第6話 〝G-Tech Drive〟

「……すまん。戻った」

 車に戻ってきた暦は満と界生に謝った。

「こちらこそ感情的になって済まない。まさか、深瀬が来るとは思ってもいなかった……。界生のおかげです」

「いえいえ。そんなことないですよ。お二人の気持ちはなんとなく分かりますから」

 しんとした空気が流れた。すると知聖から無線が入った。

『取り込み中悪いけど、まもなくメアリーが、合沢のマンションに着いちゃうよ』

 知聖が本題に戻した。三人は気持ちを切り替えた。

「そうでした。メアリーと三条さんを助けにいかないと。車を出します。すこし飛ばしますよ」

 満はエンジンをかけて、車を走らせた。


「すっごーい! さすが、いい所に住んでますね」

 メアリーはわざとらしく驚いた。無線を切ってしまったので、暦たちの様子が分からない。

「ま、俺みたいな選ばれし者には当然なんだけどね」

 合沢は上機嫌だ。しかし、さっきから合沢はメアリーの腰に触れ続けている。たまに臀部のほうまで手が来ていてメアリーは苛立っていた。エレベーターの扉が開いた。

「最上階なのね。でも、部屋は?」

「ここのフロアが俺の家さ。これをエレベーターにかざさない限り僕の部屋にはいけない」

 合沢は腕に付けているS-Techを見せた。

「これが鍵となっているからね」

 そう言うと合沢はメアリーに近づいてキスをしようとした。メアリーはそれを寸前で止めた。

「まだ、早いわ」

「いいだろ? これからたくさん教えて上げるんだから」

「だーめ。その前に準備があるのよ」

 メアリーは人差し指で合沢の口元を抑えた。

「ああ。なるほど、そしたら綺麗にしておいで」

「先に部屋に行っててね」

 合沢の姿が見えなくなったのを確認してメアリーは再び無線を繋いだ。

「知聖聞こえる? 今合沢の家に潜入したよ」

『了解。メアリー、ボクが開発したS-Techのスキャンアプリを起動して』

「了解」

 メアリーは、S-Techのアプリを起動した。S-Techをかざすと、肉眼では確認しづらい緑の波形が部屋を通過した。

『オーケー。スキャン完了。合沢は寝室にいるね。他に反応がないか探してみる』

 知聖のキーボードをたたく音が響く。

「分かった。書斎にに僅かながら反応がある。たぶんS-Techの信号だ。メアリー、書斎にに向かって」

 メアリーは書斎に向かった。極力音を立てずに廊下を歩くのは至難の業だった。

 書斎に着いて、ドアノブに手をかける。しかし、鍵がかかっていた。

「鍵がかかっているみたい。知聖、どうする?」

『うーん、多分S-Techが鍵なんだと思うんだよなー。そうだ、ちょっと待って」

 知聖がまたキーボードを叩いた。3分くらいして返事が帰ってきた。

『オーケー。メアリー、S-Techをかざして』

「え? でも……」

『いいから早く!』

 メアリーはおそるおそるドアノブにS-Techをかざす。すると、開錠した音がなった。

「えっ! すごい!」

『さっきのエレベーターからハッキングして開錠コードを読み込んだんだ。これで大丈夫だよ』

「さっすが知聖。アンタはホントに天才ね!」

 メアリーは書斎に入った。書斎も広く、様子が分からない。

『メアリー、そこの左から2番目本棚の方から反応がある! きっとそこだよ!』

「隠し扉ね」

 メアリーは本棚を調べた。僅かな灯りを頼りに本棚を調べるがなかなか手がかりがつかめない。

「そこで何しているんだ?」

 書斎の電気がついた。後ろを振り向くと合沢が不機嫌な顔で立っていた。

「おかしいと思ったよ……。あまりにも遅いもんだからシャワーの様子をみたら誰もいないじゃないか。 お前、何なんだよ」

 合沢は苛立っている。メアリーは立ち上がった。

「私は、三条さんを助けに来たの!」

「なんだと!?」

「友達の檀原さんから依頼があったの! アンタが暴行していること。そして、体の強要まで……! アンタみたいなクズな男は許せない!」

「クッソ……!! ナメたマネしやがってっ!!」

 合沢はS-Techを起動した。すると、警報が鳴り響いた。

『危険を察知しました。ガードドロイドを派遣します』

 メアリーもすかさずS-Techを操作する。すると、合沢がメアリーの腕を掴んだ。

「そうはさせねえよ……!」

「ねえ、触らないでくれる?」

 メアリーは蹴りを入れた。しかし、合沢はそれを躱し、メアリーに腹に打撃を加えた。

「……ゲホッ!!」

「悪りィな……。こう見えても空手をちっとばっかしやっててな。あてが外れたな」

 合沢はメアリーの髪を掴んで、リビングまで引きずった。

「さあて。どう料理しようかな、その前にちゃんと頂くものはいただかないと」

 合沢はうずうずしていた。

「……アンタ。どうしてあんなことをしたの……」

 苦しそうなメアリーをよそに、合沢は高らかに笑った。

「俺の欲求を満たすためかな? いたいけな女子生徒を言いなりにするなんて最高だろ? 三条はまさにうってつけだったんだ。あの容姿から俺に懇願する態度がもうたまらないんだよ」

