第1話 扉 side白金拓海

【14:15 都内南高校】


 今日は生憎の雨だ。

 別に雨と飴をかけたわけじゃないが、棒付きの飴玉を何となく咥えながら校門から出る。


「白金君、また依頼だ」


「ん?」


 校門から出た先に居たのはスーツを着た男。

 渋い声に大柄な体型、子供が見たら泣き出すような見た目だ。


「はぁ…次はどこっすか?」


「ここから近い、車も用意してあるから直ぐに向かってくれ」


「ちっ、またゴミが湧いたか」


【14:30 車内】


「なぁ、おっさん」


 俺はエナジードリンクを口にしながらおっさんに話しかける。


「おっさん言うな、コードネームで呼べ」


「んじゃあ夜のおっさん」


「もっと酷い感じになってんだろうが!」


 んー、ちょっと面白いと思ったんだけどなぁ…。


「ってかさっきアンタも俺の名前普通に呼んでたろ」


「ちっ、これだからお前みたいに無駄に大人びたガキは嫌いなんだよ」


 こんな大人にはなりたくないもんだと思いつつ、俺は窓の外に目を向ける。

 この街では、ほとんどの人が変わらない日常を生きてる。

 その日常を守るのが、俺の役目だ。


【15:02 都内廃ビル】


 到着した場所は都内の廃ビル。

 明らかに取引に使われそうな場所だ。


「ここの3Fだ。頼むぜ最強のFさんよ」


 俺のコードネームはF。

 ここには様々な意味が込められているらしい。

 1つ目、俺に依頼すれば終わる事からファイナルのF。

 2つ目、のF。


 ポケットに手を突っ込んだまま、階段を上がる。

 誰も居ないため靴の音が響く。


「…ここか」


 何やら中から声が聞こえる。

 ドアノブに手をかけるとどうやら鍵がかかっている様だった。

 けれど、そんなのは関係ない。そのままドアを握って捻じ曲げて開けた。


「よぉ、お邪魔するぜ」


 そこに居たのは男3人ってところか。1人は仕入れ人って感じか?あとはマフィアだな。


「な…なんで…!?」


「くっ!」


 マフィアらしき2人が銃を構えて打つ。

 銃か…ハンドガン、日本では違法な代物。しかもかなり上等なやつだな。


「あんまり個室で打つなよ…うるさいんだ」


「なんで…なんで立ってるんだよぉお!?」


「簡単な話だよ…全部掴んだ」


 打たれた弾は合計で12発。俺は全ての弾丸を掴んでいた。


「さぁ、掃除の時間だ」


 その後聞こえたのは、情けなくも泣き叫ぶ汚い大人の声だった。


「今日は湿気が多いから…臭ぇな」


 その場に残ったのは人間だった肉片のみ。


「…げっ」


 後ろを振り返ると、そこには犬猿の仲とも言うべき人間がいた。


「人の顔見るなり嫌そうな顔すんなよ…それでも警察かよ」


【17:14 幼稚園】


「あ、拓海!」


「おう。彩音あやねいい子にしてたか?」


「うん!待ってた!」


 そう言って幼稚園の制服姿で現れたのは、2年ほど前にとある事件に巻き込まれていたのを保護している少女だ。

 自分と勝手に重ねて放っておけなくて…俺が育ててる感じだ。

 彩音は荷物をまとめて俺の元へ走って来る。そのまま手を繋いで街へ歩いて行った。


「よし、今日は晩飯何にする?」


「んー、お肉食べたい!」


「なら…肉じゃがでもやるか」


「やったぁ!」


 自己満足ではあるが、少しでもこの子の将来が平和になる様に。それにこの子が立派に育てる様に…頑張らなくちゃな。


【21:42 白金の家】


「ふぅ、こんなもんか」


 彩音を寝かしつけ、洗い物と洗濯を終わらせて…やっと自分の時間だ。

 スマホを取り出し適当にSNSをみながら仕事の後始末をやる。

 後始末って言っても依頼完了のメールだけだけど。


「…彩音の情報は見つからねえか」


 この子の両親の情報はどんなに探しても見つからない…一体この子は何に巻き込まれているのだろうか。


「はぁ、テスト期間だし…考える事多すぎなんだよなぁ」


 勉強に育児に仕事に…やる事いっぱいだな。


「退屈はしねえか」


 俺は手に持っていたココアを置いて、一息吐いた。

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