第30話 城攻め

 人間同士で大規模な戦闘が起きないように造られていると思われるこの世界には、城攻めはない。

 攻城兵器もないのだが、人間が個人技で城門を破壊してしまえるのだからいらないね。

 件の三人は、近衛軍司令閣下が到着するまで、玄関広間にリポップするグリズリーサイズの古代獣モドキを倒して過ごした。

 正面入り口の扉も、午前零時でリポップする。

 吾は東西に行ける所まで行って、白地図を埋める。


 魔獣は広場や道だと、人間の周囲一メートルにはリポップしないのだが、城内はルールが違うらしくて、夜中の零時になると足の下にも遠慮なく湧く。

 ちなみに人間が道や広場にぎっちり入っていると、周辺に一斉に大量に湧く。


 大剣発見から四日後、全員が待望の近衛軍司令閣下がお着きになった。

 普段の、怖いけど可愛い、仲良くなった熊みたいな雰囲気はなくなって、最強の武人が近づいてきた。

 仮鞘に納めた大剣を持って、お出迎えする。


「調達師頭殿、我が剣を下され」

「どうぞ、お受け取り下さい」

かたじけなし!」


 身の丈と同じ長さの剣身を、自然に抜き放って仮鞘を収納し、平を肩に担ぐ。


「行くか」

「はっ」


 そのまま四人は城内に入り、魔獣の咆哮が響き渡った。

 どのくらい時間が経ったのか、斥候が呼びに来て城内に入ったが、玄関広間の続きの間も、何もない土間だった。

 見えているのに隣の部屋の様子を感じ取れない。

 部屋一つずつがダンジョンのエリアなのか。


「どうだ、調達師頭殿、何かありそうか」


 四人が合流して、軍司令閣下に聞かれる。


「いえ、何もないようです。それと、見えている別の部屋を術技では感じ取れません」

「妙なものだな。魔窟の中と外のようなものか」

「左様です。魔獣を殲滅されている時に、隣の部屋から魔獣が入って来ましたか」

「いや、来ない。魔窟の階層などと同じか」

「おそらく。城内は広大ですから、法則を見つけておく必要はあると思いますが、法則に従わない罠がある可能性も考慮なさって下さい」

「うむ。承知した」


 今日はこのくらいにしてやると、引き上げた。

 明日からはやれるだけ部屋を殲滅した後に吾が入って、何かあるか確かめ、入る必要のない部屋を特定して行く手筈になった。

 夕飯時の軍司令閣下は、暴れてすっきりしたのか、熊さんに戻った。

 にまにましながら、四人で鞘の話をしている。

 そして吾は、霊鋼銀の剣のインパクトで忘れていたことを思い出した。


「閣下、地の銀製伸気伸突剣をお持ちですか」

「ああ、あるが」

「お売り頂けませんか」

「其処許が必要ならば只で譲るぞ。どれだけよくして貰っている事か」


 閣下が出してくれた剣を有難く受け取る。

 お義母上が寄って来られて小声で聞かれた。


「揃ったか」

「はい」

「何だ?」


 軍司令閣下が怪訝な顔になる。


「場を移してお話し致します」


 彪玉を呼んで、密談場所に移った。

 剣を渡し、彪玉が製作している間に閣下と義伯母上に説明しておく。


「四属性揃って収納していると、銀製の伸気伸突剣の複製が造れるかも知れません。持ち出し物のただの剣に効果を複写します。鋼製では成功しています」

「なんと」


 それ以上は製作の邪魔にならないように、誰も声を出さない。


「出来ました」


 出された四本の剣を四人が手に取ろうとするが、風属性がいなくて、火属性が二人いる。


「もう一本、火属性を造れるか」


 彪玉に言ったのだが、旅団長閣下が無言でただの銀の剣を差し出された。

 なんで持ってるかなんて、聞いてはいけない。

 四人分揃ったところで一斉に手に取る。

 熊さんがにまにま剣身を見ている。見てもただの銀製と違わないのだが。


「ただの銀の剣は材料であったか」

