エピローグ

第53話 いつまでも

 それから間もなくして、富岡商事は記者会見を開き謝罪し、負債を払いきれないとして倒産した。多くの人間が路頭に迷うことになるが、俺をいじめていた人間のことだ。ざまあみろぐらいにしか思っていない。


 今日は十二月二十四日。完全にライバーとして生活できるようになっていた俺は胸を張って生きるようになっていた。だから、野々花に連れられて彼女の家に何回目かの訪問を迎えたときも緊張しなかった。


 そこにはアキラも玲奈ちゃんもいて、団欒を楽しんだ。鶏の半身、おいしかったなあ。もうお金には困っていないのに、おいしいものになるとやっぱりまだ手がでない。


 増田だが、地裁で死刑が言い渡された。増田側はこれを不服として控訴したが、情状酌量の余地なしとして裁判所はこれを却下、死刑が確定した。


 そんなニュースを見ながら食事を終え、一番最後に風呂に入って俺の客室に入って寝る準備をする。もう前までのように早朝に起きて準備をしなければいけないということが減ったので、申し訳ないが今日だけはゆっくり浸からせてもらった。


 ベッドに入ったところで、ドアがノックされる。誰だろう。


「おじさん、起きてる?」


 野々花だった。


 サタンを倒してから公式に野々花組に入った俺にはオフの日はべたべたしにボロアパートにも来るようになっていた。意外だったのは、野々花の料理が案外上手だということ。未来はいい奥さんになるだろう。


「起きてるよ」


「入っていい?」


「いいけど……」


 そういうや否やドアが開けられる。パジャマ姿の野々花も可愛い。こんな妹がいたらなあ。俺の家は男兄弟だから女の子がいてほしかった。


 野々花は入ってくるなり後ろ手にドアの鍵をかけた。


「の、野々花……?」


 言いようのない恐怖を感じて俺の前に立った野々花に対して上半身を起き上がらせると、そのまま両肩を押さえつけられてベッドに縫い付けられる。


「ね、添い寝してよ」


「ど、どうして?」


「私がしたいから。だっておじさん、オフの日に会いに行って愛してるって言っても取り合ってくれないんだもん」


 それはそうだろう。いくら結婚できる年齢だからと言っても、これから大学受験も控えているだろうし。俺よりもずっと忙しいはずなのだ。


「……ねえ」


「なんだよ」


「野々花、おじさんのところに下宿したい」


「んなぁっ!?」


 思わず大きな声が出てしまう。だってそうだろう。もっといいマンションに住めるだろうに、うちのボロアパートに下宿したいだなんて。許されていいことじゃない。


「だめ、かな」


「だめに決まってるだろ。だいいち狭い。一人一人暮らすのに精一杯なのに二人なんて入りません」


「なら、一緒に寝ればいいじゃん。こんなふうに」


 野々花がベッドに入ってくる。俺は驚きで声が出なかった。いくらセミダブルの大きなベッドといえども、俺は男でダンジョン配信しているうちに筋肉もついてきてガタイがよくなってきているのである。


 そんな狭い空間に嬉しそうに入ってくる女子高生。犯罪の香りしかしないぞ。


「こら、見つかって俺が捕まってもいいのか?」


「私はおじさんを警察に突き出さないもん。ちゃんと合意ですって言う」


「そういう問題じゃなくてだな……」


 そんな問答をしているうちに、ぐいぐいと野々花がベッドの中に入ってくる。


「ああ、おじさんの匂いでいっぱい」


「うっとりするところか……?」


「おじさんの匂い、安心するんだもん」


 こんなおっさんの匂いを安心するなんて、奇特な人間もいたものだ。


「しょうがないな。今晩だけだぞ」


「やった! おじさん大好き!」


「胸を当ててくるな。ベッドから落とすぞ。……まったく、お前は男に無防備すぎる。襲われたらどうするんだ」


 野々花の胸は凶器だ。ただでさえ酒が入っても理性が勝っているからこうしていられるのだ。早く自覚してほしい。


「ぶう。今日が特別な日なの、おじさんもわかってるでしょ?」


「そりゃそうだけど……」


「おじさん、愛してるの。だから、一緒に寝たいの。クリスマスイブっていう特別な日を、一人で終わらせたくなくて」


 野々花のちょっと冷たい手が俺の頬に添えられる。心臓がドキドキしてきた。本気で愛を囁かれるなんて、初めての経験だから。


「俺は……」


「ううん、おじさんは焦らないで。おじさんは優しいから愛してるって言ってくれるだろうけど、たぶん違うだろうかから。私の一方通行な恋なの。でも、もし野々花が大学卒業してそのときもまだおじさんのことが好きだったら、結婚してくれる?」


「……考えておくよ」


「ふふ、おじさん照れてる」


 こんなの、照れないわけないだろう。超絶美少女にこんなふうに迫られて、理性も限界に近い。


「あんまり大人をからかわないこと。俺は寝るから」


 野々花に背中を向けて練る体勢に入ると、そこから抱きしめられる。


「愛してるよ、おじさん」


「……まったく。俺はお前のことは好きだよ、野々花」


「嬉しい」


 そうして人の体温に温められた俺は、眠りに落ちていく。


 俺の人生は始まったばかりだ。これからも、三人と、いや野々花と様々な困難を乗り越えていくんだろう。でも大丈夫。俺はもう一人じゃないから。


 そのとき天照が微笑む気配がした気がしたが、眠くて確認できなかった。









あとがき

完結までお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます!

約15万文字での決着でした。本当は続きがあったのですが、PVの推移を見て断念。きりもいいのでここでの完結になりました。

長岡と野々花、いかがだったでしょうか?セット感を感じていただけたでしょうか?


最後に、孤児に生まれた俺、冒険者ギルドの魔力計測器をぶっ壊して最強の座に~エルフの俺、魔力は無限だったようです~という作品を連載しています。そちらも主人公最強ものですが、無双するのは五話から。できればよろしくお願いします。


ではでは、シーユーアゲイン!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

底辺窓際族のおっさん、配信者になる~うっかり人気ライバーの配信に映って覚醒しバズってしまった~ ぷにたにえん @punitanien

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画