蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

第1話



少女は友達二人と小川で遊んでいた。すると、少女は足を滑らせる。


しかし、川は浅く溺れる心配はない。少女は、すぐに立ち上がろうとする。


だが、さっきまで足首より浅いはずの水は深く深くあっという間に少女の体を飲み込んでいく。


「助けて!」



少女は助けを求める。そして、少女の記憶はそこで途絶えたのだった。




─────────────────────




職員室と書かれた部屋の前に少年は来た。少年の肌は青白く、更に髪は銀色。しかし、肌はキメ細やかで若々しく、目は黒目が小さく三白眼だ。


身長は平均並みだが、背筋はピンとしている。長く癖のある前髪を左に垂らしていた。


「……失礼します」


職員室の引き戸は少し古びているせいか、音がうるさい。


職員室には、教師達がいた。教師はちらりと少年を見ると、すぐに自分の仕事に取り掛かる。


ただ1人を抜いて……。


「あ、君!転校生だろ?」


そう言って来たのは、短髪メガネで人の良さそうな男だ。顔つきからまだ若い。


「えっと、名前は……」

「田中蛍」

「田中君!俺は、君の担任の山野基博だよ」


人懐っこいような笑顔。


「そうですか。ところで例の……」

「あ、うん。それは、クラスに行ってからだよ」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


教室は、いつもよりガヤガヤとしていた。その理由は転校生が来るからだ。


転校生は男子らしく、一部の女子生徒はいつもより熱心にメイクをしている。

なずなは、その転校生の世話係に任命されていた。

世話係と言っても、大した事はしない。ただ、各教室の案内とか、まだ揃っていない教科書を貸してあげるとか、そんな感じだ。


「なずな、今日転校生の世話係なんだって?」


そう言って話しかけて来たのは、幼なじみの土帝蒼司だ。


「うん。どんな子が来るのかな?」

「……良い奴だといいな」


なずなは土帝の言葉に頷く。


「そうちゃん!ぺんぺん!昨日の宿題やった?!」


慌てて2人に駆け寄って来たのは、なずなのもう1人の幼なじみ・一ノ瀬ガラム。

彼はインド人と日本人のハーフである。男子であるが、なずなより少し背が低い。


「ガラム、やって来なかったのか?」

「そうじゃないんだ。最後のやつが分からくて」


今にも泣きそうに、土帝にノートを見せた。土帝は笑いながら、後でゆっくり教えると言っている。


「おっはよ!今日のメイクばっちりでしょ?」


少し遅れてやって来たのは、羽山みのり。入学早々なずなが仲良くなった少女だ。

背はなずなより少し低く、ボブカットである。運動神経抜群で面食いである。


「気合いばっちり!」


きっと、今日来る転校生に期待しているのだろう。


なずなは、転校生が来る事以外はいつも通りの朝だと思っていた。


たが、今日の始まりがまさか全ての始まり、運命の歯車が狂い始める序章に過ぎない事に気づかなかった……。



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蛍地獄奇譚 玉楼二千佳 @gyokurou

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