第2話 再会
遠山日向と香川秀、神田誠と力丸は、小学校から高校までずっと同じ腐れ縁であり、高校卒業を機にそれぞれの道を選ぶことになりバラバラになった。
日向は地元の工場、秀は喫茶店の接客、そして頭が良かった誠は有名な私立大学に指定校推薦で行く事が決まっていた。
ただ、不況の影響でどこも経営が不振になり、理不尽なパワハラが横行し、元々短絡的な傾向があった日向は上司と殴り合いの喧嘩になり会社を辞めたのはいいものの、悪評が流れてどこも雇わずに仕方なく噂がない都内へと上京した。
秀がいた喫茶店は、前日の余り物の食材を使っていたのがバレてしまいマスコミに取り立たされ、店を畳むことになり、「いい機会だから」という理由で上京をする。
誠の場合は、大学で優秀な成績を収めて勉学に精を出していたが、実家がリストラの憂き目にあい、学費が支払えず、生まれつきの滑舌の悪さと口下手で面接に落ち続けて最終的にどこにも行けなくなり、仕事が多い都内へと向かう事になったのである。
「そんなことがあったんだなあ……」
力丸は、昔の友人が激動の人生を送ってきているのを感慨深く感じ、人生は色々なんだよな、と自分の身の上と照らし合わせると、飲んでいる日本酒が胸にジンと染みる。
「なぁ、ところでお前ここにずっといるの?」
「馬鹿言え、条件のいい会社があったらそこに行くつもりでいるよ」
「でも他の会社ってどこも人を雇わないみたいだぞ……」
日向達は、自分達が置かれた環境が、かなり厳しい場所にあるんだなと改めて感じており、深いため息をつく。
「でも君ら、俺らよりも若いよな?」
隣のテーブルにいる永山は、日向達を興味ありげな表情で見つめ、「若くて羨ましいよな」と呟き、ビールを口に運ぶ。
「俺のような50近いやつだともうどこも行くところはないんだが、君らまだ20歳そこそこだし、行くあてはあるんじゃないか?」
「いや、それがないんですよ……。大卒の人間でも仕事がないし、俺らのような高卒だとどこも雇わないんです……」
誠は自信を無くしているのか、小声でそう呟き、携帯電話で出会い系サイトをやりながら、鳥の軟骨を口に入れた。
「あの、ここって昇給とかってないんすか? ちょっときついんすけどね、この給料だと」
秀は、漫画本やピンサロに散財する癖があり、最低賃金と同程度の水準の賃金に、不安を隠せないでいる。
「いや、君面接でなにを言われたが知らないが、うちは昇給は今の所ないぞ、不景気だし。他の派遣会社もそうみたいだから」
「……」
永山の一言に、力丸達は沈黙してしまい、ますます転職の二文字が頭をよぎりかけている。
(俺らは、一生どん底のまま暮らすのか……?)
ここにいる人間は、誰も口にはそう出さないが、はたから見たら誰にでもわかるような、壮絶な悲壮感を醸し出していた。
♪♪♪♪♪♪♪
力丸の元へと日向達がきてから仕事を覚え、一月が過ぎ、ようやく一人前になってきた頃の事だ……。
「あーあ、なんだよなぁこんな仕事やってらんねぇな」
秀達は面倒臭い毎日に揉まれており、学生の時のように刺激的な日々を回顧している。
「あの上司ムカつくなあ……」
「だよな! ムカつくだろあいつ!」
力丸と誠が話している上司というのは、現場リーダーの本庄であり、暴言が酷く時には暴力を振るわれ、評判は芳しくない。
なぜクビにならないのかというと、父親が町議員であり、親の七光りで仕事についているようなもので、逆らったらこの町では仕事が見つけられないようにしてくる為誰も文句を言う者はいない。
「馬鹿聞こえるだろ!?」
秀は慌てて周りを見まわし、会社の上司がいない事を確認する、このファミレスは会社のそばにあり、よく社員が利用するのである。
「なぁ、俺らバンド組まねぇか?」
日向の発言に、力丸達はなにが起こったのか訳が分からず、ポカンとして日向の顔を見やる。
「だ、か、ら、バンドだよ」
「え?」
普段から卑猥な事(キャバクラやピンサロ等)にしか頭を使わず、理解能力が乏しかった力丸は日向の発言の意味をようやく理解したのか、驚いて口にしているカルボナーラを思わず、ぶっと吐き出した。
「え? いやお前正気で言ってるのか!?」
「単なる嘘だよな……?」
秀と誠は、力丸同様にして普段出会い系サイトやアニメしか興味がなく、バンドをやるのには疑問を感じている。
「嘘じゃねぇよ! こんなチンケな仕事を毎日やってたらすぐにしょぼくれたおっさんになっちまう!モテたいだろ!?」
「うーんいやそうだがな……」
「面白そうだが俺はやるぞ」
秀は、この町でのパチスロや風俗に飽きたのか、自分で新しい刺激をつくろうかと考えており、迷わず日向の誘いに乗った。
「これ金かかるんじゃないの……? いや、やっても良いけどさ」
「いやそれは、ジャンクショップを見つけたからそこで楽器を買う! そんな金かからねーし!」
「ふうん、面白そうだな……」
誠は機械いじりが好きであり、自分で楽器を改造して使ってみたいという衝動に駆られ、首を縦に振る。
「力丸はどうするんだ?」
「俺は……」
力丸の脳裏には、学生時代の思い出が頭をよぎる。
軽音学部に興味があったが、練習が面倒くさそうと言う理由で入るのをやめた、本当は好きだったのにも関わらずだった。
卒業ライブで演奏している連中を見て、顔が輝いているなと感じ、自分もやっておけばよかったなと後悔した。
(自分の気持ちに素直になりたい)
心の声に従う形で口を開く。
「俺も参加したいがいいか?」
「あぁ、いいぜ」
日向の姿が、心なしか彼らには、光り輝く大きな男に見えた。
底辺ロッカーズ〜ワープア三人組の成り上がり音楽奇譚 鴉 @zero52
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