54.ずっと――

「ほらっ、キリキリ歩け!」


「うぅ……痛くてそんなに速く歩けねぇんだよぉ……」


 ロープで縛られた男達は、ティステとリズベットに引きずられる様に歩かされ、衛兵のいる詰所へと向かっていた。


「お前達が忠告を聞かずに襲い掛かってきたからだろうが。自業自得だ!」


「うぅ……」


「お、重てぇ……別のやつに運ばせてくれよぉ……」


「知らん! 貴様らの仲間だろうが!」


 股間に1撃を食らった男は未だ意識が戻らないため、早目の降参で無傷だった者に背負わせ運ばせていた。


「む、その者たちは……」


「こいつらは冒険者でありながら、我らに因縁をつけ、さらには剣を抜いた愚か者どもだ。全員とっ捕まえたのでそちらに引き渡しにきた」


「えぇ、なんだってそんなことに……」


 ティステの話に、衛兵も困惑の顔を浮かべた。


「っそれはこの馬鹿どもから聞いてくれ。とにかく、私達はこの後組合に行かなくてはいかんのでな。後は任せていいか?」


「いや、そういうわけにもいかんだろう。事実関係を確かめなくちゃならんのでな。まずはお前さんの名前を教えてくれるか?」


 一瞬戸惑ったティステだったが、隠すとより面倒になると思い、正直に名を名乗ることにした。


「そこにいらっしゃるユウマ殿の護衛隊長を任されているティステ・フルーレだ。今は冒険者として活動中だが、貴殿と同じクレイオール兵だ」


「ティステ……フルーレ……?」


 衛兵はその名前を十分に咀嚼し、


「あ、あの、もしやお父上はルーカス副軍団長でありますか……?」


「いかにも」


「――し、失礼しましたッ!!」


 自分の話している相手が副軍団長の娘であると気づくと、背筋を伸ばして謝罪の声を上げた。


「謝る必要はない。貴殿は職務を全うしただけだからな。ところで、やはり聴取は必要か?」


「はっ、あ、いやその……」


「構わん。それが仕事だからな。このリズベットを置いていくから、何でも聞いてくれ」


「はい!?」


 突然自分の名前を挙げられたリズベットは、素っ頓狂な声を上げて驚く。


「はっ、助かります」


「あ、あの! なんで私が……?」


「当然だろう。この中でいなくなって1番問題ないのがお前だからだ」


「はぅ! いえまあ、それはそうなんですけどね……」


「よし、決まりだな」


 がっくりと項垂れるリズベットをその場に残し、勇馬達は冒険者組合に向かうのだった。



 ◆◇◆



「おめでとうございます。無事依頼達成ですね!」


 アリエッタからの祝福の言葉に、フィーレとルティーナは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「さっそく査定しますね。すべて買い取りでよろしいですか?」


「2人が狩ったんだから決めていいぞ」


「使い道も特にないですし、売っちゃいましょうか」


「そうだね、ちゃんと山分けしないと。ユウマ達もそうしてたんでしょ?」


「まぁ、そのほうが活動しやすいからなぁ」


「では査定していただいて、それを分けましょう」


「承知しました。では少々お待ちくださいね」


 アリエッタはそう言うと、籠にこんもりと入ったウルフの牙を持って後ろへと下がった。

 5級冒険者でも狩れるウルフの素材ということもあり、査定は5分と掛からず終わり、アリエッタは戻ってきた。


「――お待たせいたしました。ウルフの牙が1本1万リアとなりますので、20本で20万リアとなります。また依頼報酬として1体3万リアですので、10体で30万リア、素材と合わせて50万リアになります」


「おぉ~! こんな短時間で50万リア……! こんな金額そんな簡単に稼げないよ、普通!」


「そうね。そもそもウルフといえども、5級の冒険者が初日に10体も狩れるほうがおかしいかもしれないわ」


「おっしゃる通り、普通は1体倒せれば上出来かと思います。初日で10体分の依頼を達成した方なんて今まで見たことありません」


 アリエッタは苦笑いを浮かべ、硬貨を並べ始めた。


「まあ、それは彼女達の才能があるということで……それではまた来ますね。さあ、行こうか」


 勇馬はアリエッタとの話を早々に切り上げ、みんなを連れて出口へ向かう。

 美しく可愛らしい少女達という、冒険者組合には不釣り合いな彼女達は相変わらず注目を集めており、素材を出した時にはどよめきすら起きていた。

 勇馬は、再び名も知らぬ3級男達のような輩が生まれる前に、組合を早く出たかったのだ。


「もー、そんなに急がなくてもいいじゃん。新しい依頼があるかもしれないよ?」


「勘弁してくれ……またあの変な奴らみたいのが絡んできたらどうするんだ」


「んー、その時はまたユウマとリナがドッカンドッカンって!」


「あはは、それはちょっと……」


 ルティーナがショットガンを撃つ動作をすると、莉奈が苦笑いでやんわりと否定した。


「えー……」


「確かに揉め事をわざわざ増やす必要もありませんしね。それに……ルティ、私達にはこの後大事な用があるでしょう?」


「――ああっ、そうだった!」


 フィーレの言葉にルティーナはハッとした表情を浮かべ、次にニヤニヤとしだした。


「大事な用? この後2人とも何かあるのか?」


「依頼を達成したらリナさんみたいに、ユウマがお祝いしてくれるって約束したじゃないですか!」


「そうだよ! お祝いに私達にもペンダントを買ってくれるんだよね!?」


「お、おう、そうだったそうだった! すまんすまん、ついうっかりしてて……」


 何気ない勇馬の一言に2人が即座に反応して詰め寄り、その剣幕に勇馬はたじたじとなってしまった。


「でも、フィーレは形見のロケットをしてるだろ? 他のもののほうがいいんじゃないか?」


「絶対ダメです」


「そ、そうか……」


 笑顔で拒絶するフィーレ。

 勇馬はこれ以上余計なことは言わないほうがいいだろうと、直感が告げていた。


「んじゃまあ、市場に見に行こうか」


「はい!」


「うん!」


 途端にご機嫌となった姉妹を連れて、勇馬達は市場に向かった。

 2人は莉奈のペンダントと同じ店で、それぞれ悩みに悩んで選んだものを勇馬が購入してプレゼントした。


「ふふっ、大切にしますね」


「ボクも! これからは肌身離さず付けてるね」


「ああ、喜んでくれたようでよかったよ」


 勇馬は、ペンダントを手にして喜ぶ2人を微笑ましく眺めるのだった。

 2人からの『ずっと』宣言に、深い意味があるなどと気付くこともなく――。


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異世界のサバゲーマー 〜転移したおっさんは国を救うために『ミリマート』で現代兵器を購入して無双します〜 フユリカス @fuyurikasu

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