王太子の婚約者様が可愛すぎる

碧桜 汐香

第1話

「ルカ、王立学園の入学許可証だよ」


「は?」


 お父様に手渡された書類を見て、私ことルカは首を傾げた。

 王立学園 入学許可証、と書かれたそれは、金箔が織り込まれていて、私の住む辺境の地では、見たことのない輝きをした紙だった。


「……お父様、法には触れてないわよね?」


「失礼な! うちの特産物を少しばかり献上しただけだよ」


「なるほど……」




 辺境の地、テオフィオ子爵領。王都イェルザルからはるか西。馬車を4回乗り換えないと辿り着くことができず、独自の文化が花開く場所。そんな子爵家の長女が、生粋の貴族が過ごす王立学園へ入学することが決まったのだった。









「私みたいな通いが難しい生徒だけの寮じゃないのね」


 王立学園に到着し、女子寮への入寮手続きを済ませたルカは、周りを見渡しながらそう呟いた。

 

 王立学園は全寮制の学園だ。広大な敷地の中心には男子寮と女子寮がそれぞれ存在し、真ん中にはラウンジが存在する。

 光り輝く校舎に、高価な美術品が並んでいる。さらに、寮の私室はルカの実家のリビングサイズが一人一室だ。腐っても子爵家であるテオフィオ子爵家。そのリビングサイズが狭いわけない。ルカの持ち込んだ荷物は、他の令嬢と比べて少なすぎて、スカスカな私室が完成したのだが。


 そんな広大な敷地を持つ学園には、婚約者同士や同派閥の者たちで語り合うためのガゼボやサロンが至るところに存在する。





「マルティーナ様、学園内の案内をさせてくださいませ」

「いえ、私が」

「よろしければ、私もお連れくださいませ」

「そうですわ! 王太子殿下と過ごされるのにおすすめのガゼボがございますの!」



 マルティーナと呼ばれた令嬢が、大勢の生徒に囲まれながら通り過ぎていく。その姿を見たルカは思わず見惚れてしまった。


「なにあの半端ない美人。顔面尊すぎない? どこかに絵姿売ってるでしょ……魔導石を使ってなんとか記録媒体を作ろう」



 緩くウェーブがかったサラサラな髪。ツルピカなお肌にバサバサなまつ毛。くるくるした愛らしい瞳は不思議な力が宿っていそうなくらい魅力的だ。微笑みを浮かべる口角すら完璧で、彼女の通り過ぎた後からはふわりといい香りが漂ってきた。

 「えぇ、ありがとうございます」とこぼれた声の音色は、鈴が転がるようでとても愛らしく、聴く人全てを魅了してしまうだろう。歩き方も、見ているだけで洗練されているとわかる美しさに、コツンコツンと心地よく響く足音さえ愛おしい。ちらりとスカートから見える御御足の描く曲線は美でしかない。

 一気にそこまで考えたルカは、その後半日で録画装置を作り上げたのだった。ルカのその発明は、さすがテオフィオ子爵家と言われだ。辺境の地は、いろんな意味で有名であったのだ。






「……君がテオフィオ子爵家のルカ嬢かな?」


「……ふぉーでふが、どなたでふか?」


 ルカが学園の食堂でランチを楽しんでいると、後ろから突然話しかけてきた男子生徒がいた。もちろんルカはぼっちだ。


 もぐもぐしながら返答するルカの無作法さに、男子生徒の動向を見守っていた周囲の者は一斉に息を呑んだ。


「はは、テオフィオ子爵家の方に知られてないなんて、僕もまだまだだな。お隣、いいかい?」


「……はい」


 明らかに高位そうな男子生徒からの申し出を断ることもできず、慌てて食べ物を飲み込んだルカは、そっと荷物を隅に寄せ、隣に人が座れるように場所を整えた。

 その男子生徒は、現れた瞬間、周囲の女生徒たちが色めき立つのもわかるくらいに整った容姿をしていた。前に寮で見た美少女と並んだら、神殿に飾っていいと思う、とルカは一人で納得していた。


