第5話 因縁
パーティー当日。「ミラージュ」では、東京星屑のメンバーが集まっていた。
「いよいよ作戦当日です。では、改めて作戦の確認をします」
満はS-Techを起動した。テーブルの上に画面が映し出された。
「パーティー会場の図です。メアリーと界生は一緒にパーティーに出席してください、暦はパーティー会場のスタッフとして2人のフォローをお願いします。私は駐車場で指示を送ります。知聖はここで全体的なフォローをお願いします」
「了解」
「そういえば、暦。例の物は?」
「ほらよ」
暦は偽造通行証を渡した。
「すっごーい。全然本物と同じなんですけど」
メアリーは偽造通行証を見ていて感心していた。
「これがなければ話になりませんからね。では、作戦の内容を続けます」
「まず、界生が合沢の服を汚します。当然、合沢は怒りますが、ここでメアリーの登場です。メアリーが合沢をなだめて、合沢の気を引きます。その隙に合沢に発信機をつけてください。メアリーは上手く、合沢を部屋に連れ込むようにしてください」
「ううぅ……。今になって緊張して来ました……。やめません?」
威勢の良かった界生が急に弱腰になり始めた。
「何、弱気になってんだこのヘタレ!!」
知聖が界生に蹴りを入れる。
「痛たァ……。あの遍先輩。もし、メアリー先輩が襲われそうなった場合はどうするんですか?」
「そうなったら、私が返り討ちにするから」
「心配いりません。その前に私たちが必ず助けにいきますので、まあそれで現行犯の証拠も取れますからね」
テーブルの画面が切り替わった。タワーマンションの画像が現れた。
「ここが、合沢の住むタワーマンションです」
「うわあ、すごい高級マンションですね」
「感心している場合じゃないよ、界生。ボクが調べたところ、ここのセキュリティは結構厄介だよ」
知聖は画面を操作して、マンションの様子を映した。
「ガードマンロイドが4体いる。正面突破はできそうにないね」
「裏口はどうですか?」
「無理。裏口も2体いる。このガードロイド、最新モデルだから結構強いよ。1体が戦車レベルだから」
「そうですか……。じゃあ、下から行きましょう」
満は得意げにに言った。
「えっ?」
全然がきょとんとしていた。
「下から? 満何を言っているんだ?」
暦が眉をひそめた。
「アレを使います。あるルートで手に入ったんですよね。4人分用意してますから」
満はニコッと笑って、S-Techの電源を切り、ジャケット正した。
「そろそろ時間ですね。それではショータイムと行きましょうか」
人口20万人が住む、第7地区はドロイド産業の中心地だった。そのドロイド産業の中ででトップなのが合沢グループだ。合沢誠が一代で築き上げ、全国にドロイドが配置されている。第7地区は合沢グループの国とも言われている。
第7地区の最高級ホテル「セブンスヘブントウキョウ」で、その創立30周年記念パーティーが開かれた。参加者は第7地区のVIPも他に、グループ関係者、他の地区のVIP、そして政府関係者も参加する。
「こちらメアリー。今、界生と共に会場入りしたよ」
「了解。暦はどうですか?」
「こちら暦。ウェイターとして潜入しました」
「了解です。では作戦通りに」
暦はウェイターをしながら、合沢を探していた。会場には数百人いるので中々探すことができない。恐らく上座のほうにいると思うが、ウェイターの仕事が忙しいので中々近づけなかった。
「こちら暦。メアリー、合沢は確認できるか?」
「まだ、できない。人が多すぎて見つからない」
「恐らく上座の方にいると思うが、確認してくれ」
「了解」
メアリーと界生は、カップルを装ってパーティー会場を進んだ。上座の方に行くと、恰幅のいい男達が談笑していた。周りの大人たちに囲まれて中心にいるのが、合沢誠だった。
「合沢誠を確認したわ。でも肝心のターゲットが確認できない」
「本当に参加しているのでしょうか? どうなんですか? 宇枝先輩」
『参加者リストには間違いなく掲載されているから、問題はないよ。界生、もっとちゃんと探せよ!」
暦も周りを見渡すがそれらしき人物が現れない。早くも作戦失敗なのだろうか?
