7話 後編【テルシェ】
「おお、来たか」
不意に前方から聞こえた声に私は咄嗟にカーテシーをする。
「遅くなってしまい、申し訳ございません……国王陛下」
「よい。其方の足ではこの廊下を歩くのも大変だっただろう」
「お気遣い恐れ入ります」
カーテシーをやめ、陛下の方を見る。
が、目は合わせない。私のような人が目を合わせるなんて、おそれおおいもんね。
そういえば、さっきの返事ってあれで良かったのかな?
「そこのメイド。あとは私がこの子を案内するから持ち場に戻ってくれ」
「かしこまりました」
なんてことを考えていたらメイドが帰ってしまった。そういえばさっきなにか言いかけていたような気が……。
「……嬢……ウエステ公爵令嬢」
「も、申し訳ありません」
いけない。気を抜いてしまった。
「では、案内しよう。こちらだ」
私は陛下に連れられ薄暗く、蜘蛛の巣まみれの廊下へ歩みを進めた。
「ご苦労さま」
しばらく歩くと騎士のいる大きな扉の前にいた。
陛下に声をかけられた騎士たちは慌てた様子で返事をしていた。
「あの子に会いに来たのだが、開けてくれるかな」
「かしこまりました」
そう言って騎士は私の方を見る。
この少女は誰だ。通すべきか。と視線が言っていた。
「この子をあの子に会わせてあげようと思ってね。ほら、年頃だし友達も欲しいだろう」
「確かにそうですね。失礼しました、ウエステ公爵令嬢」
「気にしてないので大丈夫です」
にこやかにやり取りをしていると、もう1人の騎士が準備出来ました! と叫んだ。
「それじゃあ行こうか」
なにか意味深な笑みを浮かべる国王陛下に引っ掛かりを覚えつつも私は頷いた。
にしてもあの文……。
国王陛下の後ろを歩きながら私はさっき扉に掘られていた文字について思考を巡らせていた。
おそらく1番最初の単語は罪。2番目が人だから合わせて『罪人』
1番最後の文字は『牢』
そこから考えると、『罪人の牢』となるけだけど……3番目と4番目の単語がなにか分からないせいで、今ひとつ文の意味が分からない。
あの文がここを指すなら、ここは罪人の牢とのことだったけど、どう見ても罪人なんて1人もいないし。
いまいち掴みきれない文と周りの景色に君の悪さを覚えながら、私たちはどんどん奥へ進んでいく。
「あとは、この階段を降りればおしまいだ。ああ、そこの壁は触ってはいけないよ。触れば最後……私たちは出て来れなくなるからね」
壁に手を添え休憩していたら、そんなことを言われた。もちろん、すぐに手を離した。
ターンターンと音が反響する階段を一段二段と下っていく。
もう既に2階分は下ったような気がした。
「ここだ」
突如現れた踊り場にそれはあった。
魔法をまだあまり学んでいない私でもわかるほど強力な封印魔法が幾重にもかけられている小さな戸。
陛下が何かを唱えるとその戸が僅かに開いた。
細身の大人一人が体を横にしてようやく通れるかどうかと言うほどだ。
「おい、来たぞ」
少しきつい口調で陛下は行って中へ入っていく。
私もそれに続き中に入った。。
子供である私はさほど苦労せずに中へ入ることができた。
(うっ……)
中に入って最初に感じたのは微かに香る悪臭と視界の悪さ。
戸の前にランプがひとつあるだけであとは明かりがひとつもない。
奥に目を凝らせば微かに光の筋が見えた。おそらく窓であろうが、固く何かで閉じられているようだ。
「相変わらず……おっと暗かったね。今灯りをつけよう」
さっきとうってかわり口に笑みを浮かべて陛下は私を見た。
数秒と経たないうちに私たちの周りには光の玉がいくつも浮かんでいた。
確か光の初級魔法の一つだったはず。
「あいつはどこにいるんだ」
ボソリとそう言って陛下は光の玉を動かした。
「いた。まったく、お客様がいるというのに隠れやがって……手間をかけさせるな!」
ゴン!
突如響いた何かがぶつかる音に、私は陛下に近づいた。
光の玉を広げられる範囲が狭いらしく、私の周りはさほど明るくなかったからだ。
(?!)
声に出さないけれど、そこに広がる光景に私は驚愕した。
陛下の目の前に私とそう歳の変わらない女の子が倒れていたからだ。
でも、驚くのはそこじゃない。
驚いたのは、女の子の見た目だ。
淡く光っているように見える長い髪は、無造作に伸びて整えられていないのかボサボサで毛先は絡まっている。前髪も顔が確認できないくらい長い。
体や服があちこち薄汚れていて、かなりの日数お風呂に入っていないことが見て取れた。
手足には鎖がつけられ、女の子が動く度シャラシャラと音を立てていた。
そして、頭から血を流している。
先程のゴンという音は女の子が頭を打った音らしい。
「……このクソ野郎」
自分でも驚くくらい汚い言葉が出た。
聞かれてないかと、一瞬緊張したが陛下は未だ女の子を攻撃し続け私が暴言を吐いたことはおろか近づいていることにすら気づいていないようだった。
私たちの聖女様になんて仕打ちをしているのだろうか。
本当に聖女かどうかは分からない。
ただ何となく、目の前にいるのが自分がずっと求め続けていた子であることは確かだ。
ずっと微かに感じていた、喪失感が急に薄れていく気がしているから。
「陛下」
「ウエステ公爵令嬢、見苦しい所を見せてすまなかったな」
「いえ、お気になさらず……その子、私が陛下の代わりにお相手しても?」
「おお、そうかそうか。是非ともやってくれウエステ公爵家の次代は賢いなぁ。そこの罪人とは大違いだ。じゃ、あとは頼んだよ。仲良くな」
私のセリフを都合のいいように解釈した陛下はにこやかにその場を去っていった。
(二度と見たくないな……)
「では……」
最上級のカーテシーをぽ怯えた顔をしている目の前の少女にする。
「王国の尊き星にご挨拶申し上げます。テルシェ・ブロット・ウエステと申します。以後、お見知り置きください……ミルフィエ王女殿下。いえ、我が聖女」
聖女は女神の断罪にわらう 伊狛美波 @kirakira381
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