第27話 魔都が呼んでる
昼餉まで道具屋を廻って、利鷹に金物も選ばせたが、やはり只の金とそれ以外に分ける。
確定できれば金はそれで十分。鑑定料が高かっただけなので。
鑑定士はどうなるのか。持ち帰り物以外の仕事はあるんだろうか。
吾が心配する必要はないのだが。
各店に商品は補充されていて、金製属性付き理力の三つ揃いが出来て行く。
こちらは三つ揃いにする意味はないのだが、持ってない人に上げると喜ばれる。三つ揃いだからって訳じゃないか。
手を付けてしまった手金庫もあったが、偽物だった。利鷹は手金庫の箱自体を宝と感じてしまう。
昼餉の後、検証結果を近衛府に報告すると、夕餉前にもう一度連絡をくれるように言われた。
反対側を漁らず、銀物全量買取りの店に行って今日は帰ろうと思ったら、途中の店で手を付けていない手金庫を見付けた。
港から入ってきたのが南町で買われて止まっているようだ。
全量買取りの店でも利鷹に選ばせたが、やはり半分銀だった。大量でも疲労はないようだ。
手を付けてしまった手金庫が三つあったが、本物は一つしかなかったた。吾が見つけた偽物は、転売させないために壊して良い事になったので、二つは兄上に斬ってもらう。
東秘泉に帰って近衛府に連絡したら、宝探しは時間が掛かっても一人で八つ揃い、三つ揃いを確定出来るので、九位の下、近衛遊軍曹長に決まったと言われた。
座ってだらだら夕餉にしようとしたのだが、利鷹がとっ散らかる。
「信じらんねえ。九位の下って、自警の大頭っすよ」
「自警は南門下士官並だが、そちは近衛軍だ。官位は同じでも格はそちの方が上だぞ」
「義鶻の頭より上って、こっちはそんな男じゃねっす」
十二になるまでは下っ端の走り使いだったのだろうから、急には切り替えられないのだろうけど。
「国にどれだけ貢献出来るかで授かった官位だ。強さを比べるなら兄上は同世代の武人でも突出しているが七位の上だ。吾は五位の中」
「師匠は全くの別格でやしょう」
「吾の母は芸楽師だった。祖母はただの売女だ。今は店を買ってやったから女将をしているが」
店の女達が一斉に黙る。利鷹は全員の気持ちを代表して言う。
「師匠、こっちとおんなじなんすか」
「ああ、例えると紅雀や倖蝶の産んだ子が吾だな。吾がこうしているのは、授かりの術技だけの運でしかない。墓荒らしは特別かもしれないが、これからは躯拾いや宝探しは出て来るはずだ」
「瑛晶の姐さんとこっちは、師匠がいてくれたからじゃねえすか」
「まだ始まったばかりだ。認識が広まれば増えてくると思っている」
吾が直接装備してやらないと躯拾いや宝探しになれない、などと思われては困る。
ファンタジーな世界なので、思い込みが現実に反映されやすいんじゃないかと思う。
一ヶ月南町にいたが、希望者は女一、男二の三人だけだった。
男は色街の自警団以外の仕事を望んでも、女は高級娼婦になりたいのはいても、草毟って暮らそうと思うのは少ないんだな。
結果は女の子が緻密採集、男は金物掘りと武術。
男二人は大満足だったのだけど、緻密採集を授かっても、危ない上に淫肉より儲かる保証はない。
金物掘りは東門に連絡したら、あちらから迎えが来て連れて行った。
あとの二人は西門に預かってもらう。
女の子はこうなるのも承知だったので、ダンジョン村は悪くない採集場所だった。
男は鍛えて貰いながら女の子の護衛をするという。
出来るだけ良い装備を渡して送り出した。
持ち帰り物は外国からも入って来る。仕事はいくらでもあるのだが、魔都に何かあるのではないかとの思いは消えない。
十五になってからのつもりだったが、力が付くと待つ必要もないと感じる。
国としても、魔都の奥に何があるかは知りたいようだ。
広大な廃墟をあてもなく掘り返す訳にはいかないが、吾が居れば護衛の戦力だけで王都一つ分の宝が手に入る。
残されていた宝が全て持ち帰り物になる訳ではないが、リポップする物の位置を確定出来るはずだ。
ただ発掘して終わりではなく、良物ほど時間がかかるが、一度場所が判ればおそらく永遠にリポップする。
今までは不測の事態で吾を失う可能性があったので行くのを止められていたが、下位互換が増えれば、許可は出るのではないかと思う。
雨季の防衛線並みの戦力ならば、魔獣は摺り潰してしまえるだろう。
近衛軍に打診してみたら、来年の雨期明けまでは待って欲しいと言われた。
魔都攻めの戦力自体は不安はないが、吾が魔都に惹かれるのが不安だと返された。
魔都に行きたい気持ちに強制力があるのか試すために、敢えて日常生活をしてみる。
先ず、しばらく行っていない下士官養成所に行った。日常生活じゃないか。
有り余る金貨を放出するつもりで買い取った、金装備とちょっといい魔物素材の武器防具が大量にあるので、同級生だけでなく、養成所全体に配った。
巧瞬狐に「形見分けじゃねえよな」と言われてしまった。
そう感じさせる雰囲気だったのか。
「金が余っているのだ。南町に行くと、落ちている石を収納すると金に変わるように儲かる。こんな事が出来る」
絶対に滑らない手金庫の開け芸をやって見せた。
「売女が、旦那は手金庫開けて古金配るって言ってたが」
「ああ、今も一枚ずつ配るが、懇ろの売女がいるのか」
「素人女にゃねえ良さがあるんで」
「それは判るが」
「旦那の直の知り合いだと言っちまったら、敵娼が店でこれをやってくれねえかって、うるせえのなんの」
「残念ながら南町で手一杯だ」
「マジ残念っす」
ここで断っておかないと、とんでもないことになるのは、目に見えている。
姉上がちょくちょく「お泊り」に来る以外は、去年と変わらない日々が続いた。
宝探しが十本の指に理力の指輪を装備すると、手金庫が開けられるのも判明した。
本人のやる気と根気がないと駄目で、収納内で半日掛かるが。
将来出来るようになっても、手では開けられない振りをしろと、利鷹には言っておいた。
翌年になっても、魔都の呼び声にはどうしてもと言うほどの強制力はないようだったが、逆侵攻が終わってしまうと、他にやることがない。
瑳弥殿に相談した。
「もう、後は人生でやり残した事が、魔都探索だけのように思えるのです。どうしても行かねばならないとは感じないのですが」
「お行きなされませ。何処へなりともお供して、あなた様の盾となり剣となりましょう」
「かたじけない」
二人の間ではそれでよかったが、近衛府に話すと、誰が付いて行くかで大騒ぎになった。
近衛は戦闘力は高いが、今回欲しいのは数に対抗できる雑兵と、発掘用の工兵隊だ。
なのに、近衛軍司令閣下が抗う。
「一人の将官より百人の下士官が良いというのは、通常の探索の場合だ。そなたは中央広場を越え、王城に行くのであろう。となれば、何が起きるか判らぬではないか。複数の将官が護衛に必要であろう」
東西北の門守護将閣下も同意見だった。
都市防衛と対犯罪特化の南門は、最初から参加を諦めている。
結局、近衛軍と東西北門から選抜で二百人ずつ付いて来る事で収まった。
慣れた発掘人や雑用、上位者の個人的な従者も含めると千人を超える。
とんでもない過剰戦力なのだが、手付かずの上級民居住区から王城の探索で、十分ペイすると思われた。
収まらないのが独り連れて行かれない幼女である。
どう足掻いても十二歳未満が行ける場所ではないのだが、護衛の兄上は兎も角、引き籠りの姉さままでが行くのが我慢できないらしい。
父上もご正室も、ここが躾の為所とばかりに、今回は甘い顔をしていないようだが。
別の家に住んでいてよかった。
諸々の準備が整い、国王陛下主催の壮行会まで開かれた。
そして、成功しかないと誰もが期待する探索が始まる。
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