告白

@tisetsu

告白


またくだらない夢を見た

何かに成功する夢 叶えたい夢が全て叶う


ありもしないばかばかしい。


夢と現実の乖離の大きさを感じ疲れて起きるのはもういい加減やめたい。


言葉にならない苛立ちを小さな呻き声で押し殺すと

「、、、おはよ」

まだ目が開いてない状態で彼女が振り絞って口に出す。


「うん」


夢のこともあり淡白な返事をし彼女の腕をそっとのけて布団から出る。


コーヒーメーカーに水を入れ、豆を入れる。

スイッチを入れた後コーヒーが淹れ終わるの待つついでに歯磨きをしているとまだ眠たそうな彼女が隣に立つ。


「おはよう」

「うん」

さっきよりは元気を気持ち程度付け足した


いつものように朝食は取らず

彼女はまだ家にいたいという雰囲気を体にまとわりつかせながら支度をしている。


「いってらっしゃい、気をつけて。」


扉が閉まるまで玄関の前で見送った後残されるのは自分だけ。


ここ数年は繰り返している


PCを起動してゲーミングチェアに腰掛け何回か座り直し、納まりがいいところを探す。


この時間にしてる奴がいないことなんて百も承知だゲームを起動して閉じる、他のゲームを起動して閉じるを繰り返し何かの決心がついたかのように自分のやるべきことを始める。


誰も見ない小説と向き合う時間だ


何もセンスを感じることができない『下手』が滲み出た文章に苛立ちを感じる。


実家にいる時は多少感じるストレスはあったものの挑戦に対してのストレスを感じることはなかった。


自分の中で何が変わったんだ


考えなくても良いほど明確な分岐点がある。


大学3回生の時全ての授業を受けても単位が足りないことがわかった。


それと同時に就活の時期がじわじわと迫り

大学側から電話が来る。


「就活説明会もきてないでしょ」

「内々定まで決まってる人もいるし、そろそろピッチ上げて行こうか」

「就活相談所で待ってるから」


「はい、わざわざありがとうございます。失礼します。」


単位が足りない、やりたくも無い就活もしなければ

何かをしなければ今まで出してもらった学費が無駄になる。


まずい


視界が狭くなっていく気がした。


何か大事な線が切れた感覚がしたと同時にやる気がなくなった。


今思えばあそこで踏ん張る事ができればこんな事にはならずに済んだはずだ。


心が幼かった。


ただそれだけだった。


だめだ家を出るべきだ。

このまま実家の環境に甘えて過ごせばより状況は悪化すると考えたからだ。


今思えばなんの意味もなく出したその考えさえも幼さの体現であった。


親に謝り家を出た。


簡単なことではなかった。

当たり前のように全てが否定された。

何かを成し遂げてきたわけではなく、特別な経験をしてる訳でもない。不足分の単位を資格で補おうとしたがことごとく落ち続けたという事実すらある。


そんなやつを今から野放しすると行き着く先は見えている。親も成人してるとはいえ息子が不安な方向へ行くのは止めたかったのだろう。


「1年」


根拠はない


「1年だけ」


やりたい事などない



「1年」という何ができるかもわからない時間を主張してなんとか説得した。

説得というとお互いが納得したかのように聞こえるが今思えば家出という表現が正しい気がする。


当時働く気もない僕と暮らしてくれるのは1人だけだった。

成人式の時再開した今の彼女だ。

元々体目的で付き合い始め中途半端な関係を続けていた彼女だが、僕の提案を快く受け入れ同棲している。


彼女は狂わしいほど僕を愛している。


小説に活かせることがあると言い聞かせ僕は他の人と寝ることがよくあった。実際に小説で活かせている部分はほとんどない、ただ快楽のため自分の自信を保つための行動だ。もし自分自身が彼女にされたら気が狂ったように怒るというのに。


しかし彼女は何も咎めない

知っているはずなのに


今思うとどうかしているが

気が落ちた時不意に聞いたことがある

「知ってるだろ他の女のとこに行ってるのは」


少し笑い彼女は答えた。


「生きてることがわかれば良い、それくらいあなたが好きなの。」


胸が苦しくなった

喜びからではない

明確な愛は自分への皮肉にも捉えられたからだ。


彼女と生活を共にして数年


約束の1年はとうの昔に過ぎている


こうなることは目に見えていた。


ぼーっとする時間が増え、その時間が大学生の時持っていたやりたいことや想像してた未来を思い出す時間に変わっていった。


なんでもできる気がしていた。

喫茶店をやりたい、贅沢まではいかないがお金で困りたくない。


今思えば叶えることができないものばかりでは無かった。


家もそれなりに裕福であったし、ノウハウも多少は教えてもらっていた。長男ということもあり期待も多少はされていただろうし、求められる事に対しては難なくこなしていたと自分でも思う。


大人というものが近づくにつれ見えてくるものが増えてきた。


自由と共にある責任の存在

叶える上で必要なものの数々


踏ん張ることさえ出来れば


それが難しい、そう諦めてきたからこのような現状がある。


度々思う。

この自分という人間は怠惰と自信が少しずつ混ざっているのだと。


あるはずもないプライドが

あるはずもない自信を生み

叶えたい夢だけが大きくなっていった

何も術を持っていないのに


劣等感や後悔が強くなり呼吸が浅くなったかのように苦しくなる。


まだ午前中なのにもう寝たい何も考えたくない。


睡眠を何も考えないで良い時間として認識し始めた時感じる。


だめだ


このままではだめだ


わかっている


しかし自分のような人間が上がろうとすると

様々な言葉が脳内に溢れてくる

その言葉たちが体中にまとわりつき

動けなくなる。


こうやって人は落ちていくんだ。


昼ごはんを忘れるほど甘えきったくだらないことを考えているともう午後だ。


瞬きを数回しただけで1日が終わろうとしている。


何かを成し遂げようと洗濯物を入れてたたみ、食器を洗い、風呂場を洗い、掃除を一通り済ませて満足するとまたPCの前に座った。


焦りと共にごっこ遊びのような執筆を少し進め、行き詰まるとゲームを始めた。


日が暮れて少し経つと彼女が帰ってくる。


「ただいま〜」


仕事が終わり家に帰ると僕が家にいる、その事自体が幸せだと以前言っていた。

言葉の明るさが家を出る時とは明らかに違う。


「おかえり」


少しつられて明るくなった返事をする。


「今日どうだった?」

帰ってくると毎日飽きずに聞いてきて、どんな進み具合でも気にかける事なく話続ける。


「だいぶ良いんじゃない?」

「ご飯どうする?」

「今日、腕のやけどしたところ擦っちゃってじわじわ痛いのが続いて全然集中できなかったんだよ!」


この時間が好きだ

1人じゃない気がするからだ

心にある不安がゆっくりと軽くなっていくのを感じる。

自然と顔の筋肉も力が抜ける。


2人が風呂に入り終わるとリビングでくつろぐのが習慣になっている。

特に会話はせず携帯で動画を見たり、それを横目にお茶を飲んだりする。

ゆっくりとやわらかい時間が流れるのを肌で感じる。


彼女と一緒に寝るのも好きだ

彼女が自分の腕を深く抱く時

1人ではない事をより感じることができるから

彼女が寝返りをうった時体で動きを感じれるから


起きた時1人でない事を密かに祈り

何の変哲も無い生活が来る事をわかっていながら

何かが変化をもたらす事に淡い期待を寄せて

気持ちばかり強く彼女を抱きしめ

眠りに落ちる









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