エピローグ
最愛の人が死んでしまった。
彼の身体がお香の煙と同化するかのように薄れて行く。
最後に微笑むように『愛している』と口を動かしたのは、きっと気のせいではないと思う。
私はぼろぼろと涙を流していたわけだし、もしかしたら幻想なのかもしれないけど。
一つだけたしかなことといえば、私のせいで——私が彼を殺してしまったということだ。
もちろん昼ドラの愛憎劇のように刺殺しただとか、2時間ドラマのように崖から突き落として殺しただとかそういう意味ではない。
いや、一度だけ彼を殺したくなったことはあったかしら……だって、彼、私以外の女と密室で2人きりになっていたんだもの。
……こほん。
閑話休題。
私が『軽井沢に行きたい!』だなんて駄々をこねたのが原因だったという意味で、私が彼を殺してしまったのかもしれない。
いや、そもそも私と出会ってしまったことがいけないのかもしれない。
そう彼——三ヶ島瑞稀くんと出会ったのは大学に入学した1年の時。
きっかけはなんだったかしら……
もう覚えていないけれど、みずきくんの方からナンパ?のような感じで声をかけて来た気がする。
……うん、決して私の方から一目惚れして猛アタックしただとか、そんなことはなかった!
そういうことにしよう。
とにかく彼と付き合うことになり、私は彼というか彼のお家が所有する別荘へと連れて行ってもらうことになった。
え?
付き合って間もないのに、なんで旅行に行ったのか?
もちろん、既成事実を作るため!
……というのは冗談。
でも、彼と初めて会ってびびっと来て、「ああ、私はこの人と結婚するんだろう」って思ったのはほんと。
だから、彼の生まれた場所がどんなところでどんな環境で育ったのか、色々知りたかっただけ。
まあ、それにお蕎麦を食べたかったしね。
そんなこんなでみずきくんのお家が所有する別荘へとお邪魔することとなったのだけど……
彼ときたら、まったく女心を分かっていないだもの……困ってしまった。
だから、ほんの少し彼を困らせたかっただけだった。
でも、結局、彼とは喧嘩別れしてしまい、彼は不運な事故で死んでしまった。
というか、付き合う前におばあちゃんに占ってもらった祈祷では、彼と添い遂げるという結果が出てはずなのに……ほんと意味不明だった。
もしかしておばあちゃんも歳も歳だから、錯覚して占い結果間違えて解釈していたりして。
生きている間添い遂げるのではなく、死んでから永遠に一緒にいるという意味だったりして……なんてね。
「……あ、みずきくんに言うの忘れていた」
そう言えば、私、実家を継ぐことになりそうだから、祈祷の練習で来年もまた呼び出すかもしれないんだった。
まあ、いいっか。
来年、説明すれば良いだけのことだし。
でも、みずきくん……今日のこと覚えているかしら。
(完)
【短編】トリック・アート〜遅れてやってきたおもてなし。気がついたら彼女と最初で最後のデートをしていた〜 渡月鏡花 @togetsu_kyouka
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