第42話 恐怖に向き合うということ
「……戦うことが楽しみだったし、楽しいことだと思ってた。自分が強いって思ってたわけじゃないけど、もう少し、戦えると思ってた。だけど、私は全く歯が立たなかった。何も出来なくて、ただ、……怖かった。……戦うって事が、こんな風なら、もう戦いたくないって思った。自分には、才能がないんだって。」
南雲は、初めての戦いで感じたことを教えてくれた。後半は、少し涙声でさえあった。
ここで、慰めることは簡単だ。お前には向いてなかった、怖いなら、わざわざ戦う必要はない、そう言ってあげれば、南雲は納得して、戦いから逃げることで、心の傷を癒やすことができるだろう。しかし、俺は南雲に対して、そんな優しい言葉をかけてあげることができなかった。
「南雲、お前には才能がある。だから、戦え。お前が戦えば、救われる人がたくさん居る。」
「あの戦いを見てたなら、わかるでしょ!私に才能なんかない!」
南雲は、先程までの消え入りそうな声が嘘のように、語調を荒げて返した。
「確かに、南雲は、最初から強いような才能があるタイプじゃない。けど、南雲は、普通の人が持っていないものを持ってるんだ。……それは、魔獣と戦いたいと思う純粋な心だ。」
「……そんな気持ちもうないよ……。今は、もう魔獣を見たくもない。」
「いや、南雲は勘違いしている。魔獣と戦いたいと思う気持ちと魔獣への恐怖は、決して相容れないものではないんだ。魔獣に対して恐怖を抱きながら、戦いたいと思う事ができるんだよ、南雲なら。」
南雲は、今、はじめて抱く魔獣に対する恐怖ばかりが、先行して頭に浮かんでしまっているから、勘違いしているが、南雲の心には恐怖以外の気持ちも確かにあるはずなのだ。
「……どうして、今の私を見てそう思うのかが分からない。」
「南雲を見ていたからこそだ。南雲は、魔獣にやられた後に、逃げ帰ることもできたはずだ。もしくは、俺たちに、もう帰ろうとか、帰らせて欲しいとか、伝えることが出来たはずなんだ。普通の人なら、あんな風に痛めつけられたなら、そうする。先に進もうとは絶対に思わない。」
南雲は、俺の言葉に何も言わない。おそらく、その通りだと、気づいてしまったのだろう。
「魔獣に対する恐怖は簡単には拭えないかもしれない。だけど、その恐怖も戦いには必要なんだ。怖いから、生きたいから、真剣に戦える、恐怖はそんな側面も持っているんだ。もう一度、自分の気持ちと向き合って、それでも戦いたくないなら、俺はそれを止めることはしない。」
俺がそう伝えると、南雲はゆっくりと頷いた後、口を開いた。
「京介はさ、今日みたいに、私が死にそうになったら助けてくれる?」
「保証は出来ない。」
「……そっかー。」
そう言うと、南雲は、ゆっくりと自分の寝床に戻っていった。
冷たい答えかもしれないが、南雲がいざという時に俺に頼るようになって欲しくはなかった。
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