第12話 東京10区へ

 テレビやネットの動画では、東京の様子がよく映し出される。そこでは、行き交う若い男女の最近の身の回りで起こったことや、どこかの社長や起業家が派手に金を使って、遊ぶ様子が紹介されている。

 私に東京への憧れがないといえば嘘になる。それは安全面からも言える。

 東京10区と呼ばれ、テロリストからの防壁を360度張り巡らせたその場所は、日本で一番安定した地域と言っても過言では無いのだ。

 龍瀬と東京に行くと決まった次の日の朝には、私は勝谷町をでていた。龍瀬は昨日の夜は勝谷町にある御霊旅館に泊まったらしい。この町はいいところだからぐっすり寝れたと、派手髪をさすりながら言っていた。

 勝谷町の最南端にある勝谷駅からスマホ用電子チケットを買い、東京へと向かう。移動は全て公安の経費で落ちるらしく、私はあまり気にしないようにした。

「ずいぶんと大きい荷物持ってきたんだな」

 電車で揺れている途中、龍瀬が私のキャリーバックを指さして言った。

「急いで準備したので、これでも少ない方です。龍瀬は逆にほぼ手ぶらみたいな感じですが、大丈夫ですか?」

 龍瀬といえば、まるで近所の友だちの家に行くような格好をしている。肩から小さなショルダーバックを背負ってはいるが、それ以外に特に荷物は見当たらない。唯一あるとすれば、ポケットの部分の妙な膨らみだが、ここはあまり気にしないようにした。

「俺は公安様の配下だからな。国家権力ってやつで荷物は全国から貸してもらあるのさ」

 そう言って私に向かってウインクしてみせた。私は龍瀬の年齢を聞いたことがなかったが、おそらく私と同じ17歳か、その前後ぐらいだろうと思っている。最初の出会いで高校生を名乗っていて、まったく疑わなかったのも、少しやんちゃな高校生にしか見えなかったからだった。

「そういえば、勝谷町の外へは行ったことあんのか夏子ちゃん」

「近場の町にならでてるけど、東京に行くのは初めてです」

 夏子ちゃんなんて急に距離を詰めてきた龍瀬に内心少しドキッとしてしまったものの、私は顔には出さずに答える。

「ふーん…」

「興味ないでしょう。その反応」

「えっ」

 龍瀬はなぜか驚いたような表情をする。無理もない。私は死者を憑依させて声を聞かせるというビジネスをしてから、相手の気持ちを察することができるようになっていたのだ。これは私が思っても見ない副作用でもあった。

「へーやるね。俺はよく変わり者で何考えてるか分からないって公安の仲間からは言われるんだぜ。夏子ちゃんはもしかしたら公安に入れる才能があるかもな」

「私は、物騒なのが好きじゃないので…。それともう一つ龍瀬さんは何歳なのでしょうか」

「うん? 17歳だけど?」

 まさかの同い年だ。まったく、この年で私は学生、龍瀬は警視庁公安なんだから人生どうなるのか分からない。

「ああ、そーいえば夏子ちゃんも17歳だっけ。敬語じゃなくて、俺のこと呼び捨てで呼んでくれても構わないぜ」

「では、龍瀬くんと呼んでも良い…ですね」

「なんだってオッケーだよ」

 そう言って龍瀬は外の景色を見やった。ほぼ無音で線路の上を走る電車からは、廃墟となった町が見える。度重なる少子高齢化によって町の住民自体が政府の意向で移動することになったのだ。こうして幾度となく都会に人口が集中したものの、今度はテロリストの横行で標的にされるという悲惨な運命を辿っていた。

「よし、次で乗り換えだな。ここから先は都会だ。武装鋼装車両だがら襲っては来ないだろうけど、一応警戒はしといてな」

「うん」

 喉が少し渇き、緊張した面持ちで答えた。電車のとびらが開き、駅のホームに降り立つと、普段は見慣れない、銃を持った兵士が改札口に立っているのが見えた。さらに至る所に監視カメラが付いており、不審なものはすぐに兵士によって捉えられる仕組みになっているようだ。

 それでも都会は勝谷町と違い活気に溢れている。まず人が多い。中には龍瀬みたいな奇妙な服装を着ている者もちらほらと見かける。

 私は迷路のような通路に迷わないよう龍瀬の後ろをついて行く。幸いレインボーな服装は、目立つため、この時のために着ているのではないかとさえ思えてくる。

 スピーカーからはテロの警戒を呼びかける機械仕掛けの音声が流れる。途中で全体的に銃武装した兵士の何人ともすれ違い、私は乗り継ぎの駅のホームまでやってきた。

 そこから先は都会のど真ん中を突っ切るように電車は進んでいく。ビルとビルの間を抜けて、目的地である新幹線乗り場行く。

 途中、電車から爆撃の後のような焼け野原がいくつか見える。中には白く細い煙が上がっているものもある。

 テロリストによって潰された建物だろう。こうやって都会では、勢力を拡大している。

 幸いにも私たちの電車は一度もテロリストに遭遇することはなく、新幹線乗り場に着いた。

「さてと、東京へは約1時間か。テロリスト予報も良好。通常通り走ってるようだな」

 ごった返している駅の中央にある球体をした電光掲示板には、これから来る新幹線の時間が表示されている。

 私は龍瀬に続いて切符を買い、東京へと向かう新幹線のシートに座った。なんとそこは完全に周囲を壁に囲まれた個室だった。おしゃれな照明が照っており、良い雰囲気だ。

「これが公安権限ってやつさ」

「少しはやるじゃない」

 国家権力って悪くないわね。私はそう思った。

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