第29話 魔都の奥で待つもの

 斜めに南に下って、もう一軒分の大きな瓦礫を探知してみたが、良さそうな感じはなかった。

 中央通りに出て下ると、意外に早く野営地に着いた。どんだけ北に上げたんだか。

 霊鋼銀の剣は、木で白鞘を造り、柄が見えるように布でくるんで吾に返された。

 帰るまで、吾が持たされる。誰かが受け取りに来てくれないのか聞いたら、吾が直接陛下に献上するものだと言われてしまった。


 持ち帰り残業はないはずなのに、夕食後の巨頭会談に強制参加させられた。


「我が王都と同じ規模の都だったとすれば、えらい事ですぞ。何がどれだけあるのやら」

「しかし、再現出物があるかどうかは、瓦礫の大きさでは判断出来ませぬから。調達師頭殿がいなければ、来ても意味がなかった」

「然り。なれば、明日の予定も藍玉殿に決めてもらいたい」


 特に意見はありません。


「高価な物を商っていた店に再現出物があるとも限りませんから、面を塗り潰してゆくより他にはないでしょう」


 未知エリアの地図作成の常識ですね。

 登山のように、野営地を北に伸ばして行って王城に到達する計画だったのだけど、横に何があるか判らなくなったので、計画の変更が必要になった。

 昨日と同じ所まで北に行き、可能な限り東に向かう。

 途中で霊銀の剣を一本拾い、貴族の邸宅跡と思われる瓦礫から、古金を三百枚余り発掘した。

 今日はここまでと言う所から瓦礫に登ると、東に森が見える。壁だったと思われる物はない。

 背中に羽の生えたネズミらしきものが樹冠から時々飛び出て来る。


「あの森に入ったら、戻って来られるのでしょうか。入り口付近は外壁が残っているんですよね」

「入口以外から出てみた者はいない。出て生きて戻った者がいないとも言われている」

「わざわざ試す必要はありませんね」


 現実では死に戻りは試せない。特にあの森に行きたいとも思わないので、吾に関わるイベントなどはないのだろう。

 少し南に降りて帰る途中で、鋼銀の伸気剣と伸突の短剣を拾った。

 一人の持ち物であったのなら、瑳弥殿と戦闘スタイルが同じだ。


「以前であったなら、家宝になる品だが、調達師頭殿のお陰で、上佐以上は皆持てるようになった」

「いずれは霊鋼銀も、と言うのは無理か」

「はい、無理だと思います。おそらく今は行けなくなった、当時でも危険な北の魔窟から採れたのでしょう」


 何処にあるかも判らない魔窟を探して、北をうろつく事は出来ない。

 魔窟自体を探す術技はない。魔窟があっても、中は別空間なので、何があるか何もないかも判らない。


 翌日中央通りの西側を同じように一日分探索したら、少し奥で数は少ないが金の大物の装飾品ばかりが出た。

 上得意だけを相手にする店だったのか、コレクターの家だったのか。

 東西に揺れながら野営地を上げ、じりじりと王城に近づいた。

見付かる古金だけでも兵の給料分以上なので、実利は上がっているのだが、もう一つ盛り上がりに欠ける。


 何かイベントがないと、ルーティンワークは飽きる。なんて思っていたら、鋼の剣が出土した。

 魔王城の宝箱から鋼の剣が出るようなものか、と思いながら確定すると、伸気伸突剣だった。


「鋼物の伸気伸突剣?」


 誰かに言ったわけではないが、発掘人が反応した。


「まさか、今まで捨ててきた鋼モンはそれだったんで?!」


 鋼物は鑑定する価値がないので、持ち帰られる事がなかった。

 直ちに中町以南の未確定の鋼の武器が持って来られたが、全部付与効果もないただの鋼物だった。

 発掘人達は妙な安心を得たが、装備修復の為に付いてきた錬成師達は混乱する。

 伸気伸突は製法が失伝していた。鋼物など言い伝えにもなかったのだ。

 複製出来ないか、は、昔から銀の伸気伸突剣で試して、成功していない。

 彪玉に渡したが、所在無げに眺めている。


「何も判りませんが、手前が魔都に来たかったのは、此れの為だと思えます」

「手に入れて直ぐに、何でも解決するものでもなかろう」


 効果だけ複製出来るかもしれないと思い、買い取ったただの鋼の剣も渡しておく。

その後も三本見つかったが、進展はなかった。


 貴族街の入り口付近で、霊鋼銀の長剣が見付かった。

 飽きさせないと言うか、逃がさない感じかな。

 武人系に無駄なスイッチが入った。野営地を貴族街の入り口まで上げてしまった。

 外壁は半壊しているが、廃墟ではあるが瓦礫になっていない王城が見える。

 兵の消耗は全くなく、定期的に下の魔獣も討伐しているので、帰路の危険はないという。


 記録している魔獣の精密画を見せてもらうと、古代生物的だが、何に似ているとは言えないものばかりだった。

 普通に討伐しているものは、割とあれに似ていると言えるものが多い。

