第28話 魔都到着
魔都攻略隊の中核は、兄上が所属する近衛旅団と、お義母上の指揮する西門第二師団である。
どちらも縁故採用で、他の師団旅団を寄せ付けなかった。
北門と東門は各師団の混成部隊になっている。
近衛旅団長と各門師団長では近衛の方が格上なんだけど、吾との距離の力関係で、お義母上がトップになった。
近衛軍司令閣下も元は西門の人だったし。
戦力としては一か所選抜の二百人でも過剰な上に、魔都は定期的に通う者がいるためにそれなりに道が付いており、やる気になれば、軍用車で都の外壁と思われる瓦礫の前まで乗り付けられた。
道中の危険などは、軍の前には霧散してしまった。
珍走団が走り回っている道路を、戦車で通るようなもの。
国家事業として行っているために、周辺での個人の野営も許している。
万が一にも吾に危険が及ばないように、軍の野営地に入るのは当然禁止されているが。
周囲にいた魔物も、外壁の中の、倒すと霊核を残して砂のようになって崩れてから消える魔物も、瞬く間に摺り潰され、通称大門前広場と呼ばれている空き地に、千人以上が長期に逗留出来る野営地が出来上がって行く。
見ていてもしょうがないので、発掘人と工兵隊を連れて、個人の探っていない辺りを探ってみた。
一度殲滅してしまえば一定時間はリポップもないので、護衛を引き連れての廃墟観光である。
掃除した後に引かれたカーペットの上を歩いているようなもので、野営地にいた以外の魔物自体を見ていない。
ここでの探索慣れした発掘人に案内されて、都市の位置的にも大店の商店と思われる処に来た。
石造りの三階建てが飛び散らずにぐずぐず倒壊したらこんなもんか、という見た目の、レンガの倍くらいの大きさの揃った長方形の石で出来た小山だった。
「このでけえ瓦礫の山に、なんかあるとみんな思ってるんでやすが、どこにあるかまでは判らねえんで、石どける気もしねえで見るだけになってやす」
何かある場所は、はっきり判る。最短距離になる位置に回り込んで指示した。
「この方向十腕あたりだ。掘り易いように半径二腕程に広げてくれ」
手慣れた工兵隊が、石が崩れないように退けながら、言った通りの場所に更地が出来る。
掘り返すと、手金庫が十八も出て来た。特殊な物でなければ、半分は吾のものになる。
発掘人が渡しながら聞く。
「旦那、これ、見てる前で開けられるって話を聞いたんすが」
「ああ、見せてやる」
収納から机を出して一つ載せ、旦那芸をして見物人に一枚ずつ配った。
一旦帰って報告すると、旦那芸を見たいと言われてもう一箱開けて、そっちは配るだけで空になった。
当然足りないので、行き渡るまで開ける。大損しかしない残業だが、初日の片手間の泡銭なので気にしない。
落ち着いたら将官級が集まって検討会議である。
「問題は、手金庫が再現出するかどうかですね」
「五年と言われているが。見つけた者は決して場所は明かさないが、これは知れ渡ってしまうだろう。魔都の物は誰も所有を主張出来ぬ」
「個人でも行けぬ訳ではない場所で、此れ程の物がいきなり出たのは、良いやら悪いやら」
「それなりの人数でなければ、周辺討伐も瓦礫の撤去も出来まい」
成果を国の関係者で独り占め出来ないのは当然なので、これでいいと思う。
この先、軍を率いて来なければ入れないような、貴族街の宝物庫や王城の宝物庫もあるはずなので、けち臭いことは言わなくてもいいじゃない。
結局、国全体の豊かさにつながるとして、中町と思われる地域の宝物の在処は公開する事になった。
周辺で野営していた発掘人を呼んで、掘りたくても掘れなかった場所を聞いてから寝た。
なにも鳴かない朝が来て、やけに張り切った探索隊と共に、発掘人に案内されて、昨日と似たような瓦礫の山に到着する。
掘って出て来たのは大量のガラス器と古金が五百枚。バラは配らない。
「手金庫はないのか」
兄上がみんなの気持ちを代表して言った。
「昨日の店は何を商っていたのでしょう」
「何だったのだろうな」
にゃんだったんだろうにゃあ。
