52.いざ、本番

 ――パンッ! パンッ!


「おー、いい感じいい感じ。2人とも少しは慣れてきたか?」


 実戦練習に移って30分ほど、フィーレとルティーナは既に何回ものマガジンチェンジを行って射撃を行っていた。

 最初こそ緊張した様子で若干恐怖に顔を引き攣らせていた2人だったが、何十発と撃つうちに大分慣れたようで、今では適度に肩の力を抜いて撃つことができていた。


「ええ、大分慣れてきたと思います。何度も何度も繰り返してるうちにこの反動にも慣れてきましたし、マガジンチェンジも最初の頃に比べれば手間取ることなくできるようになりましたしね」


 フィーレは空になったマガジンを取り出し、弾薬が補充されているフルマガジンに替え、スライド少し後ろに引っ張って『エマージェンシーリロード』を行った。


『エマージェンシーリロード』とは、完全に弾切れとなった状態からリロードする方法で、最も一般的な方法ともいえる。

 他にも『タクティカルリロード』と『スピードリロード』の2つのリロード方法があり、『タクティカルリロード』は弾切れが起きる前にフルマガジンにリロードする戦術的タクティカルに行う方法だ。これの特徴的な点として、リリースしたマガジンを地面に落とすことなく手に持ったフルマガジンと交換する形でやるため、練習が必要になってくるのだ。


 もう1つの『スピードリロード』は、『タクティカルリロード』と基本的には変わらないが、リリースしたマガジンをキャッチせずに地面に落とすという違いがある。よりスピーディに行えるので、交戦中にはかなり有用な方法だが、当然地面に落としたマガジンを紛失したりする恐れが高くなる。


 とはいえ、このP230はマガジンをリリースするための『マガジンキャッチ』のボタンがついておらず、グリップボトムにマガジンキャッチのレバーがあり、そこを引いた状態でマガジンを引き抜くことができる仕組みになっている。そのためボタン式と違い、マガジンが自重で落下することがないのだ。


「よっ……と。このタクティカルリロードって、手に2つマガジンを持つからちょっとやりにくいね」


「手が小さいと落としたりして逆に戦術的とは言えないかもな。特にこのタイプのマガジンキャッチの場合は、リリースしたマガジンを1度しまってからフルマガジンを取り出してリロードするのがいいかもな」


 2人には、射撃訓練しながらリロードも練習してもらった。


「よし、とりあえず大分撃つのにも慣れてきただろうし、本番に移ってみるか」


「いよいよですね……」


「上手にできるかなぁ……」


 フィーレとルティーナは緊張した顔を浮かべた。銃の取り扱いに少しは慣れてきたとはいっても、やはり魔物を相手にするのは多少の恐怖心もあるのだろう。


「もちろん、俺と莉奈も援護するからさ。いざとなれば、さらにティステさんとリズさんもいるし、大丈夫だから安心してくれ。それに1番大事なことは、魔物を倒すことよりもパニックを起こして味方を誤射したりしないことだからな。十分に気をつけてくれよ?」


「わかりました!」


「うん、わかったよ!」


 元気よく返す2人に、勇馬は満足そうに頷くのだった。



 ◆◇◆



「あそこにウルフがいますね。こっちにはまだ気づいてないです」


 ウルフを探し始めてしばらくすると、リズベットがいち早く声を上げた。

 彼女は目がとてもよくて周囲への注意力も高いため、斥候のような役割が1番適しているのかもしれない。


「えーと……2匹か。ちょうどってところか。2人で1匹ずついけるか?」


「頑張ってみます。でも、ダメそうだったら助けてくださいね? ユウマ」


「ああ、もちろんだ。ルティもいけるか?」


「う、うんっ。やってみるね」


「よし。右のやつをフィーレが狙って左をルティが倒してみよう」


 2人は緊張した面持ちで頷くと、コッキングしてハンマーを起こした。


 このP230という銃には『デコッキングレバー』というものがついている。

 そもそも『デコッキング』とは、起こしたハンマーを下げることをいうのだが、それ自体はハンマーを押さえながらトリガーを引けば行うことができる。だが、当然危険もあるので、専用のデコッキングレバーがあれば安心してハンマーダウンすることができるのだ。これらによって、暴発や誤射を防ぐことができるのでとても重要な装置といえる。


「えと、既にチャンバーには弾が装填されているので、ハンマーを起こすだけでいいんですよね?」


「ああ、その通りだ。ちゃんと覚えてたな、偉いぞ」


「えへへ。トリガーには指に掛けないようにして……」


 フィーレは木の陰からウルフに向けて銃を構えた。


「ボクもできたよっ」


「よしよし、それじゃあまずはフィーレから撃ってみよう。ルティもその後撃つんだぞ?」


「わかりました、私が先ですね」


「1発で倒れなかったもっと撃っていいの?」


「そうだな。だが、慌てるんじゃないぞ。慌てた状態で銃を何発も撃つと、狙いも定まらないし、すぐに弾切れを起こして自分が不利な状況に陥ってしまうからな。俺達が後ろにいるから、当たらなくても冷静に撃ってみてくれ」


「うん、わかったよっ」


 2人はそれぞれのターゲットに向かってしっかりと構え、


「撃ちます――」


 フィーレがトリガーを引くと、パンッ! という乾いた音がするのとほぼ同時にターゲットのウルフの体がブレた。


 パンッ!


 今度はルティの構えたP230が火を吹き、もう1匹のウルフに弾が命中する。

『ギャンッ!?』という悲鳴は聞こえたが、1発で沈んだわけではないようだった。フィーレが撃ったウルフは当たり所がよかったらしく、そのまま倒れ伏してしまった。


「ルティ、止めだ!」


「う、うん!」


 パンッ!


 再び乾いた音が響き渡るが、それはウルフの足元の土を抉るに留めるのだった。


「勇馬さん、こっちに気付きました!」


「ふむ、ユウマ殿、私が出ようか?」


 莉奈の言葉にティステが剣を抜いた。


「いや、ルティ、まだやれるな?」


「うん! 次は当てるよ!」


 今回はたまたま無防備な状態のウルフだったが、普段であればターゲットと相対することが多いはずだ。今後のことも考え、どうせならギリギリまでルティーナにやってもらおうと勇馬は考えた。


「ルティ、来るわよ!」


 ウルフが自分を傷つけた相手を認識し、葉を剥き出しに怒りを露わにして走り出した。


 パンッ! パンッ!


『ギャウッ!!』


 2発撃ったうちの1発がウルフの脚に当たり、転がりながら倒れ込んだ。

 再び立ち上がろうとするが、2発も弾丸をその身に受けたウルフの身体は重く、思うように立ち上がれない。


「ルティ、苦しまないようにしっかりと頭に狙いを定めてあげるんだ」


「……うん、そうだね」


 少しウルフを憐れむように見つめたルティーナは、軽く頭を振ってすぐに覚悟を決めた表情に変え、


 パン――ッ!


 乾いた音とともに、ウルフを苦しみから解放したのだった。

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