継ぐもの日常

朱乃

淳弥誕生日

「淳弥って、誕生日いつ?」

「なにそれ」


首をかしげた淳弥に、広朧は絶句しているようだった。

が、すぐに淳弥の生い立ちを思い返したのか目を見開いた。


ころころ変わる表情を少しおかしく思いながら、再度尋ねる。




すると、広朧はためらうような素振りを見せたあと、控えめに口を開いた。



「誕生日ってのはね、」





自分には縁のないイベントだった。



だって、




──────産まれてきてくれてありがとう、って感謝する日だよ




自分が産まれてきて、喜ぶ人間なんて、いないんだから


生まれてこのかた、感謝されたことなんて一度もないんだから。



だから、



「知らない。誕生日なんて、ない」


感情を圧し殺しながら早口に告げる。


得意だ。感情を圧し殺すことはなれていた。




静寂が二人を包む。




気まずくさせてしまっただろうか。


少し不安になり、顔を上げると広朧は元気に顔を輝かせた。




「じゃあさ、俺と出会った日、誕生日にしようよ!」


は?とおもった。


何をいっているのだ、と広朧の瞳を見つめる。



見つめ返してくるまっすぐで曇りのない瞳にたじろぐ。


本気なのだ。



彼は、本気でいっているのだ。



「でも、……」


「俺が、君に『産まれてきてくれてありがとう』って


俺と出会ってくれたことに感謝するなら、原点に戻れば産まれてきてくれてありがとう、でしょ?」



はちゃめちゃだけど、淳弥の胸を揺さぶった。



「なんだよ、それ」


ぎこちない笑顔だったとおもう。


ひきつって口角も上がらない。

だけど、心から溢れた笑みだった。



広朧という男の優しさに、偉大さに、


心から




尊敬した。




11月1日


広朧という男と出会った日。

淳弥の誕生日。




毎年、心のどこかでこの日を待ちわびている自分がいることを、淳弥はしっかり理解している。




今年の誕生日はどんなサプライズが待っているのだろう。


そうワクワクして寝る前日もたまらなく楽しい。





誕生日は、たまらなく楽しくていとおしい。

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