最終話 その扉の奥にあるもの

「もし何かがあるとすれば、良くて中央、おそらくは反対の角ではないか」

「可能な限りの将官を投入し、階段の部屋で野営をして突き進んでも、半日掛かりましょう」

「下での野営は無理か」

「武人だけなら寝ずに交代して戦えましょうが、藍玉殿の真下に再現出される恐れもあります」

「調達師頭殿は異界で生きていた記憶がおありと聞いたが、我等の思いつかぬ手段はないか」


 今まで現実だと考えていたのを改める手もありか。

 流石に最上階のスイッチはないと思うが。


「もしかしたら、二階から地下に降りる階段があるかもしれません」


 建物型のダンジョンなら普通の、仕掛けですらない構造だ。

 翌日、近衛師団長閣下を先頭に、霊鋼銀持ち四人が窓から躍り込んだ。

 大型で持久力耐久力防御力が高い魔獣も、鋼銀の武器でも問題なく倒せる。

 短時間で一部屋ずつ各個撃破され、その日の内に東の壁際に階段が見つかった。


 一応掃討された部屋に入ってみたが、何もなかった。

 全部何もないと思わせて一か所だけあるかもしれないので、調べない訳にはいかない。

 四大戦力は階段を下りてみたが、見た目は北西の地下と同じだった。

 こちらは地下二階の可能性もある。


 何か見落としている気がする。

 壁際を全部調べないといけないのか、三階に当たる高さの壁を掘ってみるか。

 あったよな、一歩ごとに壁を叩いてみないといけないダンジョン。

 夕餉の後、瑳弥殿と二人になっても考え込んでしまい、じっと手を見る。


「これか?」

「何か、お判りになって?」

「城の事ではないのですが」


 ずっと指に嵌めていた理力の指輪を外し、全部知力の指輪に替える。

 額冠も叡智の額冠に。

 外に出るとまだ薄明るく、城が見える。


「ああ、騙された」

「ねえ、お教えください」

「この城自体が罠です。肝心なものは何もないんですよ」

「なぜそのような事を」

「力尽くで突き進む者は何れ滅びます。知恵を試されているのでしょう」

「ここは試しの場で、宝物庫は、ないのですか」

「いえ、ここにはない、と思わせてあるのかも。価値がないと思われていた鋼の剣と同じで、発掘人にも宝物があるのは薄ら判りますから、何もないので調べなかった瓦礫の下に、階段が隠されているのでしょう」