「……そんなことして……ゆ、許されると思ってんの?」

「ああ、許される。俺は特権階級だからな」

 合沢の笑い声が響いた。メアリーは少しずつ起き上がる動きをした。

「ああん? もう復活したのかよ……。じゃあ今度は口が聞けないほど痛めつけてやるよッ!!」

 その時だった。ドシャーン、とリビングの窓ガラスが大きな音を立てて割れだした。

「な、何だ!?」

 合沢の視線の先には三人の人影があった。

「ガードロイドが正面玄関にいなくて助かりましたね。おかげで無事間に合いました」

「ったく、ワイヤー銃なんて無理があり過ぎんだろ。100メートルくらい昇ったぞ」

「ホントに死にそうだったんですけどぉ!!」

 満、暦、界生がベランダから現れた。

「誰だァ!? テメェら!?」合沢が三人に向かって吠えた。

「誰と申しましても、なんと言いますか。東京星屑というものです」

「東京星屑ゥ!?」

「あなたの非道振りは彼女のS-Techで録音しております。これは確たる証拠です。さすがの警察でも、あなたをかばいきれませんが……」

 界生がメアリーに駆け寄り、メアリーの体を起こした。

「女性に暴力なんて許せませんね。か、観念してください……」

「お前ら、誰にモノ言ってやがる……!」

 合沢はわなわなと震えていた。

「俺は合沢誠二! 生まれながらにして特権階級だ! お前らみたいな虫ケラどもに指図される筋合いはねェんだよッ!!」

 重たい足音を立てながらガードロイドが4体が合沢の部屋に到着した。鋼鉄の塊の人形は不気味さを放ちながら、暦たちを取り囲んだ。

「ちょうどいい……。最新モデルのガードロイドのエサとなりやがれ」

「やれやれ……厄介なことになりましたね」

 満は溜息をついた。

「界生、俺たちがこいつらを引き付けるからメアリーと一緒に三条さんの救出に回ってくれ」

「了解しました! 暦先輩!」

 暦と満はS-Techを起動した。

「オペレーション。ファイトモード起動」

 S-Techがオレンジ色の光を放ちながら回転した。

『ファイトモードを起動します』

 すると、暦と満に電流が走った。二人は少し悶えながらも、すぐに体勢を立て直した。2人の眼光の色はオレンジ色に変わり、燃えるような闘気を放っていた。

『ファイトモードを起動しました』

「行くぞ」

 暦の姿が消えた。次の瞬間、ガードロイドが一体吹っ飛んだ。鋼鉄の塊がいとも簡単に、ぺしゃんことなった。

「な、なんだ!?」

「ふー。やっぱ最新モデルだからちっと痛てェな……」

 暦は手首を振っている。合沢は呆然としていた。

「何が起こったんだ……? いや、とにかくやっちまえ!」

 残りの3体が2人に襲いかかった。暦は素早く躱し、ガードロイドに打撃を与えて、破壊し、満は回し蹴りで2体のガードロイドを破壊した。

「……う、噓だろ!? ウチの、最強のガードロイドがこんな簡単に……」

 合沢は膝から崩れるように愕然としていた。

「意外に早く終わったな。満どう?」

「肩慣らしにもなりませんでしたね……」

 暦と満は余裕の表情だった。

「どうする? まだやる?」

 煽る暦に合沢は何も言わなかった。すると、合沢が高らかに笑い始めた。

「ハハハハハッ!! まさか、こんな事になるとは思わなかったぜ……。まあ、いい。ちょうどアレを試す絶好の機会だ……!」

 合沢はゆっくりと立ち上がって、S-Techを操作した。

「V-Tech起動。アサルトシステム解放」

『アサルトシステムを解放します』

 すると、腕につけていたS-Techが離れた。すると、空中で分解し姿を変えて合沢の体に装着し始めた。数秒後、姿を変えた。黒い躯体、鋼鉄の塊が放つ銀色の光、マスクには十字架のような切り込みが入っていて、禍々しく、身の毛がよだつような殺気を漂わせていた。

「な、なんだよ!? コレ!?」

 暦と満は驚いた。

「ハハハハハッ! いいことを教えてやろう。これはただのS-Techじゃねえ。メイナード社が開発した、V-TechというVIP専用のテクノロジーだ! そして、V-Techには特別なシステムが構築されている……。それがこのアサルトシステムってやつよ!」

 機械音が混じる合沢の声は、科学という狂気に支配されているような声だった。

「まあ、これは対防犯用として作られたものだが、使う機会なんて全くなかったからな。そのその戦闘力は軍隊ひとつ吹き飛ばす力だ。まあ、お前らを殺しても正当防衛で話は済むからなッ!!」

 合沢は勝ち誇ったように、黒い拳を握りしめる。

「スキャンしたところ強力な戦闘能力です……。一筋縄では行きませんね。暦、どうする?」

 満は暦に訊いた。暦は少し上を見上げた。

「満。俺がやる。お前はメアリーたちのところへ行け」

「……分かった」

「なんだァ!? お前1人でやるのか? まあいい。まずはお前で腕試しだ」

 合沢は大きく首を回した。暦は深呼吸をした。

「俺もお前にひとつ言いたい事がある」

「なんだよ?」

「俺のもS-Techじゃねえんだよ」

「何を言ってやがる? お前みたいな下等階級には手には届かねえシロモノだぞ!?」

「いいから黙って見とけ」

 暦はS-Techを再び操作した。

「オペレーション……。G-Tech Drive……」

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