「おい、ウェイター。酒おかわり」
後ろから誰かに呼ばれ、暦は振り向いた。紺色のタキシードを着た合沢がグラスを差し出していた。
「おい、聞いてんのか? 酒だよ、酒」
「あ、はい。申し訳ございません。どうぞ」
「ったく、しっかりしろよ。クズが」
罵声を吐きながら合沢はグラスを受け取った。暦は急いで連絡する。
「こちら暦。ターゲットを確認した。ビュッフェの方に向かっている」
「こちらメアリー。了解したわ」
メアリーと界生はビュッフェの方に向かった。界生はグラスを取った。
「こちら界生。ターゲット補足しました。今から作戦開始します。ああ、怖い……」
『今、弱音吐いてる場合か!! ちゃんとやれヘタレ!!』
知聖の檄がとんで、界生ビビッって体のバランスを崩した。持っていたグラスの酒がちょうど合沢のスーツにかかった。
「オイ、何してくれてんだよ!」
案の定、合沢は怒り散らした。
「す、すみません! ちょっと躓いてしまって……」
「こんなところで躓くわけねえだろ! これいくらしたと思ってんだよ!」
ヤクザのような怒号が響く。周りの視線が注目している。
「申し訳ありません! うちの連れが粗相を。……あら? あなたはもしかして合沢誠二様でしょうか?」
メアリーが合沢に近づいた。真紅のドレスを纏ったメアリーは、10代とは思えない艶っぽさを出していた。
「あ、ああ……」
メアリーの妖艶さに釘付けになっている合沢をよそに、界生はズボンの裾に発信機をつけた。
「噂では聞いておりましたが、こんなに男らしい方だと思いませんでした。良かったら一杯いかがでしょうか。お詫びも兼ねて」
「ええ、そうですね。そうしましょう。皆様、大変お見苦しいところを失礼いたしました。そこの少年、あとで請求をしますから今日はもう立ち去りなさい」
普段の体裁を取り戻した合沢は、メアリーの腰に手を回してパーティー会場の中心に消えてしまった。
「こちら界生。ターゲットに発信機を取り付けました。メアリーと共に中央に向かってます」
「よくやりました界生。私のところへ戻って来て下さい。暦、メアリーのフォロー頼みます」
「了解」
暦は会場の中心に向かった。一方、メアリーと合沢は談笑していた。
「先程はお見苦しいところを失礼しました。失礼ですが、貴女のお名前を教えてくれませんか」
「メアリー・ボールサムといいます」メアリーは偽名を使った。
「メアリーさんですか。素敵な名前だ。お仕事は何をされているのですか?」
「第8地区のとある会社で社長秘書をしています。社長の代わりに今日は参加したんです」
「なるほど。その社長さんに感謝しないといけませんね。なんせこんな美しい方にお逢いできるなんて」
「まあ、お上手だこと。そう言えば、誠二さんは、確か教師をしていらっしゃいますのよね? 大企業のご子息であるあなたがどうしてそのような職業に?」
「僕は会社経営に興味がないんです。僕は生徒を正しい方向に導く教師にずっとなりたかっただけなので」
白い歯を見せながら、合沢は渾身の笑顔を振りまいた。
「まあ! 素敵」
『ウソつけ。女子生徒に手を出したいだけだろ』
知聖が無線越しで毒づいた。
「静かにしろ、知聖。メアリー、そろそろ仕掛けてもいいじゃないか」
暦が近くで指示を出すと、メアリーは頷いた。
「ねえ、誠二さん。ここで話すのもあれですから、場所を移しません?」
「と、言うと?」
「もっとあなたの事が知りたいんです。よろしければ、あなたの部屋で……。ダメですか?」
メアリーは上目遣いをした。暦はこの上目遣いは男を殺す凶器だなと思った。
「いいでしょう。ゆっくりと教えて差し上げます」
合沢は見事に落ちた。二人が移動し始めた。
「ターゲットが移動する。そっちに戻る」
暦も会場から出ようとした、その時だった。
「これはこれは、深瀬先生! 来て下さったんですか!」
上座の方で、合沢誠が感嘆の声を上げた。後ろを振り向くと、合沢と固い握手を交わしている人物がいた。狸顔の男は、周囲に歓迎されている。暦はその男の方に向かった。
「おい、暦! どこへ行く!?」
満の無線が暦を引き留める。暦は無線を無視した。
「皆様、なんと特別ゲストです! 日本戦略担当相の深瀬大臣が来場されました!」
会場が湧き上がった。深瀬は現職の閣僚だ。次期首相候補で世間からも人気が高い。そして、深瀬は「新・日本戦略法」の立案者だった。
「どうも皆様、改めまして深瀬
会場がさらに沸いた。来場者は、深瀬を一目見るために、上座の方へ駆け寄った。
「暦、何してるんだ。早くこっちに戻ってこい!」
「それどころじゃねえよ、満。今深瀬が目の前にいるんだ。こんなチャンス滅多にねえだろ」
「今は合沢の事と、三条さんを助けることが優先だろ!」
「〝真実〟が掴めるんだぞ! それを無駄にできるかよッ!!」
「いい加減にしろ! このままだと、三条さんもメアリーも危険な目に遭うんだぞ!」
満が叫ぶ。暦は頭を抱えていた。
「暦先輩、今は耐えましょう。ここで騒ぎを起こしたら作戦が台無しになってしまいます。せっかく、メアリー先輩が頑張っているのに、暦先輩はそれを無駄にするんですか?」
界生の言葉に暦は我を取り戻した。会場では乾杯の掛け声が響き渡っていた。
「合沢をダシにして、情報聞き出せばいいじゃないですか。冷静になりましょうよ」
「……分かった。今から戻るよ」
暦は踵を返した。パーティー会場を出る際に暦は深瀬をひと睨みにして出ていった。
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