もう一軒は質屋と思われる店で、蔵らしき位置から雑多な小物が出た。
個人か少数のパーティで来たなら楽に儲かるのだが。瓦礫を退けるのが手間か。
昼食後に残業してもう一軒行ったら、薬屋だったのか薬筒が八十七出て来て、二級二つ、三級一つ、五級三つだった。
悪くはないのだが、命懸けで来るほどではない。二級が出なければハズレかも。
帰投したら、近衛旅団長閣下とお義母上がタッグでやって来た。
一対一でも勝ち目がないのに二人掛かりかよ。
「案内人なしで、上町に行かんか。斥候を出したが危険はない」
「それでしたら、明日はそのように致しましょう」
「では、明日我々が出撃したら、野営地を上げるように指示する。帰りが短くなるので、四軒程度探索出来よう」
好きにして下さい。
そんな訳で、翌日は朝から巡航速度で真っすぐに奥に向かった。
程なく上町の入り口と思われる壁に到達した。
お義母上が代表で吾に責任を押し付ける。
「では、藍玉殿、どのように致そうか」
「今日は行けるところまで北に行き、東側を戻りながら探ろうと思いますが」
「おう、帰りの時間に余裕が出るな。暗くなったからと言って、なんだと言う事もないが」
いや、何が出るか判らないでしょ。暗いだけで怖いもん。
一応何かありそうな処を物色しながら北に向かい、四か所確保して一つ目の瓦礫を探った。
やはり、それなりの大きさの建造物が崩れた石の山だ。
中央通りの裏、やや南に結構あるように感じる。
掘らせたら、魔獣素材の武器が大量に出て来た。
「武器屋か!」
武人集団から歓声が上がった。
吾が良質の素材を見つけるようになっても、消耗品なので、あればあるだけ安心感に繋がる。
出る傍から収納して確定したが、銀より良い物ばかりで、鋼銀並も幾つかある。
「今までは下町の我楽多屋や質屋の物だったのか」
「ここが再現出するなら、それだけで来た甲斐がある」
「まだ二日目でこれか」
将官級なら郎党率いて来れるからね。利権の分配は権力者に任せて関わらないようにしよう。
全て掘り出して確定すると、お義母上に提案された。
「ここを東に行くのは駄目か」
「倉庫ですね。なくても、何れ調べるのですから、宜しいのではないでしょうか」
別の場所に倉庫を持っている店は多い。
今日の取れ高はあったので、駄目を潰しに行っても構わない。
東に移動すると、瓦礫のない地面に何かある。
「そこ、掘ってみてくれ。何かは判らないが、かなり良い物だと思う」
発掘人が慎重に掘り出した、刀身が一腕を超える幅広の剣を差し出す。
収納して確定したら、とんでもない物だった。
「霊鋼銀の伸気剣?!」
「なんと? 見せてくれい!」
「はい、どうぞ」
お義母上にパス。もう知らない。なんで道端に落ちてるんだ。
「藍玉殿、収納して下され。持っていると、そのまま持ち逃げしたくなる」
返却されてしまった。仕方なく収納する。
「暫く時間が欲しい。この場を正確に記録しておきたい」
「どうぞ。しかし、なんでこんなところにあったのでしょう」
「ここで戦い、果てたのだろうな。霊鋼銀の武器を見つけた者は、けして詳細を明かさぬので、どのような場所にあるか判らないのだ」
鋼銀でも十年に一度で、霊鋼銀は落とした物を拾っているだけでリポップしないとも言われているが、百年先でも可能性があるなら、他人には教えず一子相伝にしてもいい。
その後時間の許す限り東に行ってみた。武器屋の倉庫は見つからなかったが、鋼銀の剣が二本、やはり道であった場所に埋まっていた。
「庶民は逃げ惑ったが、上位者は抗ったのだろうな。どのような戦いがあったのかは判らぬが」
お義母上の言葉に他の武人達も頷いた。
原因は判らないが、巨大隕石落下なら、直撃で死んじゃった方が楽なんじゃないかと思う。
一度死んでも、こうしてチート能力を貰って楽に生きられることもあるんだから。
でも、今死にたくはない。これ以上良い条件もそうないだろうから。
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