終章

Epilogue




「──はる、はる」

 とんとんと肩を叩かれて、薄らと浮上した意識に目を擦った。


 放課後の教室。

 どうやら、眠ってしまっていたようだ。


 彼女の太ももに預けていた頭をそっと持ち上げて、苦笑混じりに彼女が手を伸ばしてくるのを頭に受ける。

「ぼっさぼさじゃん」

「ん……」

 彼女の細い指が髪を梳いて、ぼくの身なりを整えていくのに身を任せた。

 何だか、夢を見ていたような気がする。

 それは甘やかで、愛おしくて、今もこの胸を満たす暖かな記憶だ。

 そして今、ぼくはその先に立っている。


「あきくん、まだ、ねむい」

「眠い? 起こしてごめんな。でもさっきから、廊下の向こうが騒がしいんだよ」


 少しだけ我儘を言ってみると、彼女は優しく笑って頭を撫でてくれた。

 だんだんと起きてきた頭を動かし、耳を澄ませてみる。──確かに、何だか楽しそうな声がこちらまで届いていた。

 名前も呼ばれている気がする。もしかしたら、探されているのかもしれない。



「なかなか感傷に浸らせてくんねえな、騒がしくて」


「うん……。ふたりぼっちには、まだなれないみたい」



 ふたりきり、指先を絡め笑い合った。

 ぼくたちの小さな花園は、今日も相変わらず、賑やかだ。






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春堕ちる庭 章乃 深白 @Shouno_Shiro

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