「マルティーナもおいで」


 食事を楽しんでいた人の席に割り込んでおきながら、連れがいるんか、と少しむっとしたルカが振り返った先には、女神がいた。


「私もご一緒して、よろしいでしょうか? テオフィオ子爵令嬢」


 こてりと首を傾げながら問いかけてきた女神に、ルカはコクコクと壊れたロボットのようにただただ頷き続けた。


「はじめまして。……ふふふ、お口にソースがついていらっしゃいますわよ?」


 微笑みながらさっと取り出したハンカチで、ルカの口の周りを拭うマルティーナに、ルカは口をパクパクさせながら、お礼を言った。


「ありがとうございます、マルティーナ様……?」


 勝手に名前で呼んでしまったルカに、周囲からは非難混じりの声が飛ぶ。そんな空気を美しい微笑み一つでマルティーナは変えてしまったのだった。


「あらあら、殿下よりも私の方が有名でしたわね? 私もルカ様とお呼びしてもよろしいかしら?」


「は、は、は、はひ! もちろんです。むしろ様などつけないでくだはひ!!」


「マルティーナに負けてしまったな。この国の第一王子であるクリスだ。私もルカと呼ばせてもらおう」


「あ、はい。どうぞ」


 第一王子であるクリスが、名前で呼ぶと言った意味を全く理解していないルカは、マルティーナの美しさに夢中であった。しかし、周囲では倒れている女生徒や、親に連絡するために駆け出す生徒たちで、大騒ぎとなっていた。


 異性を名前で呼び捨てで呼ぶということは、婚約者がいない場合は婚約者、いる場合は側妃もしくは愛妾のような立場として召し抱える可能性が高いという意味になる。辺境育ちのルカはそんな王都ルールも知らずに肯定してしまったのだ。もっとも、知っていたとしても第一王子たるクリスの発言を拒絶することは一貴族令嬢には不可能だが……。



「まぁ! それでは、ルカ様は、私と仲良くしてくださるかしら?」


「は、はひ、はい! 喜んで!」



 マルティーナに微笑みかけられたルカは、意味もわからず頷き続けていた。










「え、あれってそういう意味だったの?」


「ルカったら、知らなかったの?」


 寮がルカと隣室で仲良くなった子爵令嬢ユピアが答える。そもそも、あれだけ目立ったルカと仲良くしてくれるなんてユピアはどれだけ勇者なんだとルカは思っている。


「ただの子爵令嬢が殿下の愛妾になるなんて非現実的すぎるでしょ。ないない」


「殿下も陛下から“かの有名なテオフィオ子爵家の令嬢を取り込むんだ”とか言われてるんじゃない?」


「え、うちってそんな有名? ものすごい辺境でちょっと文化が独特なだけでしょ?」


「ものすごい辺境は言えてるけど、文化が独特ってレベルで終わらせられないくらいの天才集団の地よ? テオフィオ領って」


「いやいやそんな……」


「もちろん、ルカも含めてね? 入学して半日で録画装置作り上げたとか……というか、殿下の愛妾になれば、あなたの推しのマルティーナ様のお姿を見放題よ?」


「…………」


「殿下の権威やら外観やらに釣られるんじゃなくて、マルティーナ様のお姿に釣られるのがルカらしいわね?」


「えへへ」


「別に褒めてないんだけど」




 ルカはユピアに少しずつ社会常識を叩き込まれていた。ただ、有名なルカと友達になろうと思うくらいだ。ユピアも少し変わった人種ではあったが。



「ねぇ、ルカ……殿下のお姿、撮れたら私にちょうだい?」


「いいけど……何に使うの?」


「複製してファンクラブに売りまくるの!」


「やめい!」



 ユピアは守銭奴だ。金の香りに釣られてルカと友達になったとルカに明言している。ルカの才能は金のなる木ではあるが、ユピアの圧力のせいでルカが怯えて流通に至らないというところはある。そのおかげで、市場のバランスや作り手の崩壊を免れているのだが。







