お姉さんと僕の本気のアソビ
詩夜兎誰エ@あにつう連載中
「本気になっちゃダメよ?これは本気のアソビなんだから」
♢
「本気になっちゃダメよ?これは本気のアソビなんだから」
"遊び"と……分かっていた事を改めて言われ、泣きそうになってしまった。
何も言えずにいるとお姉さんは続けてこう言った。
「海の見える綺麗な砂浜でお城を作るの。もちろん砂でよ?おままごとの延長じゃない、装飾や家具まで揃っている……本当のお城。でもそれは波に攫われていつのまにか消えてしまう。でもその方がずっと綺麗だわ」
「消えてしまうなら無いのと一緒だ」
不貞腐れた僕は思わずそう返す。
「アソビってそういうものでしょ?楽しかった思い出だけが残るの。本気であれば本気であるほど楽しさは膨らむのよ」
「そして弾けてしまう。そうでしょ?」
「分かってきたじゃない!」
うふふと笑いながらお姉さんは嬉しそうにしている。
___。
正解は分からなかった。ただ僕はお姉さんと結ばれたかった。
繋がることはできた……でも本当の意味で一緒に生きることは出来ないのだと。
――――そう、思った。
「遊びだったんですね」
分かっていた事を再度確認する。
「えぇ。本気のアソビ……」
お姉さんはいつにもまして熱っぽい魅力的な表情で答えた。
「遊びに意味なんてあるんでしょうか?」
ある。とただそう言って欲しくて問う。
「砂浜でね。砂のお城を作るの。2人が住めるくらいのおっきなやつ。それが完成したら……」
「……しませんよ」
つい、棘のある口調になってしまった。
望んだ答えが返って来ないくらいで怒るなんてまるで子供と一緒だ.....
「ううん。本気で作るの。言ったでしょ?本気のアソビだって」
「仮にできたとして意味は無いでしょ?」
「どうして?」
「だって」
「だって?」
「………………だって、いつか崩れてしまうから」
この関係のようにとは言えなかった。
いっそ全部ぶちまけてしまえたら、欲望を中で吐き出すぐらい。自分に素直になれれば……
――出口の無い思考の迷路
――たどり着いてしまえば
――終わってしまう。
だから僕は
これは最後の行き止まりだった。
もう出口は目の前にあったんだ。
「……っ」
それは僕が口を開くと同時だった。
僕が一歩踏み出そうとしたその先をお姉さんはいつも見透かしたように歩いている。
遮るようにしてお姉さんは言った。
「私の事……好き?」
お姉さんは少し微笑みながらこちらを覗く。
目の中に僕が映る。
その瞳は、まるでどこまでも高い星空のような……すっと沈んでいく深海のような。
美しくもあり、それでいて畏れすら感じさせるそんな瞳だ。
言葉が出なかった。それは差し出されたゴールへの扉。
飛びついてしまえば楽になれるのに……。
――――1度クリアしたこの迷路は再度迷うことは、無い。
ただ息をすることしかできない僕にお姉さんは……
「答えられないか……じゃあ本気のアソビは好き?」
質問の意図は何も変わらない。
きっとそうだ。
「私は好きよ?大好き」
お姉さんはいたずらっ子のような顔をして僕の胸を刺す。
生涯抜けることのない楔を……。
お姉さんは何も言わずに目だけで問いかける。
"あなたは?"と。
「僕も好きです。大好きです」
――――言った。言わされてしまった。
終わりのない迷路のその終点、扉に掛かっていた鍵を優しく開けられて。
達成感があるのは一瞬で、ここまでの長い道のりを思い出す。
「そう……」
お姉さんはただ一言そう返した。
僕にはそれがどういう意味なのか分からなかった。
――その答えが聞けて満足したの"そう"なのか。
――予想どうり過ぎて呆れてモノも言えないの"そう"なのか。
――嬉しさを抑えつけた"そう”なのか。
「……じゃあもっと本気でアソビましょうか」
んふっと、先程の表情を崩してお姉さんは僕を抱き寄せた。
……良かった。まだ終わっていなかった。
手書きの迷路をクリアしたら、ゴールを消されてその続きを書き足されるような感覚。
普通ならもうやりたくないとそう思うはず、はずなのに……。
「次は何をしますか?」
待ち受ける快楽に期待せずにはいられない。
「火遊びは程々にしないと眠れなくなっちゃうからなぁー」
「その時は朝まで付き合ってもらうので大丈夫です」
このくらいハッタリを聞かせるくらいがお姉さんは好きなのだ。
「じゃあそうしてもらおうかなー」
お姉さんは嬉しそうに応える。
そのお姉さんをぎゅっと力強く抱きしめる。
"僕から離れないで"
言えば恐らく離れていってしまうから言葉にせずに。
そうだこれでまだ"遊んで"貰える。
――――こうして夜は更けていく。
お姉さんと僕の本気のアソビ 詩夜兎誰エ@あにつう連載中 @utayo_utae
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