第3話 悪気がないなら何でも許されるんだ

母がよく、話してくる。


この人は、自分の話をするのが好きだ。


母は、子供の頃、眠る時、布団の中で、兄に絵本を読んでもらっていたそうだ。


そして、悲しい話しだと、母は、泣いてしまうんだそうだ。それを横で見守る優しい兄の話し。


それを楽しそうに私に聞かせる。


そりゃ、楽しいよね。愛された記憶。


貴方は、家族が多くて、末っ子で、優しい兄が2人と姉が1人いて、両親も優しくて、家で商売していたので、いつも、傍に家族が居てて…


私の境遇とは大違いだねと、心の中でいつも思っていた。


母は、そして、私の父の話しになると、お父さんは(心の)病気だから。本当は純粋で、優しい、正直な人なんだよと。嘘がつけないねと…


それを聞いて私は、


そう…、正直に、私の事を愛していないと言う、いい人なんだよね。素直なねと。言い返したくなるが、言ったことはない。


そして、何より苦しかったのが、母は、父の面倒を私達、姉弟で見ていくのが、子供として、やるべき事の様に話すのだ。


はっきりと、言葉で、そうは、言わない。そこがいやらしく、賢いところだ。


あんた達のお父さんは、本当は素晴らしい人なんだよと。だから…、


そこから、続く、甘く?、優しく?、一見すごく正しく、前向きに聞こえる、母からのささやきの中には、


私と弟を家族愛?とでもいう、恐ろしく、重くて太い鎖で繋いでいくもの。


母自身は、私達の後ろに居て、私達に、影からアドバイスを与える存在の様な人になるみたいな話しになる。


ようは、重たい荷物は、お前達2人がが背負えよと言っているのだ。


私は、そんな恐ろしい未来が来るのが、

重くて、苦しくて、辛くて、暗くて、

中学、高校の頃が、一番未来を悲観していた。


あんなに、何がきっかけで暴れるか、分からない、大男の将来の世話をしていくのは、私と弟の2人なんだと。


その頃父は、まだ、働けていたが、色々とおかしな行動が出ていて、家では祖母とよく揉めていた頃だった。


それに、父は、精神の強い薬を飲んでいて、幻覚や幻聴、便秘、不眠、鼻炎にも苦しんでいた。家の用事は殆んどしない。家事は全て祖母任せで、父は家の中を熊のように、のそのそ歩き回るか、寝ながらテレビを見ては、時々馬鹿みたいに笑うのだ


行く所といえば、近所の喫茶店ぐらい。そこでも、家でも、ずっと煙草を吸い続けていた。


精神病。その頃はまだ、そんな病気の人は、少ない時代だった。


今の時代、父の病名は、統合失調症、躁鬱病、とかいうやつだ、たしか。






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