第24話 下位互換量産化計画

 一か月の雨季が終わり、遠征隊の帰還前日に西門に帰った。

 替わって逆侵攻に出撃する留守番組に手に入った武器や金装備を渡しておく。

 翌日、元気な兄上一行が帰って来た。

 おでこの額冠をぺちぺち叩く。


「これは、嬉しかったぞ。前回行った時にはなかったのかな」

「相性で選んだので、選から漏れたのかもしれません。皆様、こちらの物を選んでみて下さい」


 護衛大隊の六人の前に額冠を並べて見せた。全員小冠しかしていない。

 属性が合っていれば装備は出来る。相性がぴったり合う小冠より、まあまあの額冠の方が付加効果は高い。

 額冠は確定品を将官が買うのが普通で、大佐で持っているのはよほど裕福か家宝とかだった。

 周りが凄く羨ましそうだけど、どうしようもない。額冠は配布するほどはないんでね。


 そのまま一緒に近衛府に行って、軍司令閣下の秘書官の人に知将の額冠を上げる。


「普段お世話になっているお礼です」

「本職の統率の額冠より見た目がいい。具体的に、どのような世話をしていたのだ」


 近衛軍司令閣下、拗ねないで下さい。


「地属性は他に猛将の額冠がありますが」

「色々と指令に係わる能力が落ちるので、全体の士気に影響が出るので駄目です」


 だから、閣下、拗ねないで。

 兎も角、今日来た用件を言う。


「良泉洞(銀物屋の屋号)がいつ来るか判りませんか」

「明日来る予定です。用がおありでしたら、呼びますが」

「いえ、急用ではありませんので、明日まいります。銀物の確定はその時致します」

 

 父上の屋敷に行き、お土産として家人に合いそうな小冠を選んでもらう。

 姉上のお土産がなかったので、手金庫の開け芸で勘弁してもらった。一人十枚配布。

 自分の屋敷に漸く帰ってきて、寝る。4人掛かりか。負けるものか。


 翌日、軍司令閣下の執務室で待機していた銀物屋に、金の指輪を十個渡す。

 勿論貸すだけ。吾のチート能力を持ってしても十二しか集められなかった。


「吾に何かあった場合に備えて、吾の代わりになれる者を見付けたい。全部地属性の理力だ。それを付けて、只の銀を見分けられるか試してくれ」

「はい」


 指輪を嵌めて、溜まっていた物と自分が持ってきた銀物を見据える。


「判ります!」


 慣れた手つきで素早く半分を除けた。


「今まで通り、良い物とそれほどでない物の区別は付くか」

「はい、分けますので、お確かめください」


 吾が見ても同じように分けた。

 半分の四分の三の、それほどでない物だけ収納して、三つ揃いが一組出来る。どちらも板の二の腕輪と腕輪が余った。

 閣下が頷かれる。


「鑑定を三分の一程に絞れるのか」

「左様です。鑑定がもう少し楽になれば」

「それが一番問題だがな」

「魔都に、何かあると思っています。後は、発掘人に指輪を付けさせて鋼銀が判るか、発掘人の子に八つ揃いを付けて墓荒らしか死体暴きになるか、ですね」

「鋼銀はいつ試す」

「逆侵攻で銀塊の谷と腐れ谷に行きます。それから東で金掘ってからでしょうか」

「なれば、試しやすいのは発掘人の子か。八つ揃いは持っているのだな」

「はい、こちらに」


 執務机の上に出す。

 閣下が嫌いな虫でも見るように仰け反った。


「そんなに気軽にだすな! そなたにとっては、選った銀から出ただけの物であろうが、当主になる者は死守せよと親に言われて渡される物なのだ」

「申し訳ありません」

「いや、怒ってはおらん、魂消ただけだ。王族でも家宝だからな。他人に見せる物ではない」


 西門の宴会で出しました。


「はい、気をつけます」

「ま、まあ、それはよい、では発掘人に声を掛けてみるか」

「お願い致します」


 八月中に十二歳になる子供を募集したのだが、軍に係わっている発掘人限定のせいか、応募は二人だけだった。

 銀塊谷予定と腐れ谷予定一名ずつ。誕生日の一日前に屋敷に来てもらった。

 先に来たのは銀塊谷予定の両親と息子。庶民は一夫一婦が割といる。

 親は二人とも発掘人でごつく、背の高いドワーフの夫婦みたいなんだけど、息子は身長の伸びに筋肉の発達が追いついていない感じでひょろい。

 

 前日から客間に泊まらせて、日当として三人に古金一枚ずつ払った。

 袖なしの貫頭衣を着せて、日が変わる一時間前に八つ揃いを装備させた。

 カウチベッドに座らせ、両隣に両親、吾は横で見守る。


「ありやとらしたあ!」


 息子が居住まいを正して誰もいない正面に深々と頭を下げた。


「授かったか」

「へい、殿様、金物かなもの掘りでやす」

「何が出来る」

「金銀を見付けて掘り出せるっす」

「見付けて掘れるんだな、金も」

「そっす」


 東門に連絡したら、五日後には魔窟前の野営村に入れると答えが来た。

 親子三人の面倒は東門が見てくれる事になった。金製地属性理力の首飾りを渡して送り出した。

 三日後に腐れ谷予定が、こちらも男女で娘を連れてきたが、母親は採集人だった。

 滞りなく夜が過ぎて、授かった術技はむくろ拾いだった。魔物の死骸を感知し、掘り出せる。

 感知特化の吾より感知力は低いんじゃないかと思うが、実際にやらせて見ないとなんとも言えない。


 両親は予定通り腐れ谷の民間エリアで発掘するが、躯拾いになった娘、瑛晶エイショウは吾に同行させる。

 庶民なら術技を授かったら、両親とは違うものなら同じ術技を持つ者の下で修行させるのは普通。

 来た時には操り人形みたいな動きだった瑛晶も、逆侵攻の仕度をしている内にすっかり打解けた。


「なあ、コレ、殿様の弟子だよな」

「そうだな。何か教える訳でもないが」

「んじゃ、コレは殿様を師匠って呼んでもいいんだよな」

「ああ、いいぞ」


 術技は使えば育つのだが、仕事を分けてやるのが師匠の仕事になる。人脈でもある。


「相手のいねえ女弟子は、孕まねえ年なら師匠の寝屋に入れてもらえるんだが」


 まさか、これを使う時が来るとは。最終装備金製精力物八つ揃い。

 術技的にも瑛晶の子が死体暴きを継承し易いのではないか、と周囲の思惑もあって情人に加えられてしまった。

 

 逆侵攻が始まり、吾はまず銀塊の谷に旗を立てる。

 瑛晶にも探索させたが、何も感じなかった。理力の首飾りと指輪二つをさせても変わらない。

 金属は感じなくてもいい。

 腐れ谷の入り口には、すでに野営村が完成していた。

 翌日、瑛晶の両親を民間エリアに置いて、奥に進む。吾が探索して感じた場所で探させると、同じ場所にあると言う。

 雪掻きでもしているように掘ったら、鳥の足の骨が出た。


「なんすか、これ」

「収納で判るのではないか」

「えっと、あ、千枚鷹センマイヨウの足の骨っす」

「よし、そちらにもあるんだが」


 五腕ほど斜め横を指して見たが、判らなかった。掘り出すと一指強の牙だった。


「こんなちっこいのも判るんすね。あ? 死舌トカゲの牙?」

「腐ったみたいな色の舌のトカゲだ。集めれば剣でも刀でも槍でも、好きな形の鋼銀同等の武器になる」

「やっぱ師匠はすっげ」

「そちは今日が初日だからな。これからいくらでも伸びるぞ。後は吾が探索するので、掘り出してくれ。そっちも伸ばしておこう」

「あいっす」


 北の強い魔物が空白地帯に下がって来る限界まで居続けて、超大物こそ出なかったものの、去年より更に奥まで踏み入り、十二分の収穫があった。

 躯拾いは有用な術技なので、瑛晶は治癒師と同じ十位の上、近衛遊軍軍曹になった。


 吾より探索範囲が狭く、ある程度大きくないと感知出来ないが、掘り出しも術技で出来るので、個人営業向きである。

 良い物を得ようとするなら危険な場所に行く必要があるので、誰でもなりたいと思う職業でもないが。

 魔窟内を軍が掃討してから掘れる金物掘りの方が安全か。

 香紫檀とは別の香木迦夜の枝もあったが、瑛晶は判らなかった。

 魔物素材でも金属でもないお宝も存在する。

 

 金物掘りや躯拾いを増やしたいが、三つ揃いを預けられないか、北門に相談した。ここは発掘人が常時係わっている。

 北門としても、真北の魔窟の採掘がリポップに追い付いていないので、金物掘りは欲しいそうだ。

 守護将閣下のご正室、ご側室、継嗣殿のご正室に三つ揃いを差し上げ、希望者に着けてもらう事になった。

 三つ揃いが自分のものになった女性陣が、むちゃくちゃ喜ぶ。

 吾の死後はどうなるか判らないが、収納に死蔵しておいても一人も増えない。

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