第5話 無気力エルフと秘都の町


 「魔導書グリモワール完全なる模倣パーフェクトアルカイズ。|(他人に化ける事のできる能力。記憶、異能力に至るまで全てを完璧に再現できるが、真似をする人間に了承を得なければならない。術者の記憶は残ったままであり、術を解除すると少しずつ化けた他人の記憶が抜け落ちていく。魔力の消費量が激しく、集中力も相当必要なため、魔法界隈では、使えるだけで、第一級術師となれる。)

「?! わ、私と同じ体?」

予想通り、ギルテッドさんは驚く。このドッキリサプライズは先ほどの仕返しだ。私は心の中でガッツポーズをした。

「すみません。こうしなきゃ貴方の記憶の中のアルカンデのお花が分かりませんから。では、記憶を見させて貰います。」


ーーギルテッドの記憶ーー


 大きな青い3枚の花弁が付いた、小さい花の入った花器かきを、ユーミエさんと思われる人物が大切そうに抱える。

「君はいっつもその花を大切にしてるね。なんていう花なんだい?」

「これは、アルカンデって言って、私の故郷のお花なの。小さくて可愛いでしょ。」

「ああ、君みたいにね。」

…爆ぜろ、と言いたいところだが、苦虫を噛み潰したような顔をした私に対して、ミナと、ギルテッドはきょとんとしている。理由を説明もしたくないので、私は一旦考えないようにした。

…アルカンデの花。そう呼ばれている花を私はよく知っている。私の魔法の研究で度々見たことがあるからだ。しかしそれは、

「絶滅した花だよ。20年も前に。ユーリエさんの故郷は、アルカディアだったのか。」

ーーアルカディア。そこはアルカンデ…もとい、イサジアの花の群生地だった。

イサジアの花は、アルカディアという土地にしか植生がなく、ある薬品の必須材料だった。

それが、回復薬だ。

回復薬は、その名の通り飲めば回復をしてくれる。破損した四肢は、大方元通りになる。

アルカディアという土地が有名なのはそれだけではない。有名になった経緯は、簡単だ。

 とある医者がいた。医者は熱心に錬金術や、魔法学、医学などを勉強して、本気で人を救おうとした。

その時に、イサジアの花の花弁の成分に、再生能力があることがわかった。花弁や、魔骨、麻痺草を集めて錬金術で固める。そして、その固めた塊を水で割って溶かす。すると、魔法では治すことのできないような四肢の欠損なども、容易に治療できるーー神薬ができた。

 医者はその情報を独占することなく、公平に皆に分け与えた。その情報は一瞬にして国土全体に広まった。ーーそれが間違いだった。

イサジアの花は戦火の火種となってしまった。一括千金を求めた冒険者や、魔法使い。一般人までもが、その花イサジアの花を求めた。

町は火の海になった。

魔法使いや、戦士が狂ったように戦う。

ーーあの薬回復薬には、副作用がある。

それは、「短期間に何度も接種をすると、幻覚を見せたり、中毒性があるのだ。」

どれだけ魔法で殺されそうになっても、生き返る。失った四肢が元通りになる。それは、人に与えてはいけないものだった。殺し合いは激化し、イサジアの花は少しずつ殺し合いの戦火に巻き込まれて、姿を消した。

医者は自分のせいでこうなったのだと、自害した。

この発見が、栽培方法を完璧にした上でのものだったら、かの医者は、歴史的偉人となっていたところだろう。しかし、歴史はこうも残酷だ。

良かれとしたことが、惨たらしい結果になることなんていくらでもある。

そして、アルカディアの土地は不毛の土地となり、そこにあった村も町も、全てが消えた。

これが、アルカディアの土地と、イサジアの花が有名になった話の全貌だ。


「…そこをなんとか出来ないだろうか。ユーミエは、私のたった一人の妻なんだ。どうか、頼む。」

腰を下げて折るなんて、私のようなエルフに腰を折るのはさぞ不服だろう。ーー私なら嫌だ。それでも、ユーミエのためにこういう風にお願いできる。ーー素晴らしいことだと思った。

私は力になれないかもしれない。それでも、力になってみたい。そう思った。

私は、まず考えた。イサジアの花は元々この国にあったものではない。

南の大陸から運ばれたものだ。…ちょっと待て、私はイサジアの花をよく知っている。

そして、私には魔法がある。…一度、試す価値はある。私の、この魔法で。幸せを作れるのなら。


魔導書グリモワール万物創造クリエイト・オール。|(万物を創造できる。相当量の魔力と、並の魔法使いじゃ到底及ばないような集中力を使う。

*失敗する可能性もある。そして、魔力が足りないとその代償に、生命を削ることがある。)」

私は、イサジアの花を想像する。青い小さい3枚の花弁が付いた、小さな集合した花。それを手元に出す。

「…これで出来たかな?」

私は少し疲れた。ミナと、ギルテッドさんはとても驚いた顔をしていた。

…無から有を作り出しているように見えるからだろう。実際には、この世界に漂っている小さい物質一つ一つをパズルのように組み合わせているだけだが…魔導書グリモワールも、その設計図のようなものだ。

「…それは、イサジアの花ですか?」

多分。と答えて私はそのイサジアの花を他にも沢山作る。私は、それをミナと、ギルテッドさんと手分けして墓の前に埋める。

「ありがとうございます。」

私はその感謝の言葉に少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しさを感じた。

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無気力エルフの鬱々 @MimiKKY001

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