第12話(お題:湖)

 あたしは夢を見ていた。湖のような、だだっ広い水面の上をただあてもなく歩いている夢。ここがどこなのか、何故水面を歩けるのかはわからなかったしさして気にしてもいなかったが、自分が何かを探しているということだけは不思議とはっきりしていた。

「……あー……」

 探しているのは「何か」ではなく「誰か」らしい。ならまずはこうだ、名前を呼べばいい。ただ息を深く吸い込んだそのとき、相手のことを何も覚えていないことに気づいた。名も顔も、何一つ思い浮かばない。これでは探そうにもどうしようもないじゃないか。

 ああ。それに気づくと途端に不安が襲ってきた。あたしが探している相手は誰なんだ。その誰かも、あたしを探してくれているだろうか。あたしのことを思い出せず、途方に暮れているのだろうか。

 あたしは得体の知れない絶望感に駆られ、ただただ湖の真ん中で泣き叫んだ。


「……リナ!」

 枕元で響く声に目を開けると、ベッドのサイドテーブルに載っかったルネが心配そうにこちらを見ていた。

「ん……」

「うなされていましたよ。悪夢でも見られましたか」

「…………かも」

 目を擦るとしっとりと濡れていた。あたしは妙に寂しいような、人恋しい気持ちになってしまった。

「ルネ……」

「大丈夫ですか」

「ごめ、……ちょっと」

 ルネを抱き上げ、自分の胸の位置で抱きしめる。ルネは驚いたのか小さく声を上げたが、大人しくなすがままにされてくれた。

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ルネ・グラナートゥムの緩やかな死 涙墨りぜ @dokuraz

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