「そのようです。鋼の剣で試したのですが、複写の複写は出来ませんでした。このことが知れ渡れば、特に地の銀製伸気伸突剣の入手が困難になります」

「入手の当てはあるか」

「中町、上町の探索を雑にして来てしまいましたので、丁寧に探索すれば得られるのではないかと思います」

「銀の伸気伸突剣が入手し易くなれば、来年の雨季は更に楽になるぞ」


 それぞれに重責を負っている人達は頷き合い、彪玉は公表できるようになったら、それなりの地位と保護を貰える約束をしてもらった。


 翌日からは、四人が精鋭部隊を率いて城内で暴れている間は周辺探索を行い、午後に安全になってから、制圧部分の探索を行った。

 どこも何もない床ばかりで、適当に建てかけの分譲地全体に天井が付いているようなものだった。


「やはり、お城の宝物庫は地下でしょうか」

「であろうと思うが、通常なら既に二つ三つはありそうな、上に行く階段もない。窓から梯子で入れぬ事もないが、床が抜ける恐れもある。取り敢えず一階は全て一度見てみる必要はあろう」


 魔獣は日付が変わるときっちりリポップするので、規格物の霊核は得られるのだが、将官のやる仕事ではない。

 城の最上階のスイッチを入れると地下に行く階段が現れるんじゃないかと思い始めた頃になって、北西の端の部屋に階段が発見された。

 夜勤部隊がリポップする傍から殲滅して進路をクリアにしても、行くまでが遠い。お城って広い。

 ちなみに、二階に上がる階段はなかった。とんでもない設計ミスである。


 地下を探索して帰って来る時間を考慮すると、リポップした魔獣を倒しながら帰還しないといけない。

 武人だけならやれなくはないが、吾を魔獣の中に連れて行くのは避けたい。


「横から回り込んで、壁に穴を開けて入れないでしょうか。魔窟の地面が掘れるのですから」

「試しに同じ厚みと思われる二階の壁を掘ってみるか。態々あそこ迄行って掘れぬでは無駄足だ」


 軍司令閣下は装備で吾よりも知力が上がっているようだ。

 窓枠も鎧戸もなく、四角い穴になっている二階の窓の向こうは別空間で、こちらからの射撃は消えてしまう。

 投石は運動エネルギーを失って壁際に落ちる。

 よくある収納に生物が入らない設定の逆で、人間は入れるが霊気が通っていない物は入らない。

 覗くと魔獣がいるけど出ては来ない。どこか一部でも体が入ると齧られる。

 入り口は扉を壊すと外からでも攻撃が中に通り、魔獣も外に出てくる。


 梯子なんてケチな事は言わずに、しっかりした足場を組んで掘らせた。

 出て来るといけないので、直径五十センチくらいの穴を開けさせたら、凶暴なネズミ面が頭だけ出した。

 発掘人が下がって、護衛が斬りつけると砂になって崩れ、霊核がこちらに落ちた。

 頭を出しては斬られ、出しては斬られ、一部屋分の魔獣が全滅した。

 熊さんが呆れてしまう。


「なんだ、この茶番は」

「三つ四つ穴を開けられると効率的ですね」


 階段のある部屋の横幅から、穴は三つになり、暗くなった道を帰るのが怖くなければ、半日近く地下の探索が可能になった。

 怖いので夕飯までには帰る。

 地下は荒れ地で、区画はなく、石柱が自然木のようにまばらに生えている。

 魔獣は決まったエリアのようなものはなく、勝手に歩き回っていて索敵範囲に入ると襲ってくるようだ。

地下の広さは、横幅の推定から一階とほぼ同じと思われる。

 一定の距離の先は霧が掛かったように見えない。

 もしかしたらと思って、玄関広間の床を掘らせてみたが、掘っても穴が開かなかった。

 ある程度掘ると、いくら掘っても掘れはするが深さが変わらなくなる。

 落ちるのを心配した二階の床も、同じように穴は開かない。

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