こゆきとのぞみのお悩み相談室~マウントポジション大事件~

地崎守 晶 

マウントポジション大事件

(私はいま、事件の現場に来ています)


 胸の中でつぶやき、ごくりと唾を飲み込む。目の前の尊い光景がこの現実に存在しているという事実に感謝したくなり、思わず手を合わせた。

 

 私の名前は春崎もみじ。漫件の合評会に出す作品に恋愛漫画のネタに悩んでいた私は、同じ大学のなんでも解決してくれるというサークル『こゆきとのぞみのお悩み相談室』の二人に相談した。

 そこで見せつけられた二人の関係性があまりにも百合的に美味しかったので、これしかない! と閃き、頼み込んで二人をモデルにした関西弁最強人たらしお姉さん×生真面目ツンデレ黒髪美少女の読み切り百合短編を締め切り3時間前に描き上げたところ大好評。

 そのお礼をかねて(さらなる百合ネタを求めて)贔屓の和菓子屋さんのお饅頭を持って、今日は茶道部の手伝いをしているという二人を訪ねたところ……


「ちょっ……さっさとどきなさいよ……っ」


 耳まで真っ赤な顔になって下から見上げる望海のぞみさん。


「ふふ~ん、こうやって見下ろす望海ちゃん、やっぱかわいいわぁ」


 色っぽく舌なめずりする小雪せんぱい。長い黒髪を畳に振り乱した望海さんの顔の横に両手をつき、覆い被さるようにして小雪せんぱいが見下ろしている。その名前にふさわしい純白の髪が、黒髪と見事なコントラストを演出している。

 すばらしいのは、にらんでいるつもりの望海さんの瞳がやや潤んでいるて、力の抜けた手が無防備に投げ出されている……口では拒否していても完璧な『受け入れ体制』を取っていること。

 そして今にも獲物をいただきますといわんばかりの体制の小雪せんぱいの爛々と輝く瞳。

 これ以上ないほどの構図。1秒かけて目に焼き付け、そしてスケッチブックを取り出していそいそと鉛筆を走らせる。


「お、来とったん?」

「ちょ、なに描いてるのよ!?」


 余裕たっぷりな小雪せんぱいと切羽詰まった望海さんの対照的な声音すら耳に心地よい。


「ふへ、ふへへ……こんなに美味しいネタを目の前で繰り広げてくれるなんてお二人にはほんと頭が上がりませんよ……あ、おかまいなく続けてください、私は壁のシミかなんかだと思ってくだされば」


「な、なに勘違いしてるか知らないけど違うからね!

正座で足が痺れて立とうとしたらコケただけだから!!」

「ウチもそうやで~偶然たまたま、ふたりして足痺れたからこうなったんや」

「アンタは面白がって覆い被さってきたんでしょうが!」

「それはそそるカッコしとる望海ちゃんが悪いわあ」

「知るか! 早くどけって言ってるでしょーが!」


 キャンキャン吠える望海さんと、それをにやにやと楽しむ小雪せんぱい。

 嗚呼、筆が止まらない。鼻血がでそう……


 その後、一連のどたばたで茶道部の部長さんには怒られたけれど、私の執筆はこの事件でたいそう捗ったのだった。


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こゆきとのぞみのお悩み相談室~マウントポジション大事件~ 地崎守 晶  @kararu11

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