第54話
「大丈夫ですか米内さん?」
「す、すいません。茂宮君。段ボールが耐久性なかったみたいすね」
自分も監視台から降り、散らばったメガホンを集め始めると、米内が自分の名を呼び、新しめのメガホンを手渡す。
「ここは私がプールを見ながら拾いますので、これを羽鳥君へ持って行ってあげてくれませんか?」
「わかりました。じゃあ少し離れます」
そう言うと、すぐさま羽鳥の居る流水プールへ向かう。
「羽鳥さん。メガホンです。米内さんから頼まれました」
「おう、すまない助かった」
軽く会釈をし、元来た道を戻りつつ、流水プールを見ると、先程休憩の際に話した男児が、浮き輪に入りながら、両親と流れるプールで遊んでいた。すると、父親が、何らかの用事でプールから上がろうと縁に立ち上がった瞬間。足を取られ、背後からプールに落ちてしまった。派手に入水し水しぶきが上がる。すると、父親は水を飲み込んだようで、暫しせき込む。そんな彼を心配し駆け寄る母親。ベタなコントを見ている感覚を憶え、思わず笑みが零れた直後、彼女の背後に浮いていた浮き輪に子供の姿がないのだ。何が起きたかと思い回りを見渡すも男児はいない。その異変に気付いたほぼ同時に羽鳥が警笛を吹く。そして自分と羽鳥は直ぐ様両親の方へと駆け寄った。
「すいません。お子さんは?」
警笛が鳴り何事が起きたか分からずの上、いきなり自分達が近づいて来た思えば、先程まで浮き輪に入っていた我が子がいないのだ。
「わかりません!! わかりません!!」
慌てふためく母親。
「落ち着て下さい」
自分も声を掛け落ち着かせようとすると同じくして、近くで監視をしていた戸乃立も駆けつけた。そんな中、羽鳥は直ぐに何かを察し、自分等が居る場所から少し後退し、水中を覗く事刹那。
「昴!! 直ぐに流水システムを止めてくれ!!」
この状況化での羽鳥の疾呼は緊急事態の何物でもない。戸乃立はすぐさま設備棟へと向かい、彼は再度プールに潜ると、今度はぐったりした幼児を抱えていた。すぐさまプールサイドへ上げると共に、両親と自分が駆け寄る。
「僕!! 大丈夫か?」
しかし男児からの反応無い。羽鳥は急いで軌道確保しつつ、脈と呼吸の確認をすると彼が叫ぶ。
「健吾!! 米内さんに救急車手配!! 後AEDを至急!!」
「はい!!」
自分はすぐさま米内の居る筈の子供プールへと走って行く。すると、笛の音に反応していた彼がこちらに向かっている姿を捉える。
「米内さん。救急車を至急手配して下さい!!」
すると米内は自分が今まで見た事ない速さで管理棟へ行くと、場内に一時プールから上がる用アナウンスが場内に響く。その中を自分はAEDを手にし、羽鳥の所へ向かう。すると、羽鳥は心肺蘇生を施していた。
「羽鳥さん!!」
すぐさま自分も混ざり、AEDのパッドを子供の体に張る。
「離れて!!」
装置から低音のブザーが鳴り、一瞬男児の体が微かに動く。そして電気ショックの終了アナウンスが流れ、再度人口呼吸を始める。その間周りでは、母親が泣きずれ、野次馬が集まってきていたが、それ等を実々瀬等が誘導していく。すると、救急車のサイレンが耳に入ってくる。その音は大きくなり、サイレンの音が止む事暫し。場内にストレッチャーの押す音が響き始めた。それと共に、救急車の隊員が3名、米内に先導され足早にこちらに近づいてくる。
「救急隊です。幼児は何歳ですか」
その問いに、両親は気が動転している余り答えられず、自分が再度両親に聞き、救急隊に方を向く。
「5歳です」
「溺れてどのくらいになりますか?」
「水中で発見して10分経過しています。発見当初から呼吸なしです」
「分かりました」
会話中にも処置を止めることなく子供をストレッチャーに乗せた。直後、子供がせき込む。
「呼吸が戻ってきました。僕!! 大丈夫!!」
ただその問いには答えない。意識が朦朧としているせいか、瞼が痙攣している。そんな中、ストレッチャーは車両へと向かう。すると一人の隊員が両親に近づいた。
「お二人はことらへ」
取り乱す母親を宥める父親が救急隊員の指示により救急車へと足早にその場から去っていく。自分達はその様子をじっと、見つめていた。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
ハートありがとうございます! 明日で完結です!最後までお付き合い頂ければ幸いです
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