第55話 6レーン

「あーあせっかくプール存続計画立てなのになー」


 東屋の天井を見上げながら梶山がボヤく。そんな彼の周りには自分含むその他のメンツも、4日ぶりに東屋に集合してはいるものの一様に元気がない。あの後、プールは急遽閉場し、今期の営業は終了が決定したのだ。ただ、自分達はプールの清掃がある為、本当なら最終日であった明日プール場へと赴く。因みに先日の案件については今、市の調査委員会が検証をしている最中である。今回の一件は、流水プールの吸い込み口の格子に男児の持っていたビニールヨーヨーが嵌ってしまったのだ。また、そのヨーヨーを離す事が出来なかった為に、溺れてしまったという事らしい。まあ確かに自分と少し話をした時、ヨーヨーが安易に外れない様レクチャーしていた事を知っている。なので、男児はそれを守っていたという事にはなるが、あの話からこんな惨事になるとは思いもしなかった。そしてその事案に関する経過連絡はまだ自分達には届いていない。そのせいもあり、自身含め、居ても立ってもいられない中、4日間を過ごしているのだ。勿論こんな事が起きてしまった手前、誰も口では言わないものの、計画が軌道に乗る前に完全閉場になってしまうのではないかと、危惧の念を抱いているのは自分だけではないだろう。内心穏やかでは居られない中、思わず一回息を吐き、梶山の方を見た。


「しょうがないですよ。米内さんも多分出来るだけの働き掛けはしてると思いますし」

「健吾やけに冷静だな」

「だってしょうがないじゃないですか大河さん。今の俺達は何も出来ないから」

「…… そうだな」

「でも、集まってる」

「はははは。そうだな昴。まあ、家に籠りっきりでは上腕二頭筋を見てもらえないからな」

「久々に聞いたかも羽鳥さんの筋肉ネタ」

「ネタではないぞ、健吾!!」


 そう言うと、羽鳥は天を仰いだ。


「あの子はどうなったんだろうな……」

「俺も気になる!! 誰か知らない? なあ昴?」

「えっ、ぼ、僕っ、 知らなくて御免」

「戸乃立さん。皆知らないですから。ね、大河さん」

「まあそうだな健吾。でもここ最近の新聞にも特に今回の記事らしいのは載っていないしお手上げだな」

「大河さんそうなんですか!! じゃあ子供さん大丈夫だったって事ですかね」

「いや言い切れないぜ。親が止めてる場合もあるだろ、健吾」

「そうですよね…… 剛さん」


 すると、羽鳥がいきなり立ち上がると、視界の開けた場所まで行き、眼下にあるプールを見つめた。


「何にせよ、またあの子がこのプールに来てくれたら、自分は嬉しい」


 心配そうな表情を浮かべながら発した言葉に自分含め頷く。


 その夜、皆宛に米内からメールが届いた。


『男児回復。検証終了。不備による事故は見受けられず。 明日はよろしくお願いします』



 予定なら今季最終日の今日。本当なら客が居たであろうプール場は自分といつもの彼等しかしない。昨日米内から検証結果と、男児の状態は知れた、だが、自分達が立てた計画が来季に繋がる形なのかは今もって自分達にはわからない。そんな一抹の不安を抱え掃除道具を手にしながらいつもの朝礼の所で集まっている。すると、遅れて足早に米内がこちらにやってきた。


「皆さん遅れてすいません」

「今日は掃除だけですから時間の制限ないですし。それよりどうしたんですかそんなに急いで」


 実々瀬が問うと彼が満面の笑みが浮かべる。


「いえ。でも皆さんに朗報があるんです」


 すると米内がスマートフォンを取り出すと、皆を呼び寄せタッチパネルを指で指す。するとそこにはあの時の子供が溢れんばかりの笑み浮かべ写っていた。


「あの子?」

「そうですよ戸乃立君。あの後病院で意識が戻りましてね。精密検査の結果、特に異常もなく、このままでいけば今週中にでも退院出来るとの事です。それとこの一件については極力大事にしたくないと家族からの強い要望がありまして、今回の件で来季のプール営業に影響を起こしたくないという事で、新聞にも掲載されませんでした。それと、言付けで、監視員の皆さまにお礼と、来季もプール行きますだそうです。息子さん今から楽しみにしているようですよ」

「何だよ嬉しい事言ってくれるじゃん!! なあ健吾」

「はい!! 剛さん!!」

「市民の中でも存続を希望する声も上がっていますし、一番は君達の熱意が伝わったのかもしれませんね」

「じゃあ来季の営業って?」

「茂宮君。開場しますよ。今の時点では。実はクラウドファディングの許可も昨日貰えたので新年度から募集かけることができます」

「やったぜ健吾!!」

「はい!!」


 思わず声を張り上げ返事をする自分に実々瀬と戸乃立の顔も綻ぶ。そんな中、ふと自分の視界に写真をじっと見つめる羽鳥がいる。一番心配していたのは彼なのだ。


「良かったですね羽鳥さん」

「ああ、そうなだ健吾」


 すると彼は笑みを浮かべ、大きく伸びをすると『よしっ』と言い気合いを入れた。すると自然といつもの様に円陣が組まれる。


「今日は掃除ですが来季の為、よろしくお願いします」

「任してください米内さん」

「一番心配」

「昂!!」

「それ間違ってない」

「はははは」

「大河さん酷いっすよーー て言うか健吾笑いすぎ!!」

「うん、うん。最終日も通常運転で良いではなか」

「因みに例のやるんですよね」

「健吾。勿論だ!!」


 羽鳥のその言葉に自分含めた皆が頷き頭上を見上げる。雲一つない青空。自分達は大きく息を吸うと、一斉に同じ言葉を叫ぶ。


「天気快晴!! 安全第一!!」



※最後まで読んで頂きありがとうございました。感謝です。とりあえずやり切りました。これもひとえに遊びに来て下さった皆様のお陰です(涙)

引き続き、星、感想頂けると至極嬉しいです※











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天気快晴!! カカシ @kakasi0127

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