第7話 See you, scumbag.
すると、再び暦のS-Techが回転した。今度は赤い光を放ちながら回転している。
『G-Tech Driveを起動します。モード、〝閻魔〟 起動』
赤い光が暦を包んだ。赤い光がなくなると、暦の姿が変わっていた、
額にU字のような炎が灯り、二つの拳に炎が纏い、そして首から下かけて炎の羽衣を纏った姿になっていた。まるで地獄から這い上がってきた使者のように、恐怖があった。
「なんだ、そ、その姿は……」
「G-Tech Drive 〝神の力〟を宿した力だよ」
「そ、そんなの聞いたことねえぞ!!」
「当たり前だ。なんせ、これは父さんが作ったからな」
「父さん?」
「俺の本当の名前は星野暦。星野六曜の息子だよ」
「!?」
「父さんは死ぬ前にこのG-Tech Driveを遺した。力を兼ね備える権力者どもに立ち向かう為に。俺に託したんだよ」
炎が揺らいだ。この悪を焼き尽くすように炎は燃えている。
「ハハハハハッ! お前があの大犯罪者の息子だったとはなあ! なら殺したら俺は英雄になるってもんだ!」
「父さんは無実だ! お前ら権力者どもに殺されたんだよ!」
「泣き言はあの世に言ってから言えッ!! 死ねぇカス!!」
黒い姿が一瞬に消えた。そして暦の目の前に現れ、合沢は一撃を放った。
凄まじい衝撃破で、窓ガラスが全て吹っ飛びベランダの柵が壊れた。
暦は合沢の渾身の一撃を手で受け止めていた。暦は冷静な表情をしている。
「なッ!? 軍隊を吹き飛ばすほどの力だぞ!」
「次元が違えんだよ」
暦は合沢の手を握る。炎を纏った拳が黒い拳を溶かしてゆく。
「やめろォォォォ!! こ、この俺を誰だと思ってやがる……。特権階級の合沢誠三だぞッ!!」
叫ぶ合沢をよそに、暦は冷静に言い放った。
「それがどうした。今の俺は特権階級より偉い〝神〟だけど。じゃあな、クズ野郎」
暦は合沢に一撃を放った。黒い鋼鉄のパワードスーツが焼き剝がれ、轟音と共に、壁を突き破って寝室まで吹っ飛んだ。
「加減はしといた。死んじまうと話なんねえからな」
マスクが壊れ、合沢の顔が露わになった。整った顔が、火傷で台無しになっていた。
「お前の親父に聞きたいことがある。『大感染の金曜日』の本当の首謀者は誰なんだ?」
「……はあ?……なんで、俺に訊くんだよ。直接聞けよ」
少し体を起こしながら合沢は暦を睨んでいる。
「お前も少なからず知ってるんだろ? あんたの親父は新・日本戦略法の立案のメンバーじゃやねえか!」
「……親父は、ただ名前を貸しただけだよ」
「……なんだと?」
「新・日本戦略法を通すために、資金援助しただけの話だ。名前はそれがあると箔がつくからだ。ある人物に頼まれてな……」
「誰だよ?」
「言わねえよ……」
「言えッ!!」
暦は炎を放った。合沢の真横の壁が燃えた。様子を見に来た満が寝室に入ってきた。
「暦、止めろっ! もうこれ以上はダメだ!」
「何言ってんだよ! ようやく真実に近づくんだよ。父さんを死に追いやった奴を……!」
「分かってる。でも今の動きで、下の階の人達が騒ぎだしてると知聖から連絡があった」
メアリーと界生に抱えながら、三条香菜が出てきた。身体じゅうあざだらけで、ぐったりとしていた。
「あとは警察に着き出せばいい」
「でも……!」
「へへっ……。警察か……。突き出しても構わないが、お前の名前は知れてんだぜ? のちのちお前もブタ箱行きよ!」
合沢はまた高く笑った。その時だった。ピュン、と暦の背後から、黄色い閃光が走った。
「うっ!!」
合沢の額に風穴が空き、重力に従ってそのまま息絶えた。一気に場が凍った。
「い、今のは……?」
突然の事で全員が戸惑っている。
「外の方からだ!」
暦はベランダへ走った。周りを見渡すと何の気配もない。何者かが合沢を撃ち殺したのだ。
「一体……どうやって?」
呆然としている暦に、下の方でサイレンの音が聞こえた。
「まずい、警察です。恐らく我々の騒ぎを聞き入れたのでしょう。引き上げましょう。知聖、帰還ルートをすぐに調べてください!」
『了解!』
「暦、逃げますよ」
暦はベランダで立ち尽くしていた。強く唇を嚙む。またしても、真実に辿り着けなかった。
「暦ッ!!」
満が叫んだ。暦は踵を返して合沢の部屋を後にした。
「結局、合沢は強盗に押し入られ殺害されたと処理されました。三条さんは、何者かが鍵を開け、そこから逃げたと私たちをかばって証言してくれました」
5日後。開店前のミラージュにて、満はコーヒーを啜りながら、事件の顛末を話した。
「あと、書斎から被害者と行為中の写真も見つかりました。三条さんだけでなく、他の生徒も被害にあっていたそうですね。この件は書類送検だけで終わりました。残念ながらこの件はニュースにもなっていません」
「サイテーな終わり方ね。それに、アイツに蹴り一発入れたかった」
メアリーが舌打ちした。返り討ちにされたことに相当悔しがっていた。
「メアリーが無事で何よりですよ。怪我の具合はどうですか?」
「順調よ」
「でも、最後のアレは何だったんだですかね?」
界生がトーストを食べながら首を傾げていた。
「ああ。あの黄色い閃光の事ですか?」
「ボク、調べて見たけどあのマンションの周りには同じような高さの建物がなかったよ。これといった生体反応もなし」
「じゃあ、一体誰が合沢を仕留めたんですかね?」
全員が首を傾げている。
「ただ者じゃねえのは確かだ」
カウンターでトーストを食べ終わった暦が呟いた。
「……あの高さから狙うなんて有り得ねえ。多分、宙に浮いた奴とかが合沢を撃ったんだろう」
「ま、まさか……神じゃあるまいし」
界生は動揺していた。満は黙り込んでいる。
「もしかしたらな。ま、結局知りたいことは知れずに終わっちゃったし、またイチからやり直すしかねえさ」
あれから暦は考えていた。恐らく、「大感染の金曜日」の真実の裏に何か得体の知れないものが関わっているのではないだろうか。もしかしたら、暦たちの同じような力を持った誰かが。でも、考えたってきりがなかった。暦は必ず真実を掴み、明らかにすると父に誓ったのだから。
「おーい。もう開店するぞー。暦、買い出し頼む」
条一郎が厨房から出てきた。
「では、私はこれから大学へ」
「私も今日、モデルの仕事あるんだった!」
「ボクはこれから新作ゲームを」
各々帰る準備をし始めた。
「みなさん、行ってらっしゃい!」
暦も買い出しのために外にでた。ふと、空を見上げる。天気予報では東京はずっと曇天らしい。星はまだ見えそうもない。
東京星屑ートウキョウ・スターダストー 西蔦屋 和浩 @nishitsutayakaz26
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