「魔都の入り口から、全部調べないといけないのですか」

「いえ、そこまでしなくても、いや、しなきゃダメなのかな。戻りながら探ればいいでしょう。兎も角明日にしましょう」


 寝に戻ろうとしたら、何かやっているのを察知した人達がぞろぞろ出て来て、説明させられた。

 翌日、取り敢えず手近な瓦礫として半壊の城壁が選ばれ、二か所目で地下街の入り口かと思った横に広い階段が現れた。

 入って行こうとした斥候を止めて、こんなこともあろうかと用意しておいた、身の丈以上の石玉を収納から出す。

 名付けてモンスターにローリングストーン攻撃。


 入らないか途中で砕けるかとも思ったけど、元気に階段の角を砕きながら転がって行き、程なくして人のものではない怒号が聞こえて来た。


「来ます!」


 様子を見ていた斥候が戻ってきて、吾は下がらせられる。

 細身で手長足長のグリズリーの集団がナックルウォークでやって来て、みんな斬殺された。

 安全が確認されてから階段を降り、指輪を理力に付け替える。忘れていた。仕事しろ吾の知力。


 地下はやはり石柱がまばらに立っている荒れ地で、ある程度先は見えない。

 エリア的な区切りは感じないが、宝物もないようだ。

 魔獣は十体くらいの集団で散発的にやって来るが、たちまち殲滅されて、午前中に中央に扉がある壁に着いた。

 扉は高さ五腕幅六腕、この世界の規格の倍だ。触ったらからくり箱だった。

 一世一代の旦那芸を見せる。


「開きました」

「其処許は下がられい。何があるか判らぬ」


 戦闘モードの軍司令閣下に従って下がる。

 中央からこちら向きに開くと思われるので、長い鳶口を掛けて開けた。

 何も出ては来なかったが、扉と比較して四腕くらいと思われる、椅子に乗ったような四つ足の石像が立っていた。

 左右に二十体、四十体いる。石像の奥には普通サイズの扉がある。


「明日にしませんか。あれは逃げないと思います」

「これから戦うと、ちと、遅くなるか」


 石像の強さが判らないので、出来れば一体ずつ戦いたい。

 早朝に瓦礫を撤去して、入り口付近を殲滅、野営地を守る戦力を残して全力で中の魔獣を殲滅、扉を開けたら吾は外に逃げられる位置で待機に決まった。

 戦闘部隊も極力無理をせず、長距離攻撃を持つ者が一体を攻撃して、複数が動くなら即座に撤退する。


 扉を開けた後、音も聞こえない位置で待っていると、思ったより早く斥候がやって来た。

 怪我をしているようには見えず、焦っている様子もない。勝ったのだろう。


「霊核ではない、未確定の球が出ました。お越し下さい」


 ゴーレムみたいなもので、核が生物用じゃないのか。

 小走りで行くと、まだ戦闘モードの軍司令閣下に小ミカンほどの大きさの銀色の球体を渡された。収納して確定する。


「霊鋼銀の球です」

「おおおおおおお」


 全員感動の声を上げたが、冷めやらぬうちに扉の中を見る。


「お下がり下され」


 めんどくさいので少し近くにいたかったが、複数動くかもしれないので先ほどと同じ所まで下がった。

 今度は時間が掛かったと思ったら、閣下に四つ球を渡された。

 ここまでは攻撃された一体だけが出て来る。


「今日は、終わりましょう。再現出するか、した物からも霊鋼銀の球が出るか、などあります」

「うむ。四十体で終わりでは、張り合いがない」


 四人掛かりで一体ならば、一方的に斬り伏せられるそうだ。霊鋼銀の切れ味のお陰でもあるのだろうけど。

 帰って彪玉に霊鋼銀の球を見せたら、固まってしまった。

 何が出来るか収納させるつもりだったのだけど、止めた。


 翌日、リポップしていたので四分の一弱の九体倒してもらう。霊鋼銀の球もあった。

 もう一人分溜まるまではこの数で行きたかったのだが、誰かのを造るとしたら近衛第三師団長閣下ではないかと権力者が決めて、双剣使いなので多く必要だと言い張る。

 権力に負けて三分の一弱の十三体まで妥協した。

 

 剣が二本出来る前に師団長閣下はやって来て、石像狩りに混ざった。

 剣が出来上がると、半分まではいいんじゃないかと、十九体が狩られる。

 流石にリポップしなくなる恐れのある半分未満にはしないが、一気に倒して何を守っているのか見たい気持ちもある。

 将官級の戦力は、もう暫くここにいられる、と言うか、王城警備軍司令閣下が増えた。


 六人分の武器が出来ると我慢が出来なくなり、奥の扉を開けなければいいんじゃないかと、四十体を殲滅してしまった。

 翌日無事にリポップしたので、数日は大人しく四十体殲滅をしていたのだけど、同じ事をしていると飽きるのか、扉を開けたがる。

 あの扉が罠で、開けると金の卵を産む鳥を殺すことになるかもしれないのは、初めに言ってあるのだが。

 もし民話的なシチュエーションで、覗くなと言われたら吾は絶対に覗かない。

 しかし、日に日に我慢のできない人が増えて行き、開けてしまおう、となってしまった。


扉は想像に反して、鍵も掛かっていないただの扉だった。四十体殲滅しないと開かない仕掛けだったのかもしれないが。

 中には幾つもの古金の山と、煉瓦ほどの銀の箱が二つ。一辺四指の立方体の箱が一つ。

 二段重ねになっていた立方体の銀箱の中身は、無属性の八つ揃いだった。小さい箱は両方手袋が一双。


「鑑定の手袋。誰でもこれを嵌めて触れば鑑定が出来ます」

「悪くはないが、あの石像に守らせる物か」

「開けてしまったのですから、しょうがないですね」


 吾が術技を授かる以前なら家宝だったが、宝探しも生まれた今では、そこまで貴重なものではない。

 まだ何もない方が良かった、みたいな雰囲気で野営地に帰投した。

 翌日確認に行ったが、扉は両方開いていて、石像は復活していなかった。

 帰りは徹底的に瓦礫を探索した結果、銀製伸気伸突剣の四属性揃いが四組出来た。

 大成果を上げたはずなのに、みんなしょぼくれて帰った。


 翌年から、逆侵攻後に魔都に行くのが恒常化した。

 地下の魔獣も含めて、王城の魔獣は基礎能力が高いだけで、特別な攻撃はして来ないので、規格の揃った大き目の霊核を得るのに最適だった。

 本当に王城には何もないのかの調査も行われたが、そちらの成果はなかった。


 奥の扉を開けて五年目、手前の扉が閉まっていた。

 期待に包まれて開けた扉の中には、石像が立っていた。

 まだ見える内に始まった殲滅戦は、瞬く間に終わり、吾は四十個の霊鋼銀の球を確定した。


 一度目が大した物ではなかったのが罠で、二度目に開けると今までにない物があるとか、逆に開いたままになるとか言われたが、吾の生きている間は奥の扉が開けられる事はなかった。

 あそこは、人間の自制心を見る場所ではないかと思う。

 前世では仏の顔も三度だったが、この世界の神様は二度目は許してくれなそうな気がする。

 地下での扉開けばかりやらされたらたまったものではないが、魔都での仕事は二か月と決められ、一年の主な仕事はこれだけである。

吾は扉開けの調達師と呼ばれた。割と良いあだ名じゃないかと思っている。



十万字以上のものをお読み頂きありがとう御座いました。

 





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異世界出世物語 袴垂猫千代 @necochiyo

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