「ねぇ、ルカ。僕と一緒にお茶をしないかい? 王都で有名なケーキを買ってきたよ」


「……マルティーナ様もご一緒ですか?」


「ルカは、マルティーナに気を使ってくれるんだね。もちろん同席させよう」




 勘違いした殿下の誘い文句に、ルカはマルティーナという要望をつけて返答する。殿下は、将来の王妃を立てていると勘違いしているが、全くの見当違いである。



「ルカ様、ごきげんよう? 私も同席させていただいてよろしかったのかしら?」


「ま、まままるマルティーナ様。ごちげんよ、ごきげんようでございます」


「……ん?」


 ルカの、マルティーナへの異常なまでの固まり具合を見た殿下は不思議そうにその姿を見つめている。



「……マルティーナ。ルカと何かあったのかい?」


「……いえ、私が話しかけるといつもこのようなご様子でいらっしゃいますわ?」


「ふむ」


 こっそりとマルティーナに耳打ちした殿下は、不思議そうに首を傾げている。マルティーナがルカに嫉妬していじめ等を行っていないか調査する必要があると思ったのか、側近を呼び、ボソボソと話しかけた後、側近から何かを聞いたようだ。



「……マルティーナ。ルカの隣に座ったらどうだ?」


 ルカの隣に座っていた自分の席を立ち、マルティーナを座らせたのだった。



「うわっ! ぐぼ! ごほうび! ぐっ」


 奇声をあげたルカは椅子から転げ落ちた。もちろん、マルティーナと反対側に。


「まぁ、大丈夫ですか? ルカ様。ふふっ、ルカ様はいつもおっちょこちょいでいらっしゃるんですね?」


「おっちょこちょ、言葉のセンス、かわ、崩壊。……ありがとうございます、マルティーナ様」


 差し出されたマルティーナの手を掴み、ルカは椅子に座り直した。


「洗えない、洗わない、ハンカチで拭ってそれを取っておけばいいのか?」


「……ルカ、大丈夫か?」


「あ、はい。殿下。大丈夫ですわ」


 殿下には相変わらずの対応なルカであった。





「ねぇ、ルカ様。私と一緒に組みましょう?」


 ダンスの授業中。持ち前の運動神経でなぜか上位クラスに入れられたルカは、ペアを作ることもできず、ポツンと一人で佇んでいた。そんなルカに、マルティーナは優しく声をかける。


「ま、まま、マルティーナ様。私男性パートはそこまで得意ではないのですが……精一杯努めさせていただきますわ」


 キリッとしたルカに、マルティーナは笑いながら答える。


「男性パートを理解することできっと上達につながりますから、二人で交互にやりましょう? では、私から男性パートをいたしますわ」



 そっと手を握られたルカは失神しそうになりながら、ダンスを踊り始める。


「まぁ、お上手ですわ。さすがルカ様」


「あ、あありがとうございます、マルティーナ様」




「……いい匂いが止まらない。かわいい。笑顔近い死ぬ。はすはすしたい」


「なにかおっしゃいましたか? ルカ様」


「いえ、なんでもございません」


 心の声ダダ漏れのルカに、マルティーナを除いた周囲はちょっと引いていたのだった。










「ルカって、なんでそんなにマルティーナ様のこと推してるの?」


「まず顔」


「あ、そ」


「顔もさることながら、ふわりと香るあのいい匂い。あと、優しいところ。単に優しいだけじゃなくて特別扱いして落としにきてるんじゃないかって思わせるような優しいところ。あと、理想的なスタイル。生足触りたい。こっち見て花が咲いたように笑う笑顔も最強。あと独特なオーラというか力のある目線? 目力みたいに強いわけじゃなくて優しい感じ。嫁にしたい。殿下羨ましい。でも何よりあの顔」


