニーナは剣を強く握りしめながら進み、最初のドアの前まで来た。


「よし!」


 大きく深呼吸をしてからドアノブを回す。


 ギィィィーという音と共に少しずつドアが開いたその先は奇跡的に悪霊がいない部屋だった。


「ふぅーー…何もいない」


 これで終わりではない。部屋はまだある。


 次のドアもまた次のドアも躊躇せずどんどん開けていく。


 もう6ヶ所ぐらい開けた時だろうか。

 次のドアを開けようとした時、何かに片足を掴まれた。


「え…うわぁーーー!!!」


 下に視線を向けると膝ぐらいの大きさで、全身は緑色、足が4本に羽が生えている悪霊がつぶらな瞳でニーナのことを見上げている。

 

 驚きのあまり、一心不乱に剣を振り下ろすと真っ二つに切断された。

 

「きゅーーー!」


 悪霊は変な鳴き声を発しながら、消えた。


 消えるということは、駆除に成功したということだ。

 一発で駆除できたのはかなり弱いからだろう。


 (これぐらいの悪霊なら私でも余裕)


「よかったぁーー」


 安心したニーナは、呑気に考え事をしながら残りの部屋を探索している。


 私たちにとって、ランクはとても重要。それによって任される仕事も変われば、何よりも社員寮のクオリティがランクに準じたものになる。


 最上級がSランクでその下がA、B、C、D、EとなっていてSランクはホテルのスイートルーム並みの部屋か、一軒家が選べるのに対し、一番下のEランク程になるとボロボロの部屋に棲むことになる。


 狙いはBランク。これは新築のアパートの様な部屋。その為、今日の仕事に全力で挑む。


「よし、あと1部屋!」


 最後の部屋に向かおうとしたその時、その部屋から急に"ドンッ!”と大きな音が鳴った。


「何…?」


思わず後退りをすると、もっと大きい打撃音と共にドアが破壊された。


 そこからは、ドアの枠ギリギリなサイズで、さっきの悪霊とそっくりな悪霊が窮屈そうに出てくる。


「よクモ…私の子供たちを倒してくれたなぁぁア…?」


 やばいやばいやばい…。


 話せる悪霊はAからBランクの実力じゃないと厳しい。


 (ここで私は死んでしまうのか?絶対嫌!!)


「アメリせんぱーーーーい!!!!!」


 今までに出したことがない大きな声でそう叫びながら逃げようとして、後ろを見るとそこにいたのはアメリ先輩ではなく、私の嫌いな人だった。


「呼んだ?何ビビってんのー??」


 嘲笑う様な口調で煽ってくるのは養成学校時代の同級生であるカイル。


 亜麻色の髪に橙色の瞳を持っていて、見た目はいいが、性格が好ましくないといったところだろうか。


「何であんたがいんのよ!呼んだのはアメリ先輩なんだけど!」

「俺は散歩してただけだよ?」


 カイルは、とぼけたような表情で意味のわからない返答をした。


 いけない、今は悪霊に狙われているんだった。


「悪いけど構ってる暇は無いんだわ」

「こんなの俺には楽勝なんだよね。すぐ終わらせるからそこ退いてくれる?」


 カイルは格好つけたような喋り方で攻撃を放とうとしている。


 不本意だが、言われた通りカイルの後ろに移動した。


「何しテ…いるんダァ?2人まとめテ…消し去るゾォ…!」


 悪霊は、待ちくたびれて今にも襲ってきそうだ。


「エンドブレイク」


 カイルが両手を動かしながらそう言うと、眩しい光の塊がゴォォォ!!と言う音を立てて放出される。


 見事悪霊に命中し、その衝撃で悪霊は壁を壊して、屋敷の外まで追い出された。


 外が見えるようになって、悪霊の様子を確認すると、地面に倒れてその姿が消えていく。


「うわぁ…」


この迫力に圧倒されているニーナは言葉が出ない。


 やっぱりSランクは格がちがうなぁ。


「流石、カイル君。派手にやったね」

「アメリ先輩ー!!!!」

「先輩!お疲れ様です!!」


 今頃、アメリ先輩登場。

 本来なら先輩が駆除するはずなんだけどなー。

 

 流石のカイルもアメリ先輩には敬意を払う。

 ランク的にはカイルがSで先輩はA。

 アメリ先輩のオーラには逆らえないんだろう。


「ここの悪霊は全ていなくなったようだね」

「もしかして…最初に言っていた、他にもいるっていうのはカイルの事だったりします?」

「正解。私は霊力の感知ができる。近くにいる悪霊はもちろん、仲間であるゴーストアサシンの居場所がわかるんだ。今回は強すぎる霊力を感じて、すぐにカイル君だと確信したよ」


 美しい笑みを浮かべながら先輩はそう言った。


「わかっていたなら言ってくださいよ…」

「ふふふ…反応が見たかったんだ。許しておくれ」

「やっぱ、ニーナは弱いね!隠れながら見てたけど超怖がってんのー!面白すぎて笑い堪えるのが大変でさー」

「カイルぅ!!あんたは黙ってろ!」


 ニーナは感情に任せて、カイルに剣で斬りかかる。


 普通の人に同じようなことをすると怪我をするが、カイルは霊力のコントロールにより防御もできる為、そもそも攻撃が当たらない。


「プロテクト」


 カイルが片手を前に出し、そう呟くと青い四角の集合体が現れる。

 感触としては壁に剣を撃ち込む感じだ。


「こっわ!俺以外にこんなことしたら斬れちゃうんじゃない?」

「あんたにしかやらねぇーよ!」

「今の攻撃…Cランク相当かな」 


 言い合いをしていると、先輩はボソッと呟く。


「そこを何とか…Bランクにはなれませんかねぇ…」

「ちょっと厳しいね」

「もしかして、Bランクの社員寮に住みたいの?それなら、上のランクの人の家で暮らせばいいんじゃない?ちなみに俺はメイド付きの豪邸に住んでるけどね」


 先輩が現実を突きつけてきた上に、カイルは自慢をしてきた。

 

「メイド!?」

「なるほど…いっその事、カイル君と一緒に暮らすのもアリじゃないかい?」


 アメリ先輩が、何かを企んでいるような表情でそう持ちかける。


「俺は別に良いけどねー?メイドだって住み込みだし」

「それを考えるとアリ…か」

「うふふふふ…面白くなりそうじゃないか」


 ニーナの脳裏によぎったのは、一緒に暮らすといっても、カイルと関わる事なく豪邸ライフを満喫して、メイドに世話をしてもらうという事だ。


 この判断が吉と出るか凶と出るか。


 それがわかるのは数日後の事である。

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