第4話 無気力エルフと陽トの里


 ミナと会話をしているところで部屋に外からのノックの音が聞こえる。

「おーい、ミナー。あのエルフの子は目が覚めたかい?ご飯ができたぞー。」

「あ、うん、すぐ行くー。」

…コミュ障、引き篭もりにはこの光景が辛い。明るい光景だ。光が差している。私はミナとその父の会話を聞いて少し…いや、かなり悲しくなった。今更、里に戻る気なんてさらさら無いが、父との別れ方を選べられれば良かったな、と思ってしまうところはある。そうこう考えていると、ミナから話を振られる。

「そろそろ、パパにも紹介したいから…起きれる?」

多分、と返して私はベットから起き上がる。

…やっぱりだ。この部屋の内装は、とても高価な物が多く見える。

…私なんかのためにこんな豪華な来客用の部屋を使う必要なんて無かったのに。

私は少し罪悪感を持ちながらも少女にありがとう、と伝えて家の中を案内してもらう。


ーミナ視点ー

 私は今日、初めてエルフのお姉ちゃんと出会いました。髪は金色で、少し白くかかっており、目はとても穏やかな色を写していて、艶やかな肌に、健康的な血色のいい唇。

私の知っているエルフそのまんまでした。

そんなエルフのお姉ちゃんは、パパが拾って来ました。

いつも外の村や町から生活品などを買ってこの村で売る。貿易の第一人者が、私のパパです。

パパが、馬車で丁度帰ってくる時に、道端に倒れた人影があったので、急いで駆け寄り、荷馬車の荷台にスペースをつくり、近くの私たちの村まで運んで来たようです。

パパは、人一倍正義感が強い人です。困っている人を見ると、お節介だと思えるほど尽くします。

私はパパの役に立つためにエルフのお姉ちゃんの隣で目覚めを待ちました。

少しすると、エルフのお姉ちゃんが何かの言語を話しながらビックリして飛び起きました。その姿に私も思わず少しビックリしました。

エルフのお姉ちゃんは、私に何かを話して来ましたが、言葉の壁があり、伝わることはありませんでした。どうしようか考えていると、エルフのお姉ちゃんが、いきなり魔法の本を取り出します。

その瞬間に私は殺気を悟られないようにポケットの中の羽ペンを取り出そうとします。しかし、彼女は魔法を唱えた後、もう一度話しかけて来たのです。私のわかる言語で、「君は、私の言葉がわかる?」と。先ほどの魔法は攻撃のためではなかったのだと胸を撫で下ろしました。私は、わかります、と答えてもう一度、念入りに「魔女ではありませんか?」と聞く。と、魔導師ではあるけど魔女では無いよ、と、返ってきて私はその違いがわかりませんが、安堵します。

エルフのお姉ちゃんの名前は、ラピスラズリ=エルデルさん、と言うようです。

初めて聞いた時はお貴族様かと思いましたが、お姉ちゃんが否定して来ているので、多分、そういう物なんだなと心の中で整理します。色々なことを話していると、パパに呼ばれます。

私は、エルフのお姉ちゃんと一緒に部屋を出ようとすると、照れ臭いのか、小さい声で、「ありがとう。」とお礼を言われました。

私はさっきの疑いを馬鹿馬鹿しく思いました。だって、こんなに可愛いエルフのお姉ちゃんが、魔女な訳がないと。

ーーミナは大の可愛い物好きなのだ。可愛いもののためならなんだってする。結構ヤバいやつなのだ。しかし、そんな彼女の思いの裏腹に、ラピスラズリは、能天気だった。


この家は、見た感じかなり富裕層のように感じる。壁に高そうな壁画や壺などが廊下に飾られており、少し萎縮してしまいそうだ。ミナは父のいる書斎の前に行き、ノックをする。私は緊張した。こんな豪華なところに住んでいるのだからかなり肝の座った堅物か、怖い人なのではないかと。ミナには失礼だが、少し思ってしまった。

しばらくするとドアが開き、使用人とミナの父の顔を見ることができた。ミナの父は怖いおっちゃんというよりはハンサムな好青年といった感じで、スーツを着こなしている。ミナからも、その父からもこの家族の優しさを感じる。

「やあ、僕の名前はギルテッド。…ああ、すまない。立たせたままだったね。こっちへ腰をかけてくれ。」

ギルテッドは、高そうなソファに腰を掛けることを勧めてくる。私はソファに座ると隣にいたミナがギルテッドに駆け寄る。

「パパー!」

「あはは、今はお客さんがいるだろう。…ゴホン。

改めて、ミナの父で、ギルテッドという。この村の貿易長をしているよ。君の名前は?」

「私の名前は、ラピスラズリ=エルデル。エルフだよ。」

 私が自己紹介をするとギルテッドの眉が少しピクついた。私が何かしてしまっただろうか…ああ、そうか、人間からすると苗字持ちは爵位を持っていたりーー高貴な身分という認知だったっけ、私は思い違いを訂正しようとするとギルテッドさんは私が考えていた範疇を軽く超えてくるーー思いがけない質問をしてきた。

「…君って、昔、…150年前くらいに、この村に逃げ出してきたっていう…エルフ?」

…私の黒歴史がフラッシュバックしてきて悶えそうになっている。しかし、それを否定するために私は体の震えを必死に我慢して、

「いいえ、私じゃないと思うなー。」

なんて見え見えの嘘をつく。

でも、それで何故か納得してくれたらしい。私は村に泊めてくれた感謝とお礼に、何か出来ることがあれば、とお礼を言い出すと、

「んーどうしようかな。」

「パパ、エルフのお姉ちゃん、魔法使いだよ!」

「…そうか、だったら、こっちにきて欲しいのだが。」

私はギルテッドさんに連れ去られるがままに、家の外に出る。そして、最終的に連れられたのはユーミエと書かれた素朴な墓の前だった。

「どうか、この墓の周りに、ユーミエが好きだったという、アルカンデという花を咲かせてくれないだろうか。」

私はアルカンデの花を知らない。ギルテッドさんに聞くと、一度見たことがあるという。私はギルテッドさんに許可を取り、記憶を調べることにした。

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