「……ごめん、気持ち悪い」


「知ってる」


 ユピアは、ルカからそっと距離を取った。そんなユピアを放っておいて、ルカはつぶやいた。


「あとなんだかんだ全部自分で背負っていそうな感じ? 放って置けないよね」


「……人のこと言えないくらいルカも優しいと思うから、ダメな男に引っかからないようにね?」


「私は殿下の愛妾になるっぽいんでしょ?」


「……確かに」



 そんなことを二人で話して、私室に戻っていったのだった。










「ルカ、マルティーナと一緒に研究を手伝ってくれないか?」


「はい、喜んで!」


 殿下に頼み込まれたーーマルティーナという餌を使って丸め込まれたーールカは、新しい魔術具の研究に取り組もうとしていた。



「先日、ルカが作った録画装置を見て思いついたんだ。切り取って絵にすることはできないかなと」


「なるほど。いつでもマルティーナ様を持ち運べるようにすればいいと」


「…………」


「ふふ、ルカ様は面白いですわ。では、私もルカ様の絵を持ち歩かないとですわね?」


「マルティーナ様……!」


 手を組んでキラキラしてるルカを傍目に殿下は側近に問いかけた。


「……僕との未来のためにマルティーナと仲良くしてくれようとしてるってこの間言っていたよな? マルティーナも将来を考えて、仲良くしているって……」


「確かにそうだと噂で聞いていたのですが……」






「できました!」


「もうできたのか!?」


「はい、ご覧ください! これでいつでもマルティーナ様を絵にすることができます。そして、録画装置よりも手軽なサイズで持ち運ぶことができます。録画装置の小型化も検討していますが、殿下はいいアイデアをお持ちですか?」


「録画装置の仕組みがわかっていないのだが、光魔法を使っているのか?」


「光魔法……? 光魔法! さすが殿下です! お待ちください!」


 キラキラルカに手を握られ、満面の笑みを見せられた殿下は首を傾げ、側近に問いかける。


「……胸がドキドキしているのだが、重大な病かもしれない」


「……殿下。今はその話題をおやめください、後ほど聞きますから、お願いです、殿下」










「ルカ、共にランチをしよう」


「ルカ、たまには二人きりで出かけないか?」


「ルカ、魔術具を見せようか?」




「マルティーナ様はご一緒ですか?」


「マルティーナ様がご一緒じゃないのに二人きりで出かける意味はありますか?」


「先日、マルティーナ様のためにそちらの改良版を作ったので結構です」






「殿下……」


 側近が殿下を慰めている姿を横目に、ユピアがルカに声をかける。



「ねぇ、ルカ。ちょっと王太子殿下が可哀想すぎるよ?」


 殿下たちに聞こえないように気を使ったユピアの気持ちを踏み躙るように、ルカは普通に答えた。



「マルティーナ様がいない時に殿下に会う意味なくない?」


「ルカ……不敬すぎる、それは、撤回して」


「マルティーナ様が全てだから撤回しない」



 ルカの話し声を聞いていた殿下はがっかりと項垂れ、去っていった。

 そこに、鈴を転がす声がルカを呼ぶ。


「ルカ様? 今そちらに落ち込まれた殿下が落ちていらしたけど、どうかなさって?」


「マルティーナ様! なんでもございません! マルティーナ様、今度の休日ご一緒にカフェに出かけませんか?」


「あら? では、殿下にもお声がけしておきますわね」


 微笑みを浮かべたマルティーナがそう言って去っていくのを見て、ルカは叫んだ。


「二人きりがいいー!」


「これが因果応報ね」


「ユピアー!!!」







「ルカ、今日は誘ってくれたと聞いたが……」


「マルティーナ様、今日の私服姿もお美しくて……絵姿を収めさせていただいてもよろしいですか?」


「ルカ様もとても愛らしいですわ。……あら? 頭に何かついていらしてよ?」


 ルカの頭からそっとゴミを取って手櫛で髪を直すマルティーナに、ルカはメロメロだ。



「ご褒美、最高、撫でられた、うっほー!」



「……国の平穏のためには、マルティーナにルカの手綱を握っててもらうのが一番いいのではないだろうか?」


「殿下……! ご立派になられて!」


 殿下と側近のそんな話を耳にも入れず、二人は盛り上がっていた。



「マルティーナ様のお好みのケーキですが、私がお店に頼んで新しい材料を追加させてあります。我が領から取り寄せ、先日国王に献上した以外は出回ってないものです。おそらくマルティーナ様のお口には合うと思うのですが、合わなかったら、お教えください」


