第25話 東奔西走、南北にも行きます

 近衛府に出仕して確定したら、金の地属性理力の指輪が二つあったので、金物掘りに上げるために貰う。

 父上の屋敷に行き、姉さまに迦夜を加工してもらって、お土産にくばって、その場で中物を匂った。

 匂いなんて表現の仕様がないが、香紫檀とは明らかに違う。甘い匂いでもバニラとラム酒の違いみたいな。

 気分が落ち着くダウン系な感じは同じ。

 これ嗅がせると姉上が静かになるのが何より。

 父上の三位昇格が確定したとの事で、お祝いに迦夜の上物、極上物を全部差し上げた。

 戦略物資になるだろうと思う。

 誰に上げていいか判らないし、吾が持っていても使わない。香紫檀も屋敷で中物をたまに使うだけ。


 東門に行くと、こちらでも発掘人の子に三つ揃いを着けたいと言われる。

 魔窟前を野営村にしてあるので、ここにも常時発掘人が居る。西門と同じに四組渡した。

 金物掘りに指輪を渡して近況を聞くと、何の問題もなく順調だそうだ。

 探し当てた所を一すくい掘って、後は大人に掘らせている。

 無理をさせないように仕事は半日しかしていない。平常勤務である。


 西門に行くと暫く帰って来れないので、西門からの移籍女中組を中町のアクセ買いに連れて行った。

 軍の確定や南門のお土産で属性が合った物は渡しているが、相性を見て買ってやってなかった。

 殿様とお買い物が良いらしい。

 女中頭に良知の小冠が当たって、殿様にお仕えする者に相応しい姿になれたなどと、訳の判らない事を言っていた。


 良い素材が取れるはずなので、姉さまと彪玉も連れて西門に行った。

 西門にも発掘人は常駐しているので、師団長(女性の場合)や正室、師団長の継嗣の正室、女性の継嗣に三つ揃いを進呈する。


「魔窟前だけでなく奥も長期野営が可能になったので、採集人も増えた。採集人の子にも三つ揃いを着けてやりたいが」


 守護将閣下にお願いされて、旅団長の正室まで担当者を増やした。

 その夜、採集人の該当者が名乗り出た。ついでなので吾が立ち会った。

 得た術技は、木の後ろや葉陰など見えていない物も感知できる「緻密採集」だった。

 

「守護城に泊まらねばならぬのを恐れて、名乗り出なかった者もおろう。これからは増えるのではないか」


 守護将閣下に言われて、更に五組三つ揃いを差し出して、好きに配ってもらう。

 赤の他人の子と夜中過ぎまで起きてなきゃいけないんだから、楽な仕事でもないはず。

 師団長に上げても駄目なんじゃないかと今更気付いた。

 寝室に入って、瑳弥殿に相談した。


「巧知木の採集が終わったら、もう一度南町に行かないといけません。銀の小物が残っているのはあそこだけでしょう」

「はい、行きましょう。あそこはとても楽しいです」


 即座に肯定される。新婚旅行的で良い雰囲気だったよね。

 いつも付いて来ている茉莉花も、前回行けなかった祥泉と佳楊も、凄く楽しい処だと話だけ聞かされていた瑛晶も、行きたい行きたいになって興奮する。よせ、五人掛かりで興奮するな!

 

 深夜残業からの徹夜で、翌日の魔窟行きの車の中で寝た。

 魔窟に着いて、一箇所だけ採掘する。発掘人に理力の指輪を十個付けさせてみたが、感知出来なかった。

 金物掘りならいけるかもしれないが、もう少し増えないと東門が手放してくれない。

 穴を開けて瑛晶に掘らせ、出て来た鋼銀を収納させてみた。


「これを見つけろと言うのではない。色々やっても害のない事はしてみようと思う」

「あいっす」


 吾も後から死体暴きが生えたのだから、何か生えて来ないとも限らない。

 日にちではなく、五百個掘れたら奥に行く。

 奥の野営地には、主のようにお義母上がおられる。


「来られたか伴侶殿。魔獣は粗方討った。明日は行きたいところまで行ける」

「魔物が寄せる波があるので、今奥に行った方が安全なのですね?」

「然り。しかし、これ程容易にあの深さまで押し込めるとは、思わなんだ」


 いや、いけると思わない所まで行っちゃ駄目でしょ。

 行っっちゃったものはしょうがないので、行けたとこまで突撃した。

 左斜めの奥にかなり大きいのがある。


「瑛晶、北西方向行ってみてくれ。危なくない行ける範囲で出来るだけでかいの探して」

「あいっす」


 警護大隊に護衛を頼んだので、お義母上が何かあるのか聞きに来た。


「瑛晶に先入観を与えたくないので、結果を見て下さい」

「判った」

 

