女神の失敗

桐原まどか

女神の失敗



目覚めると暗い場所にいた。

「なんだ、ここ?」

俺はキョロキョロと周囲を見回した。暗い。とにかく、暗い。

と、前方にパァっと眩しい光が一筋差し、そこからいかにも、女神でござい、という、真っ白なレースの衣装に身を包んだ、頭に月桂樹で出来た冠を被った女が現れた。

女はじろじろ、俺を見る。

「…今回は貴様か…」ふぅ、とため息を吐く。「いいかげん、疲れたな、転生…」などと、ぶつぶつ言っている。

俺は食いついた。

「転生!?転生ってあの、転生!?」

―って事は俺、死んだの?記憶ないんだけど…。

「そうだ。わたしの役目は貴様を〈勇者〉として、とある世界に転生させる事。覚悟はあるか?」

そんな問い、耳に入っちゃいなかった。いや、正確には入っていたが、気に止めなかったのだ。

「よっしゃあ!〈勇者〉!〈勇者〉って事はパーティ組んで、魔王退治とかだよな!可愛い女の子ばっかのハーレムにしてやる!!」

ガッツポーズで雄叫びをあげた。

女神は、ふぅ、とため息を吐いた。

「ここまで、素直なヤツも珍しいな…じゃ、さっさとやるぞ。疲れてるんだ、こっちは」

女神は目を瞑ると、何やらぶつぶつ唱えだした。と、俺の身体が光り出す。おっおっ?

その光が頂点に達した時、俺は身体に衝撃を感じた。

※※※※

ここはとある世界。

いままさに、聖女により、〈勇者召喚〉が行われたところだ。

魔法陣が光り輝き、現れた男の姿に色めき立つ。と。

「○○¥#¿」男が何やら話しているが…言葉が聞き取れない。

ざわつく。おかしい。〈勇者〉はすべてに精通する存在。言語だって解しているはず…。


俺は目の前の可愛らしい女の子に見とれていた。もしかして、もしかして〈聖女〉ってやつか。くぅー、たまんないね。

努めて冷静に「はじめまして、俺は〈勇者〉です。名前は…」

と喋ったところで、聖女様が青ざめているのに気付いた。

どうしたんだ?

周囲もざわついている。


「¥¥●●#」

未知の言語を話す〈勇者〉…のはずの男に戸惑っている。

もしかしたら…。

「失敗…したかもしれません…」

聖女の言葉に失望が広がる。


ううん?おかしいな?誰も、俺に話しかけてこない。

普通なら「ようこそ!」とか歓待受けるんじゃないのか?

俺は立ち上がろうとした、と。

兵らしき、男ふたりが駆け寄ってきた。

俺はあれよあれよ、という間に、牢屋に放り込まれてしまった。

どういう事だ。

牢屋の冷たい檻越しに叫ぶ。

「おーい!俺は〈勇者〉だぞ?どうして、こんな事するんだ!?」

しかし、反応はなかった…。

※※※※

「あっ!」女神が不意に声をあげた。

使い魔が「いかが致しましたか?」と問うと。

「やってしまった…」と呟いた。

あの男に翻訳魔法を付与するのを、忘れた。…。

「ま、大丈夫だろ」と女神は打ち消すように呟いた。

「〈勇者〉なら、自力でどうにかするさ」

さぁ、次の転生者が待っている…。

今度は気を付けよう…。

※※※※

…俺は冷たい牢屋の中で、する事もなく、寝っ転がっていた。

俺はこの先、どうなるんだ…?

そんな不安と戦う日々だ…。

ハーレムを作ろうなんて、企んだバチが当たったのだろうか…。

今日も食事を持ってきた看守に話しかけてみるも、反応がない…。

「女神様ー!どういう事だよー!!」

思わず、叫ぶ俺だった…。

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女神の失敗 桐原まどか @madoka-k10

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