「まぁ! ルカ様は私の好みまで把握していらっしゃるんですわね? 嬉しいわ!」




「……マルティーナのメイドよりも詳しくないか?」


「やっとお気づきになりましたか、殿下。ルカ様は……その、少し、変わっていらっしゃる……」


「まぁ、ルカは天才だからな」


「殿下ぁ」



 側近が殿下に呆れ返っているその頃、ルカとマルティーナはケーキの話でいまだに盛り上がっていた。


「では、今度、マルティーナ様にお似合いの、食べれる花を使ったお菓子をお持ちいたしますね」


「まぁ! 嬉しいわ!」



「……なぁ、今ルカが言っていたお菓子って父上が母上に贈るために、テオフィオ子爵領から取り寄せて、その時に法外な金額払ってなかったか?」


「おそらく、そちらだと思いますが……」


「……一応。父上と母上にバレないようにしておいてくれ」


「承知いたしました」



 殿下と側近が胃を痛めている中、ルカとマルティーナは笑い合っていたのだった。








「ねぇ、そこの子爵令嬢。マルティーナ様と王太子殿下の間に挟まるなんて、あなた自分で邪魔だと思わないわけ?」


「そうよ! もっと遠慮しなさいよ!」


「マルティーナ様が可哀想よ!」


「あんたなんて、豊富な資源に富んでいて、天才的な発明が多い領地ってだけで辺境の地育ちじゃない! あなた自身も、ただ優秀なだけで、マルティーナ様のような気品なんてないわ!」


 ルカに妬み僻み嫉妬その他感情を抱く女生徒たちが、ルカを呼び出して、人気のない寮の裏で数人がかりでルカを詰めた。


「何を言っていらっしゃるんですか!」


 思わず、といった様子でルカは反論する。



「マルティーナ様と私を比べるなんて烏滸がましいです! 殿下はどうでもいいにしても、マルティーナ様は美しくて愛らしくて気品があってオーラもあっていい匂いで完璧なのにたまにふと抜けていて可愛らしくて頭も良くてしかも気取らなくて性格も良くてあの笑顔が全ての人間を魅了して、正直殿下でももったいないような人ですよ? そんなマルティーナ様と私如きを比べるなんて、どんな侮辱ですか! マルティーナ様へのそのような侮辱は許しません!」


 ルカのあまりの熱量に、女生徒たちは一歩ずつ下がっていく。


「あ、そうね、わかっていたのね」


「そもそも、我がテオフィオ子爵領の力を王家に捧げさせるために私は王太子の妾となるんですよ? 私が殿下のマルティーナ様への想いをとれるはずないですよね? 私を繋ぎ止めておくためには、マルティーナ様を掲げることが必要とわかってのことです。そんな短慮な考えを口になさらない方がご自身のためですよ? あ、それとも私とマルティーナ様を讃える談義がなさりたかったのですか?」