 ツキノワグマサイズの高速型と、ヒグマ以上の重戦士型が組で出て来るそうな。

 それでも、ここでの治療で戦闘復帰出来ない被害は出ていない。


 貴族街は高級品ばかりだが、数が少ない。霊気が濃いと低品質の物はリポップ対象にならないのか。

 しっかり地図を作りながら、白地図を埋めて行く。

 作成された地図は国家機密になる。

 銀の伸気伸突剣が二本出た後、鋼の伸気伸突剣も貴族街で出た。

 それを彪玉に渡したら、腕を掴まれた。


「余人のいない処でお話があります」

「お義母上も拙いのか。密談場所となれば司令用の天幕が一番だが」

「閣下のお耳には入れとくべきかと思います」


 お義母上の天幕には旅団長閣下と瑳弥殿がいた。

 この場の責任者は彪玉だ。


「どうする」

「お二人にも、お話しておくべきかと」

「なんです?」

「伸気伸突剣の造り方が判明しました」


 三人があたふたして、密談用の特殊な幕が張られた一角に連れて行かれた。


「四属性の伸気伸突剣を持っていると、効果を持ち帰り物の剣に複写できます」

「そんな事だったか」

「では、銀でも」

「おそらくは」

「揃っていないか」

「はい」


 銀の剣は全量買い取りなのでこちらでも買うと発掘人に言っておいたが、銀の伸気伸突剣が揃わないまま、王城前まで野営地が来てしまった。

 王城の入り口でまた霊鋼銀の剣が出るが、見たことがある長さと形だった。


「これ、お義母上の剣とそっくりじゃありませんか」

「ああ、そうだ」


 お義母上が抜いた剣を並べて見せる。


「そうなると、最初に見つかったのは?」

「見た時から、そう思っていたが、己の物にそっくりだなどと言い出せる代物ではない」


 旅団長閣下がご自分の剣を抜いて見せる。

 出して並べると、やはり同じだった。


「長剣はどなたの物か、判ります?」

「姉上だ。やはり、言えなかった」


 お義母上が即答する。


「偶然ではないでしょうね。これは、使ってよいものか、問い合わせる必要がありますか。この三本なしで廃城に入るのは、どうかと思います」

「今でも十分な成果は上がっている。一旦帰るべきか、国に問い合わせてみよう」


 結果は、剣はそれぞれ該当する者の物とし、西門守護将閣下がやって来られる事になった。

 手に入った装飾品も、使えるものは全て兵に配って良いとされた。

 勿論上の人達も、装備する分には好きなだけ取れる。

 西門守護将閣下が御出でになるまで周辺を適当に討伐と探索をしたのだが、お二人は何で鞘を造るかと言う話ばかりする。

 雨季の討伐戦で様々な素材が溜まっていて、迷っているようだ。

 今持っている霊銀の剣と全く同じなんだから、その鞘に入れればいいものを。


 西門守護将閣下に長剣を渡すのは、吾の務めになった。それと、お義母上から、伯母と呼んで欲しいと頼まれた。

 軍用輸送車から、がちがちの西門守護将閣下改め義伯母上が下りて来られた。

 早く済ませてしまいたいので、挨拶を終わったら長剣を出す。抜き身では危ないので、仮鞘に入っている。


「義伯母上、どうぞお取り下さい」

「おお、何もかも、かたじけない!」


 受け取るとちょっと離れてから抜いて、ぶんぶん振り回す。

 離れるだけの分別はあるのだけど、離れてるのに風圧が来る。

 気が済んだら、こちらに合流された。


「では、参ろうか」

「はい」


 霊鋼銀持ちが三人揃って城に入って行こうとする。


「何方へ行かれるのです」

「玄関広間だけ覗いて見ようと思う」


 この場に止められる人間はいないので、止まらない。

 後ろから付いて行こうとしたら、吾が止められた。

 ちょっと前に来たばかりの義伯母上が仕切って、攻略が始まった。

 三人で並んで、入り口の扉に唐竹割の斬撃を放つ。

 即座に下がって、内側に倒れる扉の残骸を数百人の一斉射撃が襲った。

 何かが出てこようとしていたのだけど、よく見えないうちに全滅してしまった。


 慎重に安全を確認した後、吾が呼ばれた。

 入り口からの光以外に、部屋全体が薄明るい。

 四角い部屋の対角線の交点に、強い反応がある。

 掘らせたら、二腕越えの武人でも両手持ちになる大剣が出て来た。

 確定すると、霊鋼銀製だった。


「なんで一本ずつ」

「どうされた」

「霊鋼銀の大剣です」


 出して見せる。


「近衛軍司令閣下の物だ」


 即座に旅団長閣下が断定した。

 このまま三人で突っ込まずに、近衛軍司令閣下の到着を待つ事になったのは、良かったと思う。


 


 



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