第38話

それってどういう……?

そう思った次の瞬間だった。



「おーい! 大丈夫か!」



聞き慣れた声がグラウンドから聞こえてきて私達は同時に窓へと走った。

窓を大きく開くと、そこには先生の姿があったのだ。

先生だけじゃない。

消えていった仲間たち全員がこちらへ向けて走ってくる!



「みんな!!」



私は叫び声をあげて修とともに走り出した。

教室を飛び出して、滑るように廊下を走り、そして入り口の前で立ち止まる。

修が手を伸ばしてガラス戸を大きく開く。



「行くぞ」



再び手をつないでふたり同時に足を踏み出した。

なにも私達を遮らない。

なにも私達を突き飛ばさない。


私達の体はすんなりと外へ出ることができたのだ。

目を身交わせて歓喜の叫び声を上げる。



「出られた!」


「やった! 私達、外に出られたんだね!」



抱きついて喜んでいたところに、仲間たちが駆け寄ってきた。



「お前らよくやった!」


「私たちこの世じゃない暗い空間に閉じ込められてたんだけど、ふたりのことずっと見てたんだよ!」


「助け出してくれてありがとう!」


「すげーな。俺には気がつけなかった」


様々な声が私達を祝福する。

少し遅れて近づいてきたのは香だ。

香の顔を見た瞬間ぶわっと涙が溢れ出す。



「香!!」



私は修から離れて香に抱きついた。

香の抜くもり、香の匂いに包まれて戻ってきてくれたんだと実感する。



「歩ありがとう。助けてくれてありがとう」



ボロボロと涙をこぼして謝罪する香に私は左右に強く首を振る。



「香が戻ってきてくれてよかった。本当によかったよぉ!」



もう二度と失わない。

もう二度と、香にあんなことはさせない。

強く抱きしめて、絶対に離さないと誓う。



香だけじゃない。

潤も、花も、彩も、純子も、未来も、充も、正志も、先生も……そして、特別な修も。

絶対に絶対に離すもんか!!

私達が涙に濡れた再開を喜んでいたとき、みたことのない男性ふたりが戸惑った様子で近づいてきた。



「あ、あの……」



頭をかきながら声をかけてきた男性はどこかで見覚えがある顔の気がして首を傾げた。

どこで見たんだっけ?



「もしかして、田中さんと小原さんじゃないですか?」



そう聞いたのは修だった。

その名前に「あっ」と思わず声を上げる。

昨日新聞で見た行方不明になったふたりだ!



「あ、あの、俺達のせいで、本当にごめんなさい!」



見ず知らずの男性ふたりが突然頭を下げてきたので、みんな驚いている。

先生は警戒心を見せて生徒に近づけないように間に割ってい入ってしまった。

修と私は目を身交わせる。

修が小さく頷いて、私は口を開いた。



「謝るのは私達にじゃありませんよね?」



その言葉にふたりが同時にビクリと体を震わせた。



起こってしまったことは変えられない。

三谷くんも、もう戻ってくることはない。


だけどこれから先の未来なら……変えることができる。

きっと。

私達が外で会話している間に、教室内ではキュッキュッとホワイトボードに文字が書かれる音が響く。

文字は一文字ずつ、丁寧に紡がれていく。



『あ』『り』『が』『と』『う』



その文字は誰にも読まれることなく、直後に桜の花びらのように舞い上がり、そして消えていったのだった。



END

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命令教室 西羽咲 花月 @katsuki03

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