「……そうね、マルティーナ様の素晴らしさがわかっているならいいわ、ええ。では、私たちはこれで」


「一体何だったんでしょう?」



 ルカのこの話を聞いたユピアは大爆笑しながら、感想を述べた。


「絶対ルカのマルティーナ様への愛が気持ち悪くてみんな逃げていったんだよ」










「ルカ、マルティーナの幼い頃の肖像画はいるか?」


「いいんですか!? 殿下! 言い値で払います! 今すぐに保護魔術の上位版を開発してきますね!」


「……殿下。ルカ様の使い方がお上手になられましたね」


「マルティーナに関することなら、ルカの発明力は100倍になるからな」



 殿下が淡い想いを諦め、ルカの使い方が上手くなった頃、殿下は躊躇なくマルティーナを使ってルカとテオフィオ子爵領の力を王家のために吸収した。



「……マルティーナ。すまないが、ルカに発明させるために何かルカに贈り物を渡してくれないか?」


「まぁ、私でお役に立てるのなら、もちろんお渡しいたしますわ。……そうですわ! サプライズで用意いたしますわね?」








「今日は私のお誕生日ー。マルティーナ様は王太子妃の勉強が忙しくて会えないー。世界で一番不幸せな私ー」


「ルカさーん、お届け物だよー。部屋の前に置いておくから受け取ってくれるかい?」


「はーい」


 ルカがマルティーナに会えない悲しさを自作の歌にして歌っている。すると、寮母がルカに荷物を届けにきた。



「誰からの荷物なんだろう?」


 ルカが荷物を受け取り、私室に引っ込む。そっと包み紙を開けると、マルティーナからの手紙が入っていた。



「うわっふぉい! ぐほっ!」


 声にならない奇声をあげながら、ルカが手紙を読んでいく。



「ルカ様。いつもありがとうございます。お誕生日おめでとうございます。ルカ様の明るさにいつも元気づけられています。びっくりなさいましたか?」


「びっくりしましたー!!」


 手紙を読みながら、ルカは大きな声で返事をする。

 ドアをトントンと叩かれて、ユピアが注意しにきた。


「ルカ、すっごくうるさいけどなんかあった?」



「聞いてー! マルティーナ様が、私のお誕生日プレゼント! 手紙! くれた! 女神! 愛してる! 一生推し!」


「わかった、黙れ、シャラップ」



 Uターンして部屋から出て行こうとするユピアの腕を掴み、ルカが語り続ける。



「ねぇ、何が入ってると思う? 一緒に見る? いやいや、マルティーナ様が私に贈ってくださったものを見せられなーい!」


「いや、いい、興味ない、一人で見て、マルティーナ様もその方が嬉しいと思うから、ばいばい」


「後で話聞いてねーー!!!」


 ルカの叫び声に逃げるように抜け出したユピアはしっかりと部屋の鍵を閉めたのだった。……ルカは鍵開けも得意だが。







「うわ、花束、センスいい、マルティーナ様の匂いみたい! 鮮度保ったまま飾り続けられる魔法を今すぐ開発しないと」


「こっちは、勉強用のペン! 壊れないけどこのまま使えるように保護魔法開発する」


「お、お風呂に浮かべる入浴剤!? 複製の魔法開発する」


「カバン……って、待ってこれマルティーナ様とカフェに行った時に持っていらしたやつ……お、お揃い!??」


「ユピアーーー! お揃いーーー! 世界一幸せなお誕生日ーーーー!」


 ユピアの部屋をドンドンと叩きながら叫び続けるルカの姿に、ユピアは渋々鍵を開けて部屋に招き入れ、1時間以上語って聞かされたのだった。なお、ユピアが鍵を開けた理由は、鍵穴から不穏な音がした、とのことだった。



「お礼に何か作って贈るの! 貢ぎたい!!! 推しに貢ぎたい!」








 その頃のマルティーナは、何を贈ったのか殿下に報告していた。



「ふふふ、私とお揃いのカバンを贈ってみましたの」


「それは……女子寮は今日はきっとものすごく騒々しいだろうな」


「そうだと嬉しいですわ」


「ただ、それだとルカは何か新しい物を作ろうと思うか?」


「そうおっしゃると思って、いろいろ贈ってみましたの。また、明日のお楽しみですわね」







「マルティーナ様! いただいたお花を永久保存できるように魔法開発しました! あと、複製魔法と保護の強化魔法も開発しました。また、自領で作った新種の作物リストです! 必要なものがあったらお声かけください!」


「まぁ! ありがとうございます」


「すごいな……いや、ルカもすごいがそれ以上にマルティーナがすごいような気がしてきた」


「ルカ様。私、先日、クッキーを焼いてみましたの。初めて自分で作ったので恥ずかしいのですが、ルカ様だけにご用意いたしましたので、食べてみていただけますか?」


「……美女、手作り、クッキー、くっ! 複製したい! 食べないまま飾りたい! このまま形を読み取る魔術具を作ります! むしろ、このクッキーと同じ味のフルーツを実らせればいいのではないでしょうか! 私だけって言った、ぐほっ」


「ふふふふ」


「……マルティーナ。今後ともよろしく頼む」


「ええ殿下。私、ルカ様以外にも側妃や愛妾が増えるようでしたら、その時点で実家に帰るかもしれませんわ。……そうですわ! その時は、ルカ様もご一緒にいらっしゃいますか?」


「はい!もちろん喜んでー!!」



 微笑むルカとマルティーナを見つめながら、真っ青に青ざめた殿下は礼をしながら答えるのだった。


「もちろん。マルティーナとルカを尊重して過ごさせていただきます!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王太子の婚約者様が可愛すぎる 碧桜 汐香 @aoi-oukai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