第43話 不老不死の血
次の日、南雲は普段と変わらない明るい態度を振る舞っていた。
一目で無理をしていると分かるような、わざとらしい態度だった。
しかし、それをわざわざ指摘しようとも思わなかった。南雲は、逃げないことを選んだのだ。だから、この態度は南雲の強さの証だった。
俺は、その危なっかしい態度を見守り、時に手助けをしようと思い、南雲の側を歩いた。過剰な助けは良くないが、南雲に気づかれない程度なら、問題はないだろう。
そんな風に南雲の側を歩く俺を、今日ばかりは、ラミリーも何も言わなかった。俺がいなくなって暇になったのか、ぼんやりと後ろを歩いていたリュウウェルにちょっかいをかけてる。リュウウェルは、そんなラミリーに対して面倒くさそうに接していた。
こうして、五日目の旅は始まり、お昼に近づいた頃、南雲が自分の剣さばきを見て欲しいと、俺に言ってきた。
ちょうど、昼休憩の時間も近かったので、昼休憩もかねて、見てもいいと了承した。
俺は、近くの切り株に腰をおろし、闇雲に剣を振るう南雲を見た。
剣筋は意外にも悪くない。多少、コツをつかめば、成長するだろうと思い、南雲の手をとって教えようと、南雲に近づいたとき、南雲が盛大にすっころんだ。おそらく、空元気のせいで、無理に体を動かしたのだろう。
転んだ時に握っていた剣が、俺の方に迫ってくる。
至近距離で、とっさのことで警戒していなかったため、避けることができない。しかし、常時展開している防護結界があるため、問題ないはずだった。
鮮血が飛び散った。
ラミリーとリュウウェルが、見たことないほど驚いた顔をしている。当然、俺も驚きを隠しきれなかった。
南雲だけが、取り乱した様子もなく、申し訳なさそうに口を開いた。
「ご、ごめん、ちょっと足滑らせちゃって、京介の腕に剣がかすっちゃった。…やば、血が出てるじゃん。は、早く手当しないと。」
俺の腕についた傷は大したことない、本当に些細な切り傷くらいだ。しかし、俺に傷がついたということが、異常だった。
おそらく、結界破壊の加護。それも、強力なものだ。でなければ、俺が常時展開している結界を破る事なんてできない。まさか、こんなところに、それほど希少な加護を持っている人間がいるとは思ってもいなかった。存在こそ知っていたが、三千年生きてきて、はじめて出会ったくらいだ。
俺は、何とか平静を装い、手当をしてくれている南雲に問題ないと告げようとした。
その時、俺の腕から飛び散った血が、南雲の傷に触れて、その傷がみるみるうちに回復していくのを見た。回復していくだけじゃなく、触れた部分は、周囲と比べても一際綺麗に見えた。
これは、ただの回復効果ではない。若返っている。おそらく、不老不死の能力を持つ俺の血には、若返りの力がある。
三千年もの間、生きてきたが傷を負ったのは今日が初めてのことだった。だから、こんな事すら知らなかったのだ。
真っ先に思い浮かんだのは、京花の事だった。
これなら、京花を助けることが出来るのではないだろうか。寿命で龍へと昇華した京花を若返らせて、人の姿に戻すことが出来るのではないか。
それに気づいたとき、自然と笑みが漏れた。
まさか、京花が教えてくれた人との関わりが、京花自身を助けることになるとは。
いや、本当に助けられたのは、俺の方か。
京花と話すことも、必要なら京花を殺すことも覚悟して、町を出た。しかし、情けないことに、京花を助けられるかもしれない、と思った途端、急に体の力が抜けた。安心したのだ。同時に、嬉しいとも思ってしまった。
そうか、俺は本当は、覚悟なんてできていなかったのかもしれない。
きっと、もし殺したとしても、一生後悔することになっただろう。
それに気づいたとき、俺は自然と南雲に向かって言葉を放っていた。
「南雲、ありがとな。」
南雲は不思議そうな顔をしていた。
その後、取り乱したリュウウェルとラミリーがやってきて、大騒ぎになったのは言うまでもないことだった。
【第一章完結】最強能力で転生して気づいたら3000年経っていました ~神も為政者も経験したけど今は正体を隠してただの食客をやっています~ 憂木 秋平 @yuki-shuuhei
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