 それ程待たずにに瑛晶が立ち止まる。


「なんか、でっかいの、あったす」

「一人で掘れたら掘ってくれ」

「あいっす」

 

 付いて来た発掘人に周辺を適当に掘らせて待つと、大声で呼ばれた。


「すっげえでっかいの、出たっす」

「収納してみろ」

「あい、へ?」

「どうした」

「コレの術技が、死体掘りになりやした」

「よし! やったな。検討は後にしよう。そっちを任せる。三人行ってくれ」

「おいっす」


 おっさんはおいっすだね。


「で、なんの死骸だった?」

「古五角山羊っす」

「あれか。こんな所まで迷い込んで、山へ帰れずに野垂れ死んだか」


 凶暴化した魔獣は人間ばかりを襲うわけではない。

 通常の捕食する側とされる側の戦いも起きる。

 集団で狩をする大型犬サイズの、剣牙ネズミの牙も幾つか見つかった。


「旦那、これもお宝っすか」


 傍を掘っていた男が手首の半分位の太さの曲がりくねった枝を差し出す。

 収納すると芳華蘭の枝だった。吾ではそれしか判らない。


「名前からすると香木だな。傷つけないように掘ってくれ」

「おいっす」


 死体掘りは探索範囲は死体暴きより狭いが、躯拾いよりは小さい物も感知出来る。

 一人で見つけて掘れるので、こちらが完成形か。所詮吾はプロトタイプだろう。

 墓あらしの完成形は墓掘りになるのだろうか。

 牙一本は探知出来ないようだが、理力の指輪十個付ければいけるかもしれない。

 渡してしまうと返してくれと言い辛いので試さない。

 上げるなら、今までの貢献を考えると銀物屋だろうと思う。

 次の市場大通り発掘で揃ったら二人に上げよう。

 瑛晶が死体掘りになったのを国に報告すると、二格上がって九位の中、近衛軍曹頭に昇格した。


 姉さまも芳華蘭は知らなかった。

 が、収納すると香木だった。

 鑑定は誰かが過去に知っていたものなら、現在知られていないものも名前と用途が判る。

 錬成師は名前が判っている材料は、錬成方法と用途が判る。

 兎も角錬成してもらう。


 芳華蘭は皮の部分が粗で、中は上と極上だけだった。

 お義母上と吾の関係者だけで、成形で余った上物を嗅いでみた。

 火を点けると爽やかな芳香が広がる。

 最初に口を開いたのは祥泉だった。


「これは、頭の中の疲労が消えて、思考が明確になります。香紫檀や芳華蘭は一日の終わりの癒しになりますが、こちらは、仕事の疲れを取り、更に仕事を続けられます」


 アップ系か。ビタミン剤じゃないやつ。

 癒しの効果を持つ物は、今のところダウン系しか知らない。

 いや、待てよ、紅雀のやらしいおどりは癒し系でアップ系かも。

 しかし、あれ見ながら仕事は出来ないよな。


「がんばってくれるのは嬉しいが、体に無理が掛かるぞ。どうしても仕事を片付けなければならない文官には有効か。精神的な疲労だけの仕事となると、鑑定の疲れが取れるな。これも失われた知識か。姉さま、お支払いは如何程でしょうか」

「これはいらないから、古金で頂戴」

「承知しました。中物がないので、皮で匂い袋を作って下さい。お土産にしたいのです」

「それくらいはついでにやっておくわ」


 危ない気がするので、一般放流は止めておく。

 しかし、このちょっと嗅ぐと頭がすっきりして仕事が続けられる匂い袋は、事務系の間で直ぐに評判になった。

 のちに砂糖レベルの依存性があるのが発覚したが、行政側が使用しているので禁止はされなかった。

 四級回復薬で治るのだが、五級で治らない時点でビタミン剤ではない。

 治っても使用するので、治ったことにもならない。

 数がないのを補うために、匂いが薄くなった皮に上物の粉を混ぜて錬成すると、再生が可能なのも判明する。

 匂いのしない紙と上物を錬成しても作れるので、増えて行った。


 非常手段としても、仕事を継続可能な状態で精神的疲労を取れる香木が見つかった。

 今までよりは、無属性理力物は見つけやすくなる。

 後は墓荒らしもしくは墓掘りを授かり易い者がいるかどうかの検討か。

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