53.ホールドアップ
「フィーちゃん! そっち行ったよ!」
「まかせて!」
パンッ! パンッ! パンッ!
『ギャウンッ!!』
フィーレとルティーナは、もう何体目になるかわからないウルフを、抜群のコンビネーションで狩っていた。
2人の成長速度は凄まじく、もっと時間が掛かるだろうと踏んでいた勇馬も舌を巻くほどだった。
「やったやった!」
「ふふっ、私達もなかなかいい感じじゃないですか? ユウマ」
「ああ、正直こんなに上達するだなんて思ってもなかったよ。このままじゃ森中のウルフを狩りつくしちゃうんじゃないかってくらいだな」
「ほんと凄いよ2人とも! もしかしたら、既に私よりハンドガンの扱い方が上手い気がするんだけど……」
M24というライフルなら間違いなく莉奈のほうが上だと思うが、彼女の言う通りハンドガンに限って言えば、既に2人のほうが上なのかもしれないほどの上達だった。
「うふふ、なんだかこの
「お、おう……」
フィーレは、うっとりとした顔でP230に頬ずりしようとして、
「――熱っ!? 熱いですっ!!」
と、火傷しそうになっていた。
「そりゃあ火薬使ってるからな。言うの忘れてたけど、排莢直後の薬莢は火傷するほど熱くなるから触れないように気を付けてな?」
「そうなの? もう、そういうのは先に言っといてくれないとー。さっき顔に当たりそうになったんだからねっ!」
「悪い悪い……っと、フィーレ、大丈夫か?」
「うぅ、すぐに回復魔法を使ったから大丈夫だと思います。この子は可愛いですけど、なかなか気難しい子みたいですね」
「あ、うん。そうだね」
フィーレがよくわからないことを言い出し始めたが、銃に対して苦手意識を持たなかっただけよしとしようと、勇馬は軽く受け流すことにした。
「ユウマ殿、これだけウルフを討伐すれば依頼的には問題ないと思うぞ」
「だね、そろそろ戻ろうか。2人ともお疲れ様!」
「ユウマ、リナさん、教えてくれてありがとうございます。ティステとリズもありがとう、助かったわ」
「みんなありがとう! これで無事に依頼達成だよね?」
「どういたしまして。ああ、これだけ倒せば十分すぎるほどに十分だろうな」
討伐証明として集めた『ウルフの牙』は、20本10セットにもなるため、初依頼としては上々すぎる出来だろう。
勇馬達が来た道を戻って森の出口にまで差し掛かると、
「――よぉ、さっきはよくも舐めた行動を取ってくれたなぁ……!」
森に入る前に絡んできた男達がその前に立ち塞がった。
「あんたら……まだ懲りないのか?」
さすがに今日の今日で再び絡んでくるとはまさか思わなかったので、勇馬は呆れた顔と口調で男に向かって話しかけた。
「てめぇ、なんだその態度はッ! へっ、この人数を見てもそんな舐めた態度取れんのかぁ?」
「――!」
すると、それまで隠れていた男の仲間がぞろぞろと現れ、その数は10人以上の大人数だった。
「おいおい、いったいあんた何考えてんだ? さっき見逃されたのに、そんなぞろぞろと連れてきて、後先なにも考えてないのか?」
「お前らが見逃す? そんな言葉信じられっかよ!! どうせこの後組合に行ってこれまでのことを報告するんだろうが。そんな見え透いた嘘に騙されるほど俺達は馬鹿じゃねぇ!!」
「えぇ……」
実のところ、他のみんなはわからないが、少なくとも勇馬に至ってはすっかりその出来事のことを忘れていた。それほど印象に残るわけでもなく、フィーレやルティーナに指導して依頼をこなすために付きっきりでいたため、完全に忘れていたのだ。
「貴様ら、せっかく見逃してやったのに恩を仇で返しおって……とっとと道を開けないと全員衛兵に引き渡すぞ!!」
「ぐ……っ!」
ティステの一喝に男は怯んだ顔を一瞬浮かべたが、
「黙れ女ァ! てめぇが2級だろうが、この人数相手に勝てると思うんじゃねぇぞ!? 口の利き方に気をつけろや!」
人数で勝っている彼は引き下がることはなさそうだった。
(これは面倒なことになりそうだな……)
勇馬は『ミリマート』を開き、彼らを相手にするのにぴったりな武器を探し始めた。
ここからの展開次第では、相手を死に至らしめる銃の出番もあるかもしれないが、勇馬としては今後のためにも『非致死性兵器』を持っておきたかった。
(えーと何々……『ピックアップ! 暴徒を抑えるならコレ!』。開いてみるか)
お馴染みとなったバナーを開くも、そこに表示されたものはたった1つだけだった。
(『レミントンM870 ゴム弾セット』か。これはちょうどよさそうだな)
ポンプアクション式の
「『召喚』」
手元にM870を取り出し、
装填後はフォアエンドを前進させて、マガジンチューブと呼ばれる弾倉に6発のゴム弾を『召喚』にて装弾し、これで6発+1発という状態にしたのだった。
「な、何だそれは!? 急に変なもの取り出しやがって……コイツ魔法使いか!?」
「大人しく引き下がってくれれば何もしないけど、これ以上変なことしようとするなら、こっちも容赦はできないぞ」
非致死性兵器と言われるゴム弾とはいえ、当たり所が悪ければ死に至らしめることすらある危険なものだ。
当然、彼らには勇馬が持っているものがなんなのかわかっていないのだが、魔法の類であって警戒に値するものであるだろうとは予測していた。
「さぁ、これが最後の警告だぞ。もうこんなことはやめるんだ」
「う、うるせぇ! お前らッ、一斉に掛かっちまえばどうってことはねぇ! いく――」
――ドンッ!
「ぐぇっ!?」
M870から射出されたゴム弾は、3級冒険者の男の鳩尾辺りに命中した。
「ふっ、ふぅーっ、う、ううぅぅぅ……」
3級男はそのまま蹲り、脂汗を大量に流しながら悶絶していた。
勇馬はポンプアクションでゴム弾をリロードし、マガジンチューブへも『召喚装弾』する。
「莉奈!」
「――はい!」
それを莉奈に渡し、もう1丁のM870を取り出し、先ほどと同じようにゴム弾を込めて準備する。
未だ呻き声を上げて苦しむ3級男、それを見た仲間の男達がそのまま引き下がってくれればよかったのだが、
「お、おい! くそっ、やっちまえ――ッ!!」
「おう!!」
男達は自棄になったかのように突っ込んでくるのだった。
「――莉奈! とにかく体に当てさえすればいい!」
「はいっ! わかりました!」
ドンッ! ドンッ!
勇馬と莉奈の持つM870の銃口からゴム弾が飛び出し、近づこうとする
「ぎゃッ!?」
「ぐふ……ッ!」
「ひ――」
敵がその光景を見て怯んでいる隙に、勇馬は『召喚装弾』を繰り返し、次々と撃ち倒していく。莉奈も当てるのは体のどこでもいいということもあり、冷静に命中させていた。
「うっ……ぎゃあああぁぁぁぁあああああッ!?!」
突然、ひと際大きな悲鳴が上がった。
それもそのはず、莉奈の撃ったゴム弾が、なんと股間に当たったのだ。
その恐ろしさは勇馬にも想像つかないほどで、
「ま、参った! 武器を捨てるから攻撃しないでくれっ!!」
口から泡を吹いて気絶した男を見ていた残りの男達も、次々に武器をその場に捨てて、
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