JACK BOYS

Morua

第1話 時雨 side黒鉄信夜

【10:14 都内路地裏】


 雨だ。煙草が湿気るから本当に嫌になる。


十文字じゅうもんじ武雄たけおさん。嘘はお勧めしません。ムショ暮らしとはいえ五体満足がいいでしょう?」


「ヒィ……職権乱用だろうが!?」


 俺は筒型のスタンガンを男の首元に当てる。


「全然、職権範囲ですよ。それにアンタの方が確実にアウトでしょうに」


「81番倉庫だ!!伊古湾いこわんの!!」


「自供感謝します」


 俺は手錠をかけると、携帯端末で部下を呼び出す。数分後、サイレンを響かせた警車がやって来た。


「……報連相、社会人の基本ですよね警部補?」


「ごめんごめん。それ、頼んでいい?」


 何故か俺は部下に頭を下げる羽目になった。


「……はぁ……奢りですよ?」


 そう言うと、物陰からひょっこりと金色の髪が見えた。

 あー、あいつか。


「ダーリンは相変わらず狼さんっすね。偶には二人組で行動しません?特にウチとどうっすか?」


「やあ、ハニー(棒)、会えて嬉しいよ。で、例のマフィアかぶれの情報知ってる?」


 こいつは情報屋”カラス”という胡散臭い肩書きの女である。入依いりえ沙耶香さやかと名乗っているが偽名だろうな。

 こうして俺は湿気が充満した裏路地を後にした。


【12:23 ファミレス】


「いらっしゃいませ〜」


「喫煙席で…同席でいいのか?」


「ちょ……そー言うところでデレるのは反則じゃないっすか?」


 俺は席に着いてタバコに火を付ける。


「んで、とりあえず情報だ」


「もー、せっかちさんっすね…今日都内の廃ビルでブツの取引があるらしいっす」


「紅茶と烏龍茶です。ごゆっくりどうぞ」


 店員がそう言って飲み物を机の上に置く。

 タイミング悪ぃな。


「あれ?珈琲嫌いでしたっけ?」


「ファミレス来て苦いもの飲む気分じゃねぇんだよ」


「なんか可愛いっすね」


 目の前にいるムカつく程の金髪美少女の部下が俺にそう前のめりになりながら言う。

 おい、烏龍茶零れんぞ。


「うっせぇ…さて、とりあえず詳しい場所と時間教えろ」


 俺はタバコの火を消して灰皿に入れると、紅茶を啜った。


【13:02 警視庁四課】


「黒鉄君…」


「はい、なんすか?」


 あら、これはこれは激おこプンプン丸の副課長が目の前に。


「なんすかじゃないの、そこに座って」


「はい」


 近くに椅子が無い事を察した俺は大人しく床に正座した。

 この人笑顔なんだけど目が笑ってねえんだよなぁ…怖い怖い。


「あなたね」


 何故か綺麗なお団子がプチプチと音を立てて逆立つ…的なイメージが俺には見えていた。


「あれほど勝手な行動は慎みなさいと何度言ったら…」


「あー、すんません」


「すんませんじゃないでしょ?全くあなたって人は…二課の仕事を取った挙句に報告書も書かないなんて…やるなら最後までキチンとやりなさい」


 その後、俺は小一時間ほど説教された。


「ちくしょう、足が痺れた…」


「ダーリン、肩貸そうか?」


「いらねえよ…つかなんでここにいんだよ」


「一応正式に入ったよ?ほら通行証」


 誰だよこいつに通行証渡したヤツ…。


「黒鉄君」


 すると先程の副課長が再び俺を呼び止める。


「え、まだなんか怒られる事ありましたっけ?」


「あなたは私を何だと思ってるのかしら?」


 副課長が顳かみを手で抑えながらそう言った。

 なんかその仕草も怖ぇよ。


「おぉ、怖ぇ」


「全く…それでさっき入依さんからの情報で前から追っていたホシの薬物取引の現場を抑えたわ。今日の15:10分頃に突入しなさい…本当はあまり頼りたくは無いのだけれど」


「えー、釣れないっすねぇ」


「へいへい、人使いが荒いねぇ…おーい乾、行くぞ」


「先輩の方が人使い荒いじゃないですか…」


【15:15 都内廃ビル】


 整理すると、四課で追っていたマフィアかぶれの連中が都内の廃ビルで違法薬物の取引をするらしい。そこへ四課の人間で突入する。


「昔は仁義を重んじる連中だったのが、ドンが変わってあら大変。肝やらヤクやらを無差別に売り捌く格落ちに大変身」


「そんなメルヘンに言ってる場合か。緊張感持て…そろそろ行くぞ」


 銃を持ち、ひっそりと廃ビルのドアの前に張り込む。


「少し静か過ぎますね…」


 たしかに、人の気配すら無い…気持ち悪いくらいだ。

 ん?鉄の匂い…いや血の匂いか!


「…げっ」


「人の顔見るなり嫌そうな顔すんなよ…それでも警官かよ」


 まるで粘土みたいにへし曲げられた金属のドア、そこの奥にあったのは文字通りぐちゃぐちゃにされたマフィアかぶれと、背中がデカすぎる青年だった。


「けっ…やっぱしてめぇかよ。白金しろがね


 目の前にいる肉の化け物とは腐れ縁である。銃弾をもろともしない筋肉信仰者だ…電流で死ね。


「うわぁ、今回も派手にやりましたねぇ」


「やり過ぎだ。掃除する人間の気持ち考えろ…特に乾の」


「はぁ、やっぱし俺ですか」


 白金は手に着いた血を洗い流しながら俺に向かって話し始めた。


「こう言うクズ共はこれくらいしねえとこの世からいつまでも消えねえだろ…ゴキブリかっての」


「ちっ、いつから私情挟んで良い仕事になったよ。つくづくガキだな」


 イライラして来た。タバコは…もう空かよ…。


「まだ16のガキだよ。それに私情でもねぇ…これで未来永劫こいつらが犯罪を犯す事は無くなったんだ。これで世の中が安全に近付くだろ…ヤニ切れでイライラしてんじゃねえよヤニカスが」


「黙ってろゴリラそう言うのは教会で牧師とでもしてろ。俺はそう言う空論が犬の次に嫌いなんだ」


「国家の犬が戯言を…潰すぞ…?」


「はーい、そこまで…両方ともストップです」


 すると乾が間に入る。


「とりあえず報告しますよ…はぁ2人が顔合わせるといっつもこうですね…」


 ここは部下の顔を立てて大人しく引くか…それに、あいつにこのちっぽけな拳銃1つで向かっても返り討ちに合うのが目に見えてる。


「ちっ…さっさと行くぞ。今朝の報告書提出しないとな」


「うへぇ…思い出させないでくださいよ」


「毎日実務っていうのはフィクションだ。刑事の仕事は7割は事務作業だ」


「って報告書サボったの俺知ってるんですからね!」


「うっせぇ、さっさと行くぞ」


「けっ、さっさと消えろカス刑事が」


 俺は車へ乗り込み、白金を無視してそのまま署へ向かった。

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