第2話 幕開け side黒鉄信夜
【11:04 警視庁四課・課長室】
「はい。お疲れちゃん」
目前の無気力無関心の擬人化の様な人が、この四課を代表する課長である。
「黒鉄くんはいつも面倒事を嗅ぎつけるね。二課の課長がカンカンだったよ」
「申し訳ございません」
「派手にドンパチ起こさないだけまだマシかな。報告書、もう一枚追加ね」
「お言葉ですが……何か不十分な点が?」
「それがね。この件をウチに持ってきた企業がどうにもきな臭い」
先日、俺が検挙した十文字武雄。罪状はクローン動物の非合法取引である。クローン法が緩くなったとはいえ、生態系に影響を与える様な動植物や軍用型のクローンは原則作製禁止である。
「法外なクローンを作り、十文字に流した大本はその企業だと?」
「そうなるね。黒鉄くんは報告書提出後、例の彼と合流してくれるかな」
俺は表情を歪める。
「まぁまぁ、
「……了解です」
「……やっぱり嫌かな。未成年に頼るのは?」
「個人としては思う所がありますが、公僕としての務めを果たすつもりです」
「まあ、程々に頼むよ」
こうして俺は課長室を後にした。
【15:14 喫茶店前】
「で、何で居るんだ。ハニー?」
「やだな。ダーリンの隣はうちの憩いの場っすよ」
「へいへい。で、本音は?」
「例のエフゴリ君、一度この目で見とこうかなって」
「マスコットキャラクターみたいに言うな」
「ダーリンは嫌ってるみたいっすけど、裏の……」
「裏の世界に名が知れた男、それもガキが生き残っているという現実。それはつまり実力に嘘は無いって事だろ」
「意外にも高評価」
「主義主張は嫌いだよ。それに連れと騒いでりゃいい歳のガキがこの世界に居るのも気に食わん」
「相変わらず気持ちいいぐらいにお巡りさんっすね。口は悪いし、うちみたいなのと絡んでるのに」
「課長の方針だよ。重要なのは事件の早期解決。まあ副課長はあんまり納得してないみたいだけど」
「あー。確かにあの人、自他共に厳しいって感じの人っす」
するとコツコツと靴の音を鳴らしながら1人の巨漢が歩いて来る。
「はぁ…やっぱしあんたか」
「不本意ながら」
「うへぇ…噂通りデカイっすねぇ」
それはそうだろう。
身長は俺と変わらないくらい…まあ182cmくらいか?それに明らかに分厚い首に高校生では有り得ない筋肉量…そして極めつけはそのクソほど鋭い眼光でデカく見えるんだよなぁ。
「今日は彼女連れか?しかも情報屋のカラス…こう言うのが好みか?」
「そんな彼女なんて…」
沙耶香が頬を赤らめながらそう言った。クサイ演技だ。
「まあそんな感じだ。と言うか知ってたんだな…ハニーの事」
こいつには沙耶香の情報は流してないはず…シンプルに知ってたのか。それとも事前に調べていたのか?
「一応裏側では有名人だからな。ここじゃ話も出来んだろ…近くに車を用意させてっからそこで手短に話してくれ」
ゴリラが指を差した先には黒塗りとリムジンが用意されていた。
「こ、高校生なのに…うちよりいい車を…!?」
「運転すんなよ。道路交通法違反だぞ?」
「当たりめぇだ。なんでわざわざ走るより遅せぇ車運転しなきゃならんのだ」
「この子、サラッと怖い事を!!」
この女は本当に見物に来たのだろう。間の抜けた空気感に溜息を吐きながら俺は車に乗った。
【15:42 車内】
車内に案内されると、そこはふかふかのソファとテーブル、その上には飲み物とケーキが用意された。
「随分な歓迎だな」
「お国様のご好意だ。お有難く頂戴してろ」
実際、刑事の俺なんかよりいい暮らししてるんだよなぁ…ムカつくな。
沙耶香が俺の隣に座り、目の前に足を組み大きく手を広げて堂々と座る白金がいた。
「威厳やばぁ」
「さっさと情報話せ。カラスの姉さんよ」
白金は口に飲み物を運びそう言った。
酒でも飲んでんのかって言う雰囲気だけど…多分あれエナジードリンクだな。
「あ、そうっすね」
すると沙耶香はケーキを口に入れ、モゴモゴしながら喋りだした。
「ほひあえふ」
「ハニー、食ってから喋る必要あったか?」
とりあえずと言おうとしたのだろうが、聞き取りづらい…。
しばらく口を閉じてケーキを飲み込むと情報を話し始めた。
「今回の調査対象はダーリンが捕まえた十文字にクローン動物を流したとされる企業っす」
「金に目が眩んだ汚ぇゴミがまた湧いて来たか…」
すると白金は足を解き、前のめりになりながら眉間に皺を寄せた。
「ひぇっ!?」
「!?」
一瞬…首が…?
俺は首を撫でると、一応しっかり繋がっていた。
「おい、殺気を少し抑えろ…沸点ガリウムか」
「けっ、情報屋のカラスがこの程度の殺気にビビってんじゃねえよ」
「いや…普通に殺されたかと思ったっす」
そこのゴリラの得意技…技と言うのはあれだが。
強烈な殺気を飛ばす事で相手に死を錯覚させ、気絶させる…俺も知らなかったら一発で気絶してたかもな。
「はぁ…ハタ迷惑な野郎だ…」
少しして白金は足を組み直してもう一度飲み物を口に運んだ。
「悪いな、話を中断させちまったな。続きを頼む」
「意外と礼儀正しいんすね…」
「俺以外には基本的こう言う態度だよ」
本当に俺に対してだけ礼儀のrの字すらねぇ…まあこっちもそれなりの対応してるからだろうけど。
「えっとその企業は国内でも有数のクローン技術を保有してる企業っす。噂によれば黒い事もしてるとか」
「なるほどな…」
「ま、火のないところに煙は立たないってやつっすね。ちょっと突けば不祥事のオンパレードっすよ」
「仕事早ぇなハニー」
さすがカラス。情報屋のカラスの名は伊達では無いと言う事だろう。さすがの収集力だ。
「調べた結果、ここで間違いないっす…間違いないんっすけど…」
「勿体ぶらずにさっさと言ってくれるかい?」
なんかこいつ口調優しくね?俺以外だとここまで差が出るもんなのか?
「なんか腑に落ちないんすよね」
企業は突き止めてるならそこに行けば…いや違うな。
「企業自体がクローンを流した訳じゃ無い…って事だな」
「ダーリン正解。小さな不祥事も隠すような連中が、リスクを背負ってまで非合法なクローンなんて流さないっすよ。それにやり取りが個人的過ぎるんすよね…金にしても品物にしても」
「つまりその企業内に今回のターゲットがいるってか…企業から見ればとんだ裏切り者だな」
「はぁ…」
「ダーリンどうかしたんすか?」
「いやなんでも無い」
沙耶香と白金の推測が正しいとするなら今回のターゲットは沙耶香の情報網を掻い潜り、裏社会と容易く繋がれる人物って事だ。かなり厄介だな。
「ここからは推測っすけど、今までの情報を元に目星を絞ったっす。1番可能性が高いのはこの男っす」
沙耶香はバッグの中から封筒を取り出して、その封筒の中から1枚の写真を出した。
「
JACK BOYS Morua @Morua
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