第26話 少しずつ増えて行く

 三つ揃い使用希望の子供の両親の、属性、発掘人、採集人、男女別、出来ればどちらが霊力量が多いかの統計を取ってもらえるように依頼して、南町に向かった。

 市場大通りより北の道具屋には持ち帰り物の銀の六種類は残っておらず、金の属性付きの理力の小物が四つ手に入っただけだった。地属性は首飾り一つ。

 宿を取ってから、兄上に聞かれる。


「で、明日の宿はどうする?」

「吾は常時五人体制なのですが」

「武人でも限られた者しか行けぬ北の奥まで行ったのだ。精気なぞ自在に操れるようになったのではないか」

「武人ではないので、気の体内操作はそれ程上手くありません。それに、敵娼を買わずには泊まれないでしょう」

「そなたは紅雀だろう。淫肉でない女ならもう一人くらいはよかろう」

「時々店に様子を聞いているのですが、紅雀は踊り子だけで稼ぎは十分で、売女はしていません。吾に係わりがある者なので、囲われ者ではなく情人にする話も来ているようです」

「そなたが行けば向こうから抱き付いて来るだろう」


 瑳弥殿が軽く吾の腕を揺する。


「あの、どのようなお話なのでしょう」

「兄上が女郎屋へ行きたがっているのです」

「自分一人ではなく、護衛大隊の総意だ」


 瑳弥殿に南町の歓楽街の概要と、紅雀の話をすると、凄く行きたがった。遊郭跡になっていない遊郭の観光みたいな?

 今の南町は外国の貿易商が引っ切り無しに来ていて、とても景気が良いので、悲惨なものは見ないですむだろうけど。

 

 翌日、道具屋を漁りながら南下する。わが国で持ち帰り物が売れるとの評判で、入ってくる量が多いそうだ。

 市場大通りで額冠を買い漁ったのが知られていて、未確定の額冠をどこの店も出して来た。

 菱形三連の、攻撃力、筋力、瞬発力が上がる地属性烈士の額冠が出たのだけど、瑛晶のおでこに貼っても落ちてしまう。

 属性が合っているのに装備出来ないのは、始めて見た。

 多分攻撃力が足りてないのかな。


「精進しやす」


 と、しょぼんとされてしまった。

 武人なら誰かが装備出来るだろうけど、軍司令閣下に上げるものでもなし。


 小冠額冠は何だか判らなくともハズレはないので、溜め込んだ金貨を吐き出すつもりで孫にやっても良いと言う気持ちで大人買いした。

 そんな気持ちでいると手金庫を売っていて、さらに資金が増える。

 鋼銀も魔物素材も外国が欲しがるので、今の所いくらでも売れるので金貨は増えるばかり。


 紅雀のいる店、東秘泉に早目に着くと、女達が押し寄せて来た。

 近所に今夜十二歳になる子が二人いると言う。男女各一名。

 男の子は父親と同じ斥候の出来る採集人、女の子は紅雀のように芸楽師になりたがっているそうだ。

 二人は袖無しの貫頭衣を着てやって来たが、女の子は店に入ると脱いだ。男は脱がない。脱がなくていい。

 女の子は火属性で名は倖蝶こうちょう、男は風属性の利鷹りよう

 二人の意思を確認した後は、やる事がないので片手に一杯金貨を出して女将に渡し、貸切にして兄上達の敵娼と部屋を決めてもらった。


「馴染みが来たら入れても良いが、ここで二人と日越えまで居たいが」

「そりゃもう、お好きになさって下さい」

「その後は部屋に行くが、吾の部屋は広いのが必要だが、どのくらいのがある」

「殿様部屋って、十人でも楽に一緒に寝られる部屋がありますよ」

「いくらだ」

「十金ですけど」


 女将に古金を一枚渡すと、兄上が余計な事を思い出す。


「手金庫買ったよな」

「はい、こちらに」


 出して見せると、女達が寄ってくる。


「倉庫暴きの旦那の手金庫開けだよ!」

「外の者が入って来ないように扉を閉めろ」


 さすがに通り掛っただけの奴にまで配布する気はない。

 女将が貸し切り札を一枚ガラスの扉の内側に掛けて、カーテンを引いてから手金庫に手を掛ける。

 大して時間を掛けずに開けられるようになった。


「では、瑳弥殿から」

「頂戴致します。何時もながら、見事なお手並みです」


 順に配って行く。子供二人にも渡す。倖蝶は黙って渡された純金を見ているが、利鷹は吾を見た。


「旦那、これ、何時もやってるんすか?」

「偶に屋敷でやっている。他に芸がないからな」

「これって、倉庫暴きの術技なんすか?」

「倉庫暴きと言う術技はない。吾のは墓荒らしだ。隠された宝を一つ残らず見つけ出し、根こそぎ持ち帰ってしまえる能力だ」

「なりてえ! 墓荒らしになりてえ!」

「おう! その思いを抱いて十二になれ!」


 盛り上がってしまったが、これから夕餉である。

 エントランスに全員座れるだけカウチベッドを並べ、テーブルを置く。

 最低でも一トンの収納を全員が持っている世界では簡単な事。

 適当に飲み物とつまみを出してもらい、だらだらと仕出しを頼んで行く。

 食べながら利鷹の話を聞いた。幸蝶は能力の高い男に近寄って売女でもいいとならないように、母親と女将に隔離されている。


「こっちはお袋が子を欲しくなって客に種をもらって産んだ子なんで、親父は顔も見たことがねえんですが、斥候の出来る採集人だったそうで。そんで、軍に付いて行ける採集人になるつもりでやした」

「墓荒らしは採集の変り種のようだから、なろうと思ってくれ。この瑛晶は授かったのは躯拾いだったが、大物を掘り当てて死体掘りになった。墓荒らしでなくともがっかりするな」

「へい」


 後は特に話すこともないので、万が一寝てしまっても良いように、二人に三つ揃いを付けておく。

 倖蝶は瑳弥殿に頼んだ。

 だらだらと宴会を続けながら時間の経つのを待った。

 先に声を出したのは倖蝶だった。


「なれた……癒しの芸楽」


 瑳弥殿が三つ揃いを回収して連れて来てくれる。

 この後は吾が担当になる。

 女達がやった、よかったと騒ぐが、一人利鷹が静かだ。

 三つ揃いを回収しながら聞いた。


「そちは、どうだ」

「宝探しっす。宝を探し出せる、らしいっす。どうすりゃ、いいのか」

「かなり吾と似ているぞ。使い込めば能力は上がる。どうだ、一緒に来るか」

「いいんすか! おねげえしやっす! お宝のある所なんざ、ガキ一人じゃいけねえ」

「道具屋の持ち帰り物で試せるが、この術技は大人に利用される。悪党に係わったら盗品の選別とかさせられるだろうな。そちは吾の弟子にするが、この先授かる宝探しを国に保護してくれるように頼んでみるつもりだ」

「すげえ! わけわかんねえ!」

「授かった術技で人生が変わるのはよくある事だ」


 興奮が治まって、もう寝ましょうとなったのだが、誰が利鷹と寝るかで女達が揉めた。

 吾の貸切りで花代も払い済みなので好きな女を選べと言われたのだが、他所の店なので誰が良いのか決められない。

 じゃあ、これが相手をしてやろうかと女将が言ったら、利鷹が頼んだ。

 お袋みたいのがいいんだと選ばれなかった女達に揶揄されたが、好みの女を抱いて何が悪いと言い返した。漢である。


 諸事情で朝が遅くなったが、近衛府に墓荒らしの下位互換と思われる術技を授かった者が出たのと、検証に行くのを報告しておく。

 市場大通りで昼餉にして、夕餉前には帰ってくると、女将に居続け分の金貨を払って出発した。

 市場大通りで吾を知らない道具屋はいない。

 半分引き攣った顔の店主に出迎えられ、銀の小物を利鷹に選ばせて見ると、只の銀と付加のある物に分けられた。

 揃いになる六種類を全部買い、指輪を一つ収納させた。


「なんか、判りそうなんすけど、ああ、これは、風属性の敏捷の指輪っす」

「おお、確定出来るか。疲れはあるか」

「特に、ねえす」


 とりあえず吾の孫受けくらいにはなれそうな感じである。

 次に百あった薬筒を選ばせた。


「十七、三十二、八十七っす」


 三つ買って、三十二と八十七を持たせる。


「これの違いは判るか」

「判んねっす」

「吾の逆か。吾は最初の内は価値の高い物しか判らなかった。八十七を収納してみろ。開けられるか」

「これ、収納の中で開くんすか」

「こんな感じだな」


 十七と三十二を収納して開けてみせる。どちらも五級が入っていた。


「手金庫開けは本当に芸でやって見せている。収納の中で開ける方が楽で早い。からくり箱は開けられなくともよい。只の銀と少しでも価値がある物を分け、一つずつでも確定出来れば、八つ揃い三つ揃いを探し出せる。大いに国への貢献になる」

「ほんとにお国に守ってもらえる者になれるんすね」


 店の遠話器を借りて近衛府に報告すると、最低でも治癒師同等の十位の中、近衛遊軍伍長の価値はあると言われた。

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