7話 幕間 【クリスベート】
メイドの声を遮ってきたのは国王陛下だった。
実をいうと、テルシェお嬢様は国王陛下に良い思いを抱いていない。
なぜなら国王陛下は神を騙り、侮辱する人だからだ。
ウエステ公爵家はここアテシエ王国の貴族では珍しく、黒髪黒目をしている。アテシエ王国全土を見渡せば珍しくはないが、貴族となれば話は別。
聖典曰く、アテシエ王国は女神アテシエが世界を作る際、最初に作った土地であり、人類が発展するまで滞在していた地であるとされている。
そのため、女神アテシエの影響が色濃く土、水一つとっても微量の魔力が含んでいるほど。もちろん人も例外ではなく、アテシエに住まう者はもれなく、魔力を含んでいる。他国はそうではないらしいけど。
そのせいでアテシエ王国の血をひくものは皆、髪が魔石のようなものになった。
魔石は、魔力を込めると込めた魔力の種類によって色が変わる。それと同じ原理で、体内に流れる魔力の特性で髪の毛の色が変化している。
人間は母体の中にいる時、神から極小量の魔力が授けられる。それが生来属性だ。そして産み落とされたあとは自ら無属性の魔力が作られるため、それが徐々に生来属性を薄めていく。
例えるなら、はちみつレモン(生来属性)を水(無属性の魔力)で無制限に割って行くようなものだろうか。
はちみつレモンは水がなければ味は濃いままだし、水を注ぎ続ければ次第に味が感じられないほどに薄くなる。だから、魔力が多いものは髪の毛の色が白に近く、少ないものは黒に近くなる。
だが、闇属性を生来属性として持つものはいくら無属性の魔力を注ごうとも色が全く変わっていないように見える。まるで、ガラスのコップに入った黒いインクにいくら水を足しても黒く見えるように。
そして、ウエステ公爵家に生まれるものはどういう訳か闇属性を生来属性とするものが多い。だから黒髪というわけだ。
ちなみに、黒目の理由はウエステ公爵家の血統魔術が「影」由来だからとしか言えない、というかそれしか知らない。
更に一般には知られていないが、ウエステ公爵家は闇の神を祖先であるとし崇めている。
あの国王が驕る光の神は女神であり、闇の神と夫婦だとされている。
以前は王家もこのように驕らず、ただ祖先であるとして崇めていた。夫婦であるなら、光の女神も共に崇めるものだとウエステ公爵家は、光の女神を崇めている王家に忠誠を誓っていた。
しかし数代前からこのように驕るようになり、三代前のウエステ公爵よりウエステ公爵一族は王家に対する忠誠を表向き誓い、王家の命令をそれとなくさけ続けた。
そして、テルシェ父の代となった3年前から王家に対する忠誠を完全に誓わないことを決めた。
それでも王家という力は絶大である。何代にも渡って表向きにとはいえ、忠誠を誓わざるを得なかったように完全に忠誠を誓わないというのは難しいようだ。
彼は何も言わかなったけど、おそらくもう先延ばしにすることが難しくなったのだろう。
本来公爵位に叙される時は国王立ち会いの元人々の前で爵位を受け取るのが基本だが、3年前、彼が叙された時はテルシェ母の体調が急激に悪化し、いつ息絶えるかも分からない状況だったため爵位授与の紙に国王がサインした紙を彼がが受け取ることで終わっていた。
彼女の実家の侯爵家も王家の血を一部引く侯爵家の出身だし、王国一大きな会社をもつ家でもあったから王家も無下にできず、お父様の気持ちを汲む形でそのような運びになったらしい。
ちなみに、その時は彼女の体調は今と違いとてもよかったのを薬で一時的にそう見せかけていただけだった。しかし、再び身ごもった頃から徐々に体調を崩し今は療養に専念している。
そして侯爵家も公爵家と同じ意向であるためそれを利用し、のらりくらりと忠誠を誓う機会を逃れ続けていた。
だがそれでも永遠ではない。
だから彼はは、今回の場を利用しようと考えたのではないだろうか。
『王子王女殿下の補佐官見習いとして王宮に出仕させよ』
という数あるうちの王命のひとつを。
彼はテルシェに友達というフレーズで隠していたようだけど、メイド一人一人の口はふさげないものである。
彼の上司……テルシェの父親の命令で背後からひっそり着いてきていた男、クリスベートはそういった背景を思い出しつつ再びテルシェお嬢様方へ目をやった。
「うお〜、どうやってあんな表情をお嬢様は身につけたんだ? まだ6歳くらいだろ」
そこには、目の笑っていない笑みを浮かべているテルシェがいた。
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