第41話 南雲の初陣
旅は意外にも順調に進んだ。
ラミリーは、俺が構ってやれば上機嫌だし、南雲は初めて見る土地や動物なんかに興奮してるし、リュウウェルは、ぼんやりと空を見上げているしで、ばらばらではあるが一応喧嘩はなかった。
キャンプの最中は、食べ物を巡って、ラミリーと南雲が少し言い争いをするような場面もあったが、それも尾を引くようなものではなく、すぐに仲直りをしていた。
しかし、当然遠くまで行けば、魔獣に遭遇する可能性も高くなるわけで、その日、はじめて魔獣に遭遇した。
町をでてから、四日目のことだった。
遭遇した魔獣は、鳥型に分類される、爪が異常に発達した、空を飛ぶ魔獣だ。
並の冒険者なら少し手こずるくらいで、駆け出しの冒険者なら、迷わず逃げて、助けを呼びに行くような魔獣だ。
俺は、はじめは手を出さなかった。
ラミリーとリュウウェルにも、南雲の補助をするに留めてくれとお願いをして、南雲が戦うのを見守った。
南雲は、全く恐れていなかった。おそらく、まともに魔獣と戦うのは初めての経験だろうに、勇敢に魔獣に向かっていった。
しかし、結果は予想通り、まるで歯が立たなかった。何度も、爪に裂かれ、突進をくらい、すぐに全身が傷だらけになっていった。
リュウウェルとラミリーの補助はあるものの、二人はそもそも補助魔法の専門ではないので、絶望的な力の差を埋めるほどの手助けにはならなかったようだ。
南雲の攻撃は魔獣にかすりもしない。
一方、魔獣の攻撃は南雲を確実に死に近づけていく。
そんな、見ていられないような攻防が十分ほど続き、次の一撃が南雲の致命傷になると判断したタイミングで、俺は戦闘に参加した。
手をかざし、魔獣を結界ですり潰す。
魔獣は、奇妙な断末魔を上げて、消滅していった。
こうして、南雲の初陣は、完膚なきまでの敗北で終わった。回収した南雲の顔は見えなかったが、戦闘が始まった際に浮かべていた笑顔でないことだけは確かだった。
その日の夜のキャンプは、とても静かだった。いつも明るい南雲が、口を閉ざしていたからだ。一応は、動ける程度には回復の結界や魔法をかけたが、まだ完治しているわけではない。依然、傷は残っていて、全身に包帯を巻いた状態だった。
南雲と仲の悪い、ラミリーもこの日ばかりは、南雲に突っかかるような事はしなかった。
こうして、静かな夕食が終わり、就寝の時間となった。
俺がいつものように、周辺の見張りをしていると、誰かが俺の側にやってきた。
それが誰かは振り向かなくても分かった。予想していたことだったからだ。
「南雲、まだ寝ないのか?」
返事はない。普段なら、必要のない会話を織り交ぜるだろうに、今はそんな余裕もないように見えた。
だから、俺は南雲の意を汲んで、こちらから本題に入ることにした。
「怖いのか?」
「…………うん。」
随分と時間を空けて、南雲から返事があった。
それから、南雲は消えてしまいそうな声で、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
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