第5話 最強の剣姫
竣工式は滞りなく進み、私も無事用意された原稿を読み終えた。残りは、魔術学院首席の挨拶があるらしい。
例の魔術学院の才媛、ジゼル・アイレスフォードだ。
「あの方が魔術学院一の【剣姫】か」
「凄まじい魔力だ」
「なんでも、魔女狩り時代に接収した代物らしい」
「なんとも血腥いな」
皆口々に勝手なことを言う。魔王討伐の尖兵として送り出そうとする少女に対して、あんまりな言い草ではないか。自分たちは安全圏にいるつもりなのに、なんとも無神経だ。
まぁ、そんなところが人間らしくて愛おしくもあるが。
「使徒ルーライ様の恩寵は山嶺より高く、溟勃より深い。そのご恩に報いるため、ルーライ様に仇なす怨敵は、全て私が打ち払う所存!」
金髪の美少女は、私の前に跪き、そんな決意を表明した。まだ十六といったところだろうか? 私より四歳下か。
単に聖痕を持って生まれたというだけで大聖女に祭り上げられた私とは違う。血の滲むような研鑽と努力の果てに身に着けた戦闘力の高さが、纏う魔力の質から分かる。
なんとも高潔かつ強健な騎士。魔女狩り一族の出身という血塗られた歴史を背負ってなお誇り高く振る舞うその所作に、思わず見とれてしまう。
根っからの善人がさらなる高みを目指し、より善くあろうとする姿も、また美しいと思った。だが、優先すべきは悪人の救済。ジゼルのような人物はどう転んでも救済される。
私は大義のために優先順位を付けなければならない。
だから、ジゼルを倒さなくてはならないのが、とても残念だった。
「素晴らしい心掛けです。ジゼルさん。使徒ルーライ様も、さぞお喜びのことでしょう」
刹那、銃弾が私の結界に弾かれた。
私には神の加護により、五重の結界の護りがある。銃弾は一層も貫通できなかった。もちろん、これは私が教会を裏切っていないことを示すため、わざとフィロストルギオスに撃たせたものだ。目的は、ジゼルの力量を測ること。
「そこにいるな」
ジゼルが城壁の上に立つフィロストルギオスを見据えると、立ちどころに濃密な魔力が展開された。既に放たれた複数の銃弾は、空中で静止していた。
使徒ルーライ様は魔力の祖。その絶大な魔力を以て天界と地獄を造り、あらゆる戦乱の矛先を自分に向けたうえで、それを単騎で鎮圧した。
我らは皆、そんなルーライ様の魔力の残滓を操っているに過ぎない。
それだというのに、この魔力量。やはり、ジゼルは只者ではない。
地獄の覇者な大聖女 川崎俊